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異形

「グルァアア」


 シェナスを守りながら飽和攻撃を受けていたヴォーダン。防戦一方だったがシェナスの一声で一転する。

 自動操作のゴーレムたちは先代産のゴーレム、”球”と”四角”による飽和攻撃、そして次弾装填の隙をエリ産ゴーレムが接近して風の刃で切り刻むというパターンでヴォーダンを削る作戦に出ていた。だがヴォーダンは飽和攻撃中でありながら背を向けたと思うとシェナスに魔力障壁を張り、自らは回避も防御もすべてを捨てた上で煙を纏いながらエリ産ゴーレムに向かっていったのだ。


 煙の中での乱戦となってしまい状況を把握する為に先代産ゴーレム達は飽和攻撃の手を止め煙を払うように風の魔法を使う。ゴオーッという音ともに風が戦場から煙を押し流し少しづつ視界がはっきりしていく中、視力強化を施していたエリの目にヴォーダンの姿が映る。


「あれは……なんなの……?」


 そこに居たのは先ほどまで人の形をしていた相手ではなく異形。人間的な身体にそぐわない両腕は自身と同程度まで膨れ上がり、頭には二本の角が生え人間的な鼻や口も無い。あえていうならば竜種に近い大きな口が前に突き出た顔は感情が読み取れない。今までの攻撃を受け傷ついていた身体も再生能力があるのか回復していた。


 魔物に変化した人間か、人間に変化していた魔物。だが人間に化けれるよう能力を持つ魔物は限られている。シェイプシフター等が該当する魔物だが視界に入る異形にそれらの特徴は見当たらない。

 自身がいままで観察した事がある魔物や賢者の塔の図書館にある魔物辞典から該当するものを急いで検索していくが完全に煙が消えエリの検索の手が止まる。ヴォーダンの巨腕その手がエリ産ゴーレム二体を握り捕えていたのだ。


 エリ産ゴーレムも自身の最高出力でぐぐぐと押しのけようとするが身動きが取れない。しばらくするとヴォーダンの手のひらに魔力が集中。魔力が一点に集まった瞬間、握っていた力を弱め手のひらを開く、と同時に闇魔法と風魔法の混合属性魔法”真空の闇”を発動。エリ産ゴーレムの内部に浸透した闇はゴーレムの内側を”吸収”し”圧”を変化させベコベコっとゴーレムが押し潰されていく。


 視力強化で見ていた内容に信じられない表情を浮かべるエリ。エリ産ゴーレムは二機共に特殊な魔石から作り上げたボディと魔金のコーティングを持ち、物理にも魔力にも強く柔軟性を持たせた機体だったのだそうやすやすと潰されてはたまらない。


「それならば」


 シェナス達の”賢者の塔攻略作戦”シェナス側の目的はわかっていないが大賢者(エリ)側の勝利条件は賢者の塔へ侵入を許さずシェナスの拘束とヴォーダンの無力化、そしてちょっと……いやかなり痛い目にあってもらうと考えていたエリ。だがヴォーダンの戦闘能力を実際に見るに現状の作戦では足止めにもならないと考えを改める。


 手動操作用(マニュアル)の魔力ラインをゴーレムとつないでいたエリはその魔力ラインに自身の魔力を流し込む。手動操作で再起動させた先代産の”球”と”四角”、自動操作(オート)では命中精度に難があったが手動操作を行う事でそのデメリットを補正し命中を度外視して使用していた炎と氷の矢を一撃にまとめて威力に重点を置いた魔法を練り上げる。


 炎と氷の矢は槍となり轟音を立てて加速しヴォーダン達へ向かって放たれたがヴォーダンは避けるそぶりも無く片手を広げて受ける態勢を取る。



 着弾……と共に振動と音が賢者の塔自身を揺らす。ヴォーダンに同時に到達した炎と氷の槍は着弾と同時に膨張による爆発を起こしたのだ。だが



「一体何者なの……」


 爆発の中心点にはヴォーダンが何事もなかったかのように魔法を受ける前と同じ体制を取っていた。ヴォーダンは魔力障壁も張らずその槍を広げた手で受けきって見せたのだ。


 そして片手を開いたままのヴォーダンは先代産ゴーレム達に向けて今までのお返しと言わんばかりに水属性の魔法を放つ。威力を上げた魔法を使った反動でクールダウンをしていたゴーレム達はなすすべもなく撃破されてしまう。


 先ほどの規模の魔法を生身で受けきる。大賢者がおなじ事をできるかと問われると傷がつかない程の身体強化と自身への継続回復魔法に加えて精霊のように自身の体内に流れる魔力の密度を上げて魔法に対しての防御力を上げれば可能だろう。


 だがそれほどの魔力操作ができる人間は現在この星には多くは居ない。そしてそれをできる人間を”情報収集(データログ)”で見て来た大賢者だからこそ断言できた。わざわざそんなうけ方をする人間はいない、つまり相手は人間ではないと。だが同時におなじ事が出来る魔物で該当するモノが居るのかと言われるとそれも心当たりが無い。



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「久しぶりだな、大賢者殿。盛大な出迎え嬉しい限りだ、さて剣聖の代りに荷物を持ってきたのだが入れてくれるかな? ほれこれが目印だろう?」


「あら、あなたが大賢者と呼んでくれるだなんて。何が目的なの?」




「やはり剣聖と繋がっておったか、おおかた魔導士ギルドでの出来事も見ておったのだろう?」


 迎え撃つ相手も追手も居なくなった空を再度賢者の塔へ向けて進んだ馬型の魔獣に乗ったシェナスと魔術で空を飛んでいるヴォーダンは係留場で迎えるエリと相対していた。


「目的……そうさなぁ……話してやってもいいがここでは話しづらいどうだ、賢者の塔の中でお茶を……」


「笑えない冗談はよして……! 剣聖にやった事も、貴方の不正もすぐに公になるわ! 罪を重ねるよりも自白した方がいいんじゃない?」


「ハッ! それこそ笑えない冗談だ。ヴォーダン!」


 軽口をやめないシェナスはエリをイラつかせ、剣聖の割符をヴォーダンに手渡す。割符に対して不釣り合いな大きな手で受け取ったヴォーダンは割符に魔力を込める。


「貴方達が魔力を込めた所で結界は…」


 剣聖の魔力で登録がされているのだ、シェナスだろうがヴォーダンだろうが割符に魔力を流した所で意味はない。ないはずだが……


「貴方がなんでその魔力を持っているの……!」


 念の為と保管室から持ち出していたエリの手元にあるもう一方の割符がカタカタと音を立てながら魔力を受け取っていた。その魔力はそんなに人と合わないエリにして頻繁に合って覚えている魔力の色。

 しばらくすると保管庫の他の割符たちが共鳴し、賢者の塔に高音が鳴り響き始める。異様な光景に息をのみながら辺りを見回すエリ。


「ご主人様ッ! 結界が! 結界にヒビが!」


 全ての割符から発せられた異様な魔力を受けた結界用の魔道具に負荷がかかったのかビキビキと音を立てはじめる。先に限界に達した割符に炎がともった瞬間にバリン! と結界が割れてしまった。


「なんで……? なんで……!? 貴方は何者なのよ!」


「ちっ……もう一枚結界を貼っておくとは用意周到だな。やはりゴーレム達は回収しておくべきだったか……」


「その必要はないわ! アクア!」


 その合図と共にヴォーダンに向けて水の刃が振り下ろされた。腕で受け止めるが受け止めた水の刃は形が変わりヴォーダンの口の中に侵入しようと試みる。バックステップで後ろに逃げ口の中に入った水をベッと吐き出すヴォーダン。その水の刃の使い手はエリ産ゴーレム最高傑作の三機目。そしてそのゴーレムの後ろには先ほど撃破されたハズの”球体”と”四角”が浮かんでいた。


「もういいわ……ヴォーダンだったかしら? 貴方は危険すぎる。ここで止めさせてもらうわ。そしてシェナス! なにもかも吐いてもらうんだから!」


「ありがたいこれでゴーレムを探す手間が省けた! そうだなお礼に一つだけは教えてやろう」


「私の目的か……私の目的は、君だよ大賢者!」


おもしろかったら評価、ブクマよろしくお願いいたします。


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