目的
「シェナスの狙いがエリちゃん!? どういう事だクシル君!」
魔導士ギルド、ギルドマスターの部屋にある隠し部屋から繋がっている地下空間。身体的には回復し魔力も戻りつつあるが精神的ダメージからか未だ身体に力が入らない剣聖は重い身体をなんとか肘で持ち上げ隣で聞き捨てならない事を言い始めたクシルに声を荒げて聞き返す。
「えーっと……今回失踪した魔導士達に”混合属性持ちや特殊な魔法を覚えている”という共通点があった事が隠し部屋の書類でわかりました。そんな中で賢者の塔へ向かうという事は、魔法の宝庫である大賢者を狙っていると考えられます」
隠し部屋の情報、そしてここに至るまでの戦闘で得た情報を整理していくクシル。少しづつピースがはまっていくがそれでもまだ疑問が残り決定的な決め手はない。
「だが……特殊な魔法の人物を襲ってシェナス達は何を……目的は何なんだ……?」
なんとか身体を起こし手の感覚や足の感覚を確認する剣聖。まだ薄皮一枚かぶっているような鈍い思考で脳に血を流す。狙いはわかった、だが目的がわからない。
「恐らくですが、彼らは襲った人物の”魔法”を狙っているのかもしれません」
「魔法を狙うだと?」
「ええ……これは僕の仮説ですが。おそらく彼ら……というよりはヴォーダンと呼ばれた人物は少なからず魂に干渉できるのだと思われます。その力で”魔法”を自分の物としている」
「それはまた御伽話のような話だな……? そもそも”魂”はあるとしてもどういうものか分かっていないのだろう?」
これまでの研究と先代の大賢者たちの教えでは、”魂”とは記憶装置であり、記憶と経験と思考によって形成された”心”が刻み込まれた器であると言われてきた。実際クシルは別の肉体に大賢者としての”魂”が組み込まれても当時の記憶が残っている事を確認しているし”心”についても”魂”と共に紐づいてきていると感じていた。
そして転生したクシルだからこそ実証できたもう一つの事実”魂”にはスキルそして獲得した魔法に関する事象が記憶と共に保管されている。
星が管理している”魂”は肉体と強固に結びつき魂が肉体を離れるだけで肉体は死滅へと向かう。自分の記憶や心すなわち”魂”に直接干渉できるのは自分だけで、他人が他人の”魂”に直接干渉するという行為はどこかのグループが研究していたように最終的には死に行くだけ。それが理だとクシルは考えていた。
「ですが、ヴォーダンが使った見えない壁。そしてその見えない壁をもともと扱う魔導士の精神的な干渉。ヴォーダンと相対した剣聖の不調、変質した精霊の魂の色。……ヴォーダンが記憶や心に干渉できるという仮説であれば色々と説明がつくのです」
そして闇の精霊が……妖異が最後に語った言葉
『理から外れてしまっている』
転生という理から外れた事象をクシル自身が経験している。”魂の干渉”という今までに見た事も聞いた事もない事象があったとしてもおかしくはない。
「だったら一刻も早くエリちゃんに連絡を取って対応しないと……!」
壁にもたれながらもなんとか立ち上がる剣聖。立っているのもやっとの状態でエリの心配をする剣聖は自身の肩に乗っているエリの使い魔を見る。
「それが……まだ妨害装置は生きているようで……」
「くそ……エリちゃんになにかあれば……クシル君一刻も早く妨害装置を探しにいくぞ!」
「案外何とかしてるかもしれないですよ?」
焦る気持ちと不調の身体チグハグな状態の剣聖に対してクシルは諭すように答える。
「恐らく”魂の干渉”には相手との接触が必要です。剣聖も経験したでしょう? その上で剣聖に聞きますが”相手に接触されずに相手を倒す”できますよね?」
「――――――うーん……できるな」
「剣聖とヴォーダンの一連のやり取りは師匠も見てるので”相手に接触されずに相手を倒す”実践しているはずです」
ヴォーダンがいかに魔導士ギルドのメンバーが覚えていた魔法を使えるようになったとしてもエリは大賢者だ、それだけで勝てる相手ではない。だが仮説は仮説、より最悪な事態は想定する必要がある。クシルは身体強化の魔法を自身にかけ立ち上がった剣聖に肩を差し出す。
クシルと剣聖の身長差では肩を貸した所で足を引きずるだけ、引きずるだけなのだが差し出してくれた肩を見て、力が入らず冷たい自身の身体に暖かさを感じる剣聖。差し出された肩に手を置き目の前の年の大きく離れた相手との関係性を表す言葉を考える。
最初は友人の弟子であり有用な駒。だが関わっていくうちにどこか昔に魔法を教わった先生の気配、そして知識に対しての考え方に尊敬していた部分と危うさの部分を感じた事で親近感が湧いていた。そして今自身の焦りを見透かしてか心を和らげてくれた相手。まぁ友人でいいかと一人で納得してその友と一緒に歩き始める。
「エリちゃんの事を信頼しているのだな」
「まぁで…し、師匠ですからね! それに急いで賢者の塔に行って現状を伝える方法ありますから」
そういうとクシルは魔法を唱える。
[クシルは”転移魔法”を唱えた。クシルの”転移魔法”。]
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多数の扉のある部屋、先ほど自身が居た地下空間ではないもっと別の異質な空間に驚く剣聖。「ここです」と案内をされクシルが手をかけた扉を開けるとそこは賢者の塔の前の森が広がっていた。
「転移魔法があるとは聞いていたが……君まで使えるとは」
ここ最近はずっと賢者の塔の上からエリに会いに行っていたのだが先代の大賢者に会うには賢者の塔を下から登らないといけなかった。一歩一歩と踏み出し剣聖が久しぶりに訪れる”賢者の森”に懐かしさを感じている中扉を通ったもう一人はすでに別の行動に移っていた。
「ここなら師匠に連絡つくでしょ? でももう戦闘始まってるみたいだね……これはゴーレムか……接触しないって言うのは師匠も考えてたみたいですよ剣聖」
扉をくぐり、剣聖を近くの木に下ろすと使い魔に指示を出し探知魔法で周囲の状況を調べはじめるクシル。エリの無事に胸を撫でおろした剣聖は現状の自身の使えなさに乾いた笑いしかでず、とにかく合流しようと何とか自身で立ち上がり身体のコンディションを確かめ始める。
「剣聖待ってください誰か来ます」
そこでクシルから緊張した声が剣聖の耳に届く、不調な身体ながら周囲を確認すると確かに数人の気配が近くまで来ている。
「あれ? この魔力は……」
先ほどまでと一変して一気に弛緩した声を出すクシルは目視できる位置まで無防備に駆け出し始める。
「あれ? クシル……? なんでここに居るの?」
「それは僕が聞きたいよ」
「いやーポワンシーさんの依頼を手伝う形でここら辺の薬草を集めにね……なベーヌ!」
「フレイッ!!!!! ア…ソウナノ! クシル君ヒサシブリダネ!」
「なんか距離を感じるんだけど……」
「良い男の子は細かいことは気にしないものよ、二人に無理言ってついてきてもらったの。久しぶりだねクシル君」
そこに居たのは、訓練場でパーティを組んでいたフレイとベーヌ、そして同室だったポワンシーの三人が賢者の森を探索していたのだ。
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久しぶりの三人です。




