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ジェヴォーダンという魔物②

あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。

「図書館からソウルイーターの文献とライーカ大陸についてまとめてある書物を持ってきて」


 賢者の塔の係留場で”生ける錘”に捕らわれたヴォーダン、その前で座り込むクシルは近くに居たエリの使い魔に図書館へのお使いをたのむ。


「エリ、僕は”情報収集(データログ)”でライーカ大陸の魔獣領域をざっと早送りしてみるよ。ソウルイーターだと仮定するとそこでシェナスの接触があったはずだ。シェナスが大賢者(ここ)と繋がり持とうとし始めたのが1年半前ならそこまで遡らなくてもいいだろうし」


 そう言ってエリから預かった6年分の情報を遡っていくクシル。まずはソウルイーターである事を確定するために魔獣領域へと続く監視所周辺の記録(ログ)を読んでシェナスの動向を探っていく。


 誰が行動しそれによって何が起こったか、その際の会話の内容がまとまっているだけの記録(ログ)。今回であれば監視所で監視員が対応した結果と、聞いた事が文字列として羅列されているようなもの。シェナスが偽名を使って居るならば、そして監視員が見抜けないで居るならばそれは日常として流されていく。


 だが目の前に居る魔物は特殊過ぎる、何かしらの話題に上がってもおかしくないとクシルは出来る事から進め始めていた。


「勝手に家の子たち使わないで下さいよ……」


 剣聖に同行させていた使い魔に賢者の塔の内部で起きた事を端的に伝えた。

 先ほど賢者の塔の下に落ちたシェナスの後始末を剣聖に依頼するよう伝えたエリはクシルにため息で返す。

 恐らく遠回しに”邪魔しないでね”という説明なのだろうがいつもの事ではあるので深く考えないようにして、賢者の塔を復旧するべくエリは使い魔たちに指示を出していく。


「剣聖もだいぶ回復してるらしいですが、迎えに行かないと」


「そうだね」


「ベーヌちゃんとフレイ君にポワンシーちゃんまで居たとは驚きですね」


「うん」


 賢者の塔に登って来た時、クシルはすでにヴォーダンに夢中だった。剣聖の事を使い魔からの報告で聞いたエリはクシルに”報告してから没頭しろ”と遠回しに声をかけるが返って来るのは生返事だけ。

 とにかく、賢者の森に居るならば今後の話をするために賢者の塔へ来てもらう必要があるだろうと考え、エリは発動していた魔力感知の範囲を広げ意識を向ける。


 シェナスの魔力反応に自身の”生ける錘”の反応、そしてその周囲にベーヌ、フレイ、使い魔の魔力を見つける事は出来た。

 だが剣聖とポワンシーの魔力反応が見当たらない。近くには居ないがどこに居るのかと使い魔に問い合わせようと考えたタイミングで逆に使い魔からの連絡がやって来た。


『御主人様! シェナスが居ません! あるのは……御主人様の魔法の重りがついた左腕だけです!』


 焦りと動揺が混じった使い魔の報告にエリにも動揺が伝播する。

 魔力の反応だけを見ればシェナスは自身の魔力と共に賢者の森に落ちて動かないでいる。


「シェナス本体は!? 魔力感知が効かないなら動体感知!」


『やってます! ですが気が付いた時にはもう動体感知にも引っかからず…!』


「剣聖は!? 剣聖とポワンシーちゃんの魔力反応がないの!」


『今向かっています!』


 自身の魔力感知にも引っかからなかったのだ、使い魔に悪態はつけず奥歯を噛むエリ。”情報収集(データログ)”による遡りを開始しようとした瞬間、賢者の森に閃光が上がり空気が震える。


 光にほぼ遅れる事なく空気を裂くパーンッと言う炸裂音が響き賢者の塔の係留場にドゴンッと重く低い音が天井に落ちる。




「シェナスとポワンシーちゃんは見つけたわ、あなたは剣聖と合流して行動!」


『了解しました』


 何かが落ちた天上からはバチバチッと瞬間的に空気を紫電が裂く音が鳴り響く。


「保険と奥の手は準備しておくものだろう? 」


「折れない事は大事だけれど、落ちたものね」


「なんとでも言うがいい」


 自分自身を雷電と化す雷魔法。だが、シェナスは魔力操作ができていないのか完全に雷電と化すことができないようで、人間としての性質が残っている部分が自身の雷電のエネルギーにより炭化しはじめていた。

 そして、その雷は人質として捉えられ気絶しているポワンシーをも蝕み焦がす。しかしその影響はシェナス程ではなくポワンシーに雷抵抗(レジスト)がかかっているのか傷の広がりは遅い。


「ポワンシーちゃんを離しなさい! 」


「おや、剣聖とも仲良く話していたようだが君とも顔見知りだったのか? いや……一方的な覗きだったかな? まぁそんな些細な事はどうでもいい。君が要求できる立場だと思うか? 」


 黒く焦げ始めた二本の指と空気を裂きながら白く光る手のひらでポワンシーの頬を軽く撫でる。自身のではなく外部の電気信号が強引に神経を通った事で筋肉が引き攣りのけぞるポワンシー。


「それでは、ヴォーダンの拘束を解いてもらおうか……おい! 小僧お前も動くんじゃないぞ」


 シェナスは目ざとくも、ヴォーダンを拘束している魔法の向こう側に居たクシルに声をかけ動きを牽制する。


「私がそんな要求に乗るとおもう? 例え彼女が危なくなろうが関係ないわッ!」


 だがその一瞬を逃さず、シェナスの雷電化している箇所を狙い土魔法を放つエリ。


『――――――』


 しかし発動された魔法は狙いを大きく外しシェナスの後方へと飛んで行く。

 自分に有利に進めようと攻撃を放ったエリだったが必中の攻撃が外れた事でポワンシーを更に危険な目に合わせてしまった今の状況に顔を青くしていく。


「あぁ……残念だ! 大賢者がそんなに薄情だったとは……彼女が危うくなろうが私を攻撃してくるだなんて、震えて彼女の護符を落としてしまいそうになるなぁ」


「おい、エリ! ―――――! 」


 後ろからクシルの声が聞こえてくるがエリの意識はシェナスの右手に集中していた。

 その右手がポワンシーの首元から小ぶりの魔石で出来たネックレス型の魔道具を取り出している。恐らくあれが雷抵抗(レジスト)の護符なのだろうとエリはシェナスを睨む。


「この子の時魔法はヴォーダンもまだ持って居なくてな。候補として事前に賢者の塔に来てもらっていたのだよ。いやぁ今回の基礎訓練は大収穫だったよ。だが……大賢者の選択で死んでしまうとは悲しいものだよなぁ……」


 奥歯をギリギリと食いしばり青い顔のままシェナスを睨むエリ。そんなエリに余裕の表情でシェナスは声をかけた。


「そうだ良い事を教えてやろう。我々の研究ではな、ヴォーダンが記憶を読む事が出来る対象は別に生きてなくて良いんだ……魔力さえ回収できればな! だから君がどんな選択を取ろうが彼女の行先はヴォーダンの餌! 君の選択で生きようが死のうが変わらないならば、選択する君は気が楽だろう? 」


 シェナスはわざとらしく、演技をするようにねっとりとした物言いと、にやりとした目でエリを煽り続ける。

 ポワンシーはただクシルと同室になっただけだ。自分とは何もかかわりのない相手。頭では理解できているのに感情がついていかない。もう目の前で誰かが死ぬなんてまったくもって御免なのに救える人間を救えないでいる。


 青い顔を向けていたエリも次第に顔を赤く、クシルが賢者の塔に勢いよく入ってくる前の感情が蘇っていく。シェナスに、魔導士ギルドに対する怒りが不快感が今にも爆発するほどに膨れ上がっていく。

 そんなエリに対しシェナスは目を細め、やっとの思いで成し遂げた自らの技が大賢者をも崩すことができる事に歓喜し口角が上がっていく。煽りに煽った、自分自身の声しか届かない。そんな状況にシェナスは少し前に自身に向けられた冷たい目線を返すように、エリを見て声をかける。




「……本当にお人好しで、若いな君は!」


「エリ! ()()()()()!」


『――――――』




 魔法は魂に紐づき、記憶を、経験を元に心で制御して行使される。記憶や経験が無ければ発動にも行きつかない。発動しても精神の影響を強く受け、強くもなれば弱くもなる。


 シェナスの狙いは心、荒れた心では魔法はぶれるのだ。


 クシルの叫びを聞いて我に返った時には遅かった。気が付けばいつの間にか”生ける錘”の牢獄のすぐ隣にまで下がっていたエリの足首を心が乱され魔法がぶれた瞬間、その一瞬を狙った手が掴む。

 重りを強引に解き片手だけ自由となったヴォーダンが自身を拘束していた魔法にエリを引きずり込んでいく。


 クシルも目の前でヴォーダンの動きを見ていたが、シェナスの魔法……というよりは魔技に対して意識を裂いていたため反応が遅れる。ヴォーダンへと斬りかかろうとした時にはヴォーダンは自ら魔法の檻に、魔法の使用者エリでしか解く事の出来ない檻に、エリに接触したまま戻ってしまっていた。


「あぁッ――――――――」


 そして接触した事による記憶の抜き取りが……精神干渉がエリを襲う。

おもしろかったら評価、ブクマよろしくお願いいたします。


次回、やっとタイトル通りのジェヴォーダンという魔物が登場します

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