濃霧
クシル達が隠し部屋に入り暗闇の通路を進んでいる頃、賢者の塔ではエリ主導の元迎撃準備が進んでいた。
「一番から五番まで起動して係留場にて迎撃準備! 自動操作で手動操作用のコントロールは私につないでおいてちょうだい。 シャル! 貴方たちは結界の上書きをお願い」
剣聖はヴォーダンと呼ばれる人物に”触れた”事に起因してダメージを受けていた。精霊の目にリンクして確認をしていたエリは触れずに魔法戦、接近戦を行う方法という事で先代の遺品と自身で作成した合わせて五機のゴーレムを引っ張り出していた。
小型と言いながらもサイズはほぼ人間と同じで魔石に貯蔵しておいた魔力で稼働し、専用の魔道具を搭載した対人兵器。
先代が作ったゴーレムは可愛げが無く機能性を重視しすぎて腕や脚なども無く四角かったり丸かったりと独特なフォルムをしていたが兵装の殺傷能力が高く封印。
逆にエリが作った三機は人の形に寄せすぎて愛着がわいたエリが戦闘に出すのを渋ったがために同じく封印処理を施していた。シャル曰く「師弟共々趣味が出すぎです」という評だった。
自身の親しい人物がまた自分から離れてしまうのではないかという感覚に取り乱してしまったが、今回は一人ではないのだ。剣聖の事は弟子が、師匠が何とかしてくれると気持ちを切り替えると、先代が無くなってからの無礼、そして賢者の塔を脅かし、最後には剣聖に傷を負わせ、魔導士ギルドとそのギルドマスターシェナスへの怒りがぐつぐつとエリの心を煮えたぎらせた。
そんな怒りによって「やるなら徹底的にぶちのめす」と封印処理まで施していたゴーレムを引っ張り出し迎撃態勢に盛り込むまでにいたる。
結界に関しても剣聖の持ち物から抜き取ったのは十中八九剣聖の割符だろう。出方はわからないが、通常の防御態勢では不足があるとシャルを主軸に結界を追加で貼るように指示していた。
使い魔たちにてきぱきと指示を出していた当の本人はというと、丁度広範囲魔法の準備を行っていた。
[大賢者は”水魔法5:マジックミスト”を唱えた。大賢者の”マジックミスト”]
エリが魔法を唱えると、賢者の塔の目の前に湖一つ分程の水の塊が現れる。水属性の魔力で作り上げた水の塊はエリの魔力操作により空気中を分散、次第に賢者の塔を中心に霧が立ち込みはじめる。そのままエリは自身の魔力の通った濃霧に意識を集中させる。
現在、敵は妨害装置を使いかつ不可視魔法を使用している。他人の目に映らなければ”情報収集”では拾えないし妨害装置によりマナの歪みで魔力感知もうまくは働かないのだ。まずは索敵!と広範囲にわたって霧による探知を開始した。
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「見つけた!」
魔法発動後しばらくしてエリに動きがあった。エリにはシェナス達が賢者の塔へのこのこやってくる事を知っているというアドバンテージがある。
先手を取る為に魔法の霧に触れる物を感知して周囲の状況を把握。発動時点では霧の中に何人か人間が居るのがわかったが空を飛ぶものは居ない。
今度は霧の先端に意識を集中して範囲を広げていくと乱れたマナで魔法の霧が押しやられたのか霧の中でくっきりと球体が浮かび上がっている箇所を見つけた。
「場所がわかったなら、近づかせる訳ないでしょうが!」
エリの一言で一方的に戦闘が開始された。シェナス達が居たのは霧の先端で賢者の塔のはるか手前、場所がわかった事で探知の為に広げた霧を徐々に凝縮し始めるエリ。
マジックミストはただ霧を広げる魔法ではない極小の水を自在に扱うの事が最大の効果。エリは霧を凝縮させた水の玉を再度空中に浮かべると二層に分け外側の層に極細の穴をあける。最後に内側に空気を入れこんだ上で水玉に一気に圧力をかけシェナス達に向けて水を発射した。
油断をしていたのか、かなりの早さで進んでいたからなのかシェナスが霧の中飛んでくるウォータジェットに気が付いたのはシェナスをかばったヴォーダンの左腕に穴が開いた時だった。
左腕を打ち抜かれたヴォーダン、その際手に持っていた妨害装置にも被弾したようで霧の中に浮かび上がっていた球体が魔獣に乗った人物と空を飛ぶ人物、二つの姿で感知できるようになった。
妨害装置なしでより鮮明になった相手に対して凝縮した水をどんどん水玉に追加していき手を休めず撃ちだすエリ。前から後ろから左右から上下からいかなる場所からも狙いをつけて水の斬撃を飛ばす。
だが奇襲は長く続かないウォータジェットに気が付いたヴォーダンも水の膜を作り出し自身とシェナスを囲むように設置、水の膜を貫通してきた威力の落ちたウォータジェットではヴォーダンに対して有効な攻撃にならず前に進む事を許してしまう。
「やはり距離があると精度に影響でるな~師匠との強制模擬戦無くなって久しいしなまったかな……」
ヴォーダンの前進を意に介さず、自身の魔力操作の手ごたえを振り返るエリ。マジックミストだけで止めるつもりもなく「やるなら徹底的に」を実践していたエリは場所が割れたと同時にゴーレム達へ出撃を指示していた。
エリ産のゴーレム二機が空からシェナスとヴォーダンに向けて風の刃を振り下ろす。同時に先代産の球と四角の二機も投入し全兵装をシェナス達に向ける。
遠距離からは火の矢や氷の矢がほぼ無尽蔵に降り注ぎ一面に煙を上げエリ産ゴーレムが先代産に合わせる形で連携を取り接近戦による風の斬撃をくり出し休む暇も無く攻撃にさらされるヴォーダンとシェナス。
その攻撃はヴォーダンが障壁を張って一手に受け止めていたが受けきれなかった攻撃はヴォーダンの四肢に直撃し、身体にはいくつかの穴があき切り傷でボロボロの状態に。
対して全ての攻撃をヴォーダンが受け止めた事でシェナスには傷一つない。それどころか攻撃を受けているのに余裕の表情を見せている。
「なかなか顔が見えないな……」
マジックミストによる感知からゴーレムでの飽和攻撃に切り替えたがまだ視認のできる位置には居ない。視力強化によって何とか戦闘状況を把握は出来たが、煙によってヴォーダンと呼ばれるものの顔を確認する事が出来ないでいたエリ。剣聖が顔を見て驚きを隠せなかったのだ何か秘密があるはずとその機会を狙っていたのだがそれは不意に訪れた。
「ヴォーダン! もういい! さっさとやってしまえ」
シェナスが声をあげるとヴォーダンはローブを脱ぎ捨てた。
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難産が続くッ




