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接触

 賢者の森の先を進み、賢者の塔前のゴーレムを顔パスで進むクシルは上を見上げる。そこにはシェナスと異形の姿と化したヴォーダンと思われる魔物、そして自身とエリが作製したゴーレムが相対していた。

 まだ賢者の塔には侵入されていないようで、懸念であった大賢者(エリ)とヴォーダンの接触は起こっていないようだった。


「待ってろよ~! 僕の仮説が正しいか君の能力を見せてくれッ!」


 知識欲(知りたがり)の権化が、気になって気になって仕方がないヴォーダンの能力。その能力を知る為に登り始めた賢者の塔は結界や罠を解くのにかかる時間を最短に抑え過去最速で登り進めている。

 剣聖の証言を聞き、現状の状況から”魂の干渉”と思われる現象が起きていると仮説を立てたクシルは自身の立てた仮説にワクワクしていたのだった。


 ”(ことわり)を解する”ための転生、その現象がどういった理に則っているのか。そしてもし本当に精霊が、妖異が言っていたように理の外に居るのであれば星の代行者見習いとしては星の運営にかかわる事態。速やかに排除する必要があるとクシルは考えていた。


 そのために何度剣聖を放置して賢者の塔へ向かうか考えたものだが、流石にエリに頼まれたのだ無下にもできず。だが最速で賢者の塔へ向かうために剣聖の前で隠していた|転移魔法”ドアーズ”を使ってまで移動し、そして今剣聖を、賢者の森で出会った元パーティメンバーと元同室の三人に預けて逸る気持ちを抑えることなく賢者の塔を駆けのぼっているのだった。


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「アイツ……また自分の世界に入ってたな……」


「久しぶりだったのに……お話しもできなかったわ……」


「はは……すまないね。この通り私が足を引っ張っているので彼には先行してもらうのが良いのだよ」


「ホントにこれどうしたんですか剣聖!? というかなぜここに居るんですか!? 私剣聖の講義受けたかったんですけど!」


 剣聖を置いて単独で賢者の塔へ向かった事に呆れたフレイとやっと調子を取り戻し始めたベーヌはワクワクしながら走っていたクシルの背中を見送っていた。

 身体機能的にはなにも問題は無いがクシルの言う”魂の干渉”が影響しているのか未だに身体を思うように動かせない剣聖。魔導士ギルドの地下で目が覚めてからまだ少ししか経って居ないのだが、もどかしい気持ちが時間の流れを遅らせ焦りが滲み出ていた。


 だがその焦りはクシルの同室であるポワンシーにかけてもらっている魔法でいく分かましになってきていた。

 回復魔法や補助魔法を得意とするポワンシーが居たのはクシルにとっては僥倖だった。外傷は全て癒している状態なので補助魔法、特にポワンシーの持つ”時”属性の魔法は現状の剣聖にとっては効果的であるはずとクシルからポワンシーに状況を説明し剣聖の事をお願いしていたのだ。


「剣聖! ポワンシーさんの回復魔法は一味違うんだよ。回復するというよりは調子が”戻ってくる”って言う感じで……だからすぐよくなるから! もう少し休んでてくださいね」


 王都に戻ってからクシルを介しての顔見知りという事もありフレイ、ベーヌ、ポワンシーでよく顔を合わせていた。魔導士ギルドのメンバーでパーティを組んではいたが前衛や護衛が必要になる魔導士のみでは進めづらい依頼(クエスト)ではフレイとベーヌが駆り出される事もありポワンシーの時属性の回復魔法を経験済みのベーヌが剣聖の手を握り励ます。


「そうそう! 周囲の警戒は任せて」


「あぁ……ありがたい。クシル君は飛び出していったがまずは是非状況を聞かせてもらいたい」


 三人を見つけると、ポワンシーに状況だけ説明して「なにかあったらソイツに言って!」と丁度エリとの連絡を終えた使い魔を指さし颯爽と賢者の塔に向かったクシルを思い出す四人。

「ハハハ」と乾いた笑いが漏れた事で空気が和らいだのを機に身体の調子が戻った後の為……と状況把握に努め剣聖は三人と使い魔に声をかけた。


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「やはり接触は避けなければいけないようね……わかったわ、あなたはそこで連絡を待っていて……え!? クシル君が賢者の塔に向かった!? あぁ! もう!」


 賢者の塔の係留場、結界の中でエリはクシルについていた使い魔の報告を受けていた。魔導士ギルドで起きた事を手短に、そしてクシルの仮説を聞いたエリは一層ヴォーダンへの警戒心を強め、そしてクシルの暴走にも警戒を強めないといけない事にため息が漏れる。


 結界の外では、先代産ゴーレム”球”と”四角”がそれぞれ幾つかのパーツに分かれて組み合わさって三つの兵装となりエリが作ったゴーレム、”アクア”の背中に張り付くように浮いている。


 ”球”と”四角”の状態では命中率に難があり魔力管理によるタメが発生していたが本来はメイン機体の追加兵装となる事を目的とし、拡張性を持った機体として製作されていたのだ。

 そこに目をつけたエリが試作機で培った技術と自身の考えに近い動きを組み込んで先代の機体と互換性を持たせたのが”アクア”でありエリの最高傑作なのだ。


 先ほどまでのエリ産ゴーレムと先代産ゴーレムの連携はそれぞれの機体が独立して動いていた為微小なタイムラグが生じていたが今度は違う。魔法を片手で受け止められた事に関しても、受け止められるとわかっていれば別の行動がとれるという物。


 アクアが水の刃による接近戦を行い三つの兵装が魔法で牽制を行う。刃を手で受けたヴォーダンの顔面目掛けて一番目の兵装から炎と氷の槍が放たれる。被弾したヴォーダンは距離をとるがすかさずアクアが詰め寄る。今度は手で受け止める刃ではなく超至近距離で魔法を放つ兵装を警戒。二番目の兵装から発射された魔法を防御するが今度は水の刃が形を変えヴォーダンの口の中に入り込む。入り込んだ水の刃は喉の奥から針のように体外に飛び出てくる事でヴォーダンにダメージを与えて行く。


 ダメージを受けたヴォーダンに三射目の兵装から無属性の魔法が放たれる。その魔法は空気を振動させ相手に放つ。ヴォーダンの身体に浸透したその振動は身体を硬直させる、そしてその隙を狙ったアクアが一番目の兵装から放たれた水の魔法、その大きな水の塊を取り込んだ水の大剣をヴォーダンめがけて振るう。


「グアァァァァァァァァァァッ!!!!!」


 声をあげ抗うヴォーダン、力づくで硬直を解き両手で大剣を受け止めるが自身にかけている風の魔法による推力よりも強い力に押され大剣を受けたまま地面に激突する。




「くっ! 何をやってるのだヴォーダン!!」


 良いようにダメージを負っているヴォーダンに対してシェナスが叱咤を飛ばす。次の攻撃に備えアクアが水の大剣を解除し距離を詰めるが


 グッ


 砂埃から腕が伸びアクアの顔面を掴む。掴まれた隙間から見えた相手は腕のみだった異形化が全身に廻り二足歩行で背中に羽根の映えた二本角の本来の姿になったであろう魔物がそこに立っていた。

 上半身に一筆で描かれた大きな切り傷から赤い血が滴っているもののアクアやエリの想定しているよりもはるかに抑えられたダメージ。水の大剣を力づくでしのいだヴォーダンが自身の腕を自由に伸ばしアクアを掴んだのだ。


「ハッ! 驚かせるな! 掴んだならやれ!」


 顔面を掴まれたアクアは抵抗し振りほどこうと三つの兵装から至近距離で魔法を放つ。だがそれもすぐ止まってしまう。


「アクア! どうしたの!?」


 それは剣聖の時に見た光景、ヴォーダンに接触してからの不調。ゴーレムに魂など存在はしない。だが……だが誰かの”魂”は内在している。”魔力の発生点”それは”魂”と言われているが間違いではなかったのだ、魔力は魂に紐づく。つまりゴーレムの中に存在する魔力は魂の一部なのだ。


「まさか……! 魔力ラインを利用する気!?」


 ゴーレムの変調に何が影響しているのか魔力で動いているのだ魔力しかないと気が付いたエリは自身とアクアを繋ぐ魔力ラインを切断する。


「ほう! だが気が付くのが遅かったようだな!」


 周りを見るとアクアと同様に結界内部に居た使い魔たちがバタバタと床に倒れて行くのが見えた。

 ヴォーダンの意志がのった魔力が魔力ラインを逆流しエリを経由し使い魔たちと繋がっていた魔力ラインを上書きして繋がってしまったのだ。


 使い魔のうちの一体が床に倒れながら賢者の塔の結界に魔力を送る。


「さぁ! やっと中に入れる気になってくれたかね、歓迎痛み居るよ」

おもしろかったら評価、ブクマよろしくお願いいたします。


クシルもエリも自身が知っている上手な剣の扱い方の参考にしているのは剣聖なので似たスタイルになっています。

”球”と”四角”を本来追加兵装として扱うのは塔の前の守護者だったりします。

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