解除
「さぁ! やっと中に入れる気になってくれたかね、歓迎痛み居るよ」
アクアとの魔力ラインを遡り侵食するヴォーダンの魔力。エリに気が付かれ魔力ラインを切断されるがエリのが一足遅かった。結界内に入りエリとの接続点の直前まで侵食した魔力は今度はエリと使い魔との魔力ラインを侵食していく。
異質な魔力による影響か床に付していく使い魔たちの中で一匹の使い魔がヴォーダンの命令に従ってしまう。
”結界を解除せよ”
結界を作る為の魔道具に使い魔が魔力を送っていた事に気が付いた時にはもう遅かった。係留場に風が吹き、トッと音を立て魔獣から降りたシェナスとヴォーダンが賢者の塔のに足を降ろす。
荷物を受け入れる為に係留場は賢者の塔の中でも広い空間となっている。その中心に立っていたエリと端に立つシェナス達、まだ距離はある。
「魔力ラインを切断するのは良い判断だったが……誰かからヴォーダンの事を教えてもらったのかね? あぁそういえば剣聖が倒れる事を見ていたんだったか」
「さあね、教える義理はないわ」
「まぁいい……玩具で遊ぶのも飽きただろう? せっかくだ引きこもりがちの身体動かした方が良いと思うが」
「人をイラつかせる事に関して貴方以上の人を見た事ないわ」
シェナスは変わらず軽口でエリを煽る。心が揺れればそれは隙となる、剣聖同様にヴォーダンが触れることができればいいのだと口撃をくり出し相手を揺さぶる。事実エリに口撃が届いており感情的な様子がうかがえた。
「おほめに預かり光栄だ。ヴォーダンの能力が接触による事はご存知のようだが、それに対してゴーレムを準備するだなんて、いやぁ流石大賢者殿だ! とても良い出来をしている……しているがそれもこれで無力化……いや逆転したと言えるかな?」
ジリジリと詰め寄るヴォーダンが手を上げると今までヴォーダンと戦っていたアクアがヴォーダンの前に立つ。そこには先ほどまでエリの命令を聞いて居たゴーレムの姿はなく、魔力ラインをヴォーダンに浸食され命令権を奪われてしまったアクアがエリに兵装を向ける。
「せっかく対策したというのに自分が作ったゴーレムに反旗を翻されこれ以上大賢者殿に何ができるのか……」
ダダダダダダ
エリから見ると悪意の籠った気持ちの悪い笑顔を向けるシェナス、そして自身の最高傑作が良いように扱われている事への怒りや嫌悪感、不快感が強まっていく。
エリを怒らせてけしかけるという事であればシェナスの策は見事成功しただろう。大賢者に少しでも触れれば良くしかも自身を傷つけたゴーレムを利用してもいいというヴォーダンに対して、決して触られてはいけないエリ、後者のが分が悪い戦いなのだ。
「ほれ……大人しくしておればすぐにすむさ。ちーっとばかし記憶を抜かしてもらってそれだけさ」
ダダダダダダダ! バーーンッ!!!
そんな分の悪い戦いに割って入る様に係留場の扉が開く。
「記憶を抜くとはどうやってやるんだ、貴方が検証したのか!? その魔物と意思疎通できるのか!?」
先ほどから聞こえていた足音がどんどん近づいていきバンッと勢いよく開いたドア。その先に居たのは漏れ聞こえた声に対して条件反射的に質問を投げかけ、賢者の塔を過去最速で登り切ったクシルだった。
「なっ!? お前は剣聖の弟子? どうやってここに……!」
「ししょ……クシル君……」
クシルの登場に一人は驚嘆、一人はため息と相反する反応を見せる。
「おー! ゴーレムにも干渉するのか! という事は……魔力か! 魔力を伝ってエリの命令権を上書きしたのかな……!」
二人の反応は一切気にせず見たままの現状を推測し情報を補強していく。ワクワクという擬音が身体から飛び出ているかのようなはしゃぎっぷりに先ほどまでの怒りや不快感がどこかへと消えて行ったエリ。
「ほら、クシル君検証も実験もまずは確保してからです。私が相手してたんですからね後から来ても順番は譲りません! クシル君はアクアと後周りの子たちをお願いします」
「わかってるよ! ごゆっくりどうぞ」
「いいえ、すぐ終わります」
自身がかぶる三角帽をかぶり直しクシルに声をかけるエリ。怒りや不快感の感情は消えていったが記憶は消えない。先ほどまでの煮えたぎる怒りではなくこれまでの無礼な態度や非礼に対しての冷めた凍りつくような怒りをシェナス、そしてヴォーダンにぶつける為に先手を打ってクシルに釘を刺しておくエリ。
シェナスからすればただ一人魔導士崩れが増えただけ。だがクシルの登場で大賢者へと向けていた口撃が失敗に終わったのだ。
「大賢者とも知り合いだったようだが小僧が一人増えた所で何ができる! ヴォーダンやれ!」
ヴォーダンとアクア、大賢者とクシルの二対二となったが優勢は揺るがないとシェナスはヴォーダンに指示を出す。シェナスの頭の中では、活きのいい小僧を人質にして大賢者を無効化する事まで考えられていた。
だがヴォーダンは違った、エリの冷たい魔力に最大限の警戒を向ける。
最初に動いたのはクシル、剣を抜きまっすぐヴォーダンに向かうと風魔法を放つ。轟音と共に前方から向かってくる圧を身体で受け止めるヴォーダンは向かってくる相手に対してカウンターの準備をする……が魔法を放った相手は向かってこない。
風魔法はヴォーダンに対しての牽制で、魔法に意識がいったのを見計らって標的をアクアに切り替え懐にもぐりこむと超至近距離からの風魔法でヴォーダンとアクアを分断する。
「これで良いんだろ」
「ありがとうございます」
突っ込んでくるクシルに肩透かしを食らったヴォーダンはその後ろで急激に高まる魔力に意識を戻す。何もせずにやらせるかと言わんばかりに魔力を練りエリに対して火の槍を放つヴォーダン。
「だいたい魔法を身体で防ぐなんてしないのよ」
自分の持つロッドに魔力を溜め込みながら、空いていた手で魔力障壁を張るエリ。ヴォーダンが身体を使って強引に受け止めた先代産ゴーレムの魔法を再現した槍がエリに向かってくる。
並みの魔導士が張った障壁であれば瞬時に破られる程の熱量を持った火の槍はエリの張った障壁とぶつかる。だが火の槍と障壁は轟音を立てる事はなくエリの張った障壁に触れた火の槍の先端から魔力が綻んでいく。
エリが言うように魔法を生身の身体で受ける人間はそうそう居ない。魔法は魔法で受けるのだ。そして魔法を、魔術を解析して反転させるような芸当を持つ人間はこの世には二人しかいない。
火の属性が消え槍の形を模した魔力も解かれそよ風がエリの髪を横切った時、十分に貯め切った魔力を使って魔法を放つ。
[大賢者は”水魔法5:生ける錘”を唱えた。大賢者の”生ける錘”]
それは魔法で作られた水。無色で無臭、透明なそれは魔力で練り上げられた高密度の液体であり不定形の重り。高密度と言えど魔力で作られそれは術者にとっては簡単に操作できる液体。塊となり速度を与えられヴォーダンに向かって放たれる。
ヴォーダンがだんっと足踏みをして土魔法で係留場の床を操作し岩の壁を作り上げるが密度の高い液体すなわち高質量の液体は不定形の鉄の塊のようなものなのだ、岩の壁をものともせず貫通しヴォーダンに襲いかかる。
避けるために身体をずらすが意味はない、塊だった液体がヴォーダンを前にして一気に薄く広がる。網のようにヴォーダンをつつみこんだ液体は次第にヴォーダンを中心にして集まっていく。身動きを取ろうとするが体全体に重りをつけられたような感覚で自由が効かないヴォーダン。魔力操作により常に乱回転をあたえられた液体は完全にヴォーダンを包み込み拘束する。
「ヴォーダン!! 大賢者、貴様何をした!」
完全に優位に立っていたと思い込んでいたシェナスはヴォーダンが捕まった事で顔面蒼白でエリを見る。
「ただ捕まえるだけ、殺すだけだと言うならば何通りでもご用意してあげましょう。だけどこの子は今まで見て来た中でもユニーク過ぎる。だからゴーレムを使ってこの子の能力を知る必要があったのよ」
形勢逆転、カツカツと靴を鳴らしながらシェナスに向かって冷たい表情を向け距離を詰め寄る。
「戦ってわかったわ。この子、属性に変換した魔力には干渉できないようね」
「いやー生け捕りとは気が利くね!」
キッとクシルの方をにらむエリは、ちょっと黙っててよという視線をクシルに向ける。戦いながらアクアの魔力を奪い消費させて行動不能にして使い魔たちを介抱していたクシルはその視線を目をそらし避けた。
「これで逃げ場もないのだけど、まだ軽口をたたくのかしら?」
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暁月のフィナーレ前の最後の更新だッ……頻度は落ちるかもですがなるべく更新します…!




