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魔斬り

 これまでの歴史の中で精霊をテーマに研究を行った論文はいくつもある。精霊が生まれる理由や、存在意義等研究内容は様々。

 周囲のマナが特定の属性に偏った時に精霊が生まれるといった色々な仮説が立てられたがそのほとんどが実証できておらず未だ謎に包まれる部分が多い。

 他にも魔導士の魔力を対価に力を貸してくれる事は広く知られているがその魔力がどのように使われているのかは有識者の中でも長年に渡って議論されている研究内容だ。


 わかっているのは精霊はマナの中で暮らしマナと共にある事だけ。

 対価が無ければ手助けも無い、だが害意があるわけでもない。そもそも普通の人間が精霊を見る事もなければ声を聴く事もないただそこに在るだけの存在なのだ。


 その中でも闇の精霊は特に暗闇と夜を好む。呪いや悪い物といった印象があるがそれは全くの別物。闇属性の本質は”吸収”。全てを吸い込む漆黒の闇は何者にも染まる事が無く全てを包み込む。




 魔力感知を自身の視界に重ねるように発動した事で姿が見えるようになった闇の精霊と思われる人の形をした存在。その魔力の色には風属性が混ざり、だが溶け合う事なく黒に水を垂らした大理石のような模様となっている。

 魔力の”譲渡”の際に相性のいい精霊というのは居るが対価も無しに誰かに肩入れをするというのは今まで見て来たどんな精霊とも性質が違う、在り方としても性質としても異質なその存在はもう精霊ではないのだろう。精霊ではなく、怪しく異なる存在、”妖異”と呼ぶべきなのだろうとクシルは考えていた。


 ”真空の闇”を切り抜け相対した闇の妖異は落ち着く暇も無く次の攻撃を繰り出す。光を掻き消し広がる闇のカーテンから風の刃が四方に飛ぶ。


「ジェボーダンって誰なんだ! なんでこんな事を!」


「……」


 対話を求めてみるが回答は無い。だが先ほどまでの魔導士達とは違う、誰かの為に考え成し遂げようとしていた。回答は無いが言葉が無いわけじゃない。

 話を聞くにも聞かせるにも大人しくしてもらわねばならないが人間同様に意識を”斬る”訳にもいかない。マナで構成された存在にそもそも物理的な攻撃は全く意味をなさないのだから。力は借りるが精霊自身を倒すという事も前例がないのだ。


「どうするんですかクシルさぁぁん」


 攻撃を避け続ける最中も袖の中へ退避していた使い魔が声をあげるが、クシルは答えない。

 風の刃を避けながら思考の世界に突入していたクシル。今まで攻撃を繰り出してきた三人の魔導士達、もし彼らを正気に戻すのならば何が原因かを見つけ時間をかけてその影響を解いていくしかない。

 目の前に居る妖異も同じだ、原因を見つけその影響を解けば……


(いや原因と思われる箇所はすでに見つけてるぞ!)


 クシルが目をつけたのは魔力の色、人間の魔導士であれば色とりどりの魔力をしているが精霊は通常一色しか色を持たない。


(そもそも色が混ざっている事がおかしいならばそれを戻せれば……だがどうやって……?)


 身体の中を循環する魔力の色をそろえる。初めに思いついたのはシャズの獣戦と同様に相手色の魔力を流し込む。あの時はシルバーウルフの魔石を使って似た色にした上で身体に刺した針から流し込んだが今回は色は分かっている。


 思考の世界から脱し即実行、いつもよりも密度をあげた魔力針を妖異めがけて飛ばす。だが避けるそぶりもない妖異に魔力の針が当たるが弾かれてしまう。


 異なる存在になったとはいえ元精霊だ、精霊を精霊足らしめている大気中のマナと精霊との境界、物理的には存在しないが表皮と表現されるべき箇所。

 マナの塊を抑え込めるのだ高密度のマナで形成されていて突き刺すのも容易ではない。そんな事は想定済みで魔力の量に反して薄く鋭くし自身の中でも最大限に密度を高めたのだ、その魔力針が弾かれてしまいトライアンドエラーだとしても次の手を失いつつあるクシル。


「だぁー! どうすればあんな高密度のマナに傷がつけれるんだよ……!」


 ……居たなそういえば……魔力を……魔法を容易く”斬れる”って言ってのけた奴が!


 救出に向かっている対象である剣聖にもし魔導士ギルドと事を構える場合魔導士とどうやって戦うのか聞いてみた所


「魔法を発動させないように斬る、魔法発動しても躱して斬る、なんなら魔法ともども斬る」


 と言ってのけたのだ。魔法の斬り方!?と思い詳しく聞いて居たが練習すれど感覚はつかめず結局先送りしていたのだが。


「こんな絶対斬らないとダメって所想定してなかったよ!」


 だが、切れる手札が多くない。特に場所が悪いのだ、狭い地下で大きな事をすれば天井が落ちてしまう。死にはしないが崩落を防ぐだけでも大きな隙だ。とにかく剣聖から聞いて居たアドバイスを復唱して準備を行うクシル。


「魔力感知に頼らず剣でマナを感じるんだ、その後はマナを二つに分けるだけ」


 魔力感知は魔導士たるものの基礎。大賢者として生きてきた中で身体の感覚よりも重要視している場合もあった。それをあえて切り意識を集中する、そう言われて簡単にできるものでもないのだが。


 だがやるしかない。魔力感知をオフにした事で今まで見えていた妖異の姿も消え、戦闘の為に放っていた魔法で作った光源も消し暗闇に身を置くクシル。

 剣を正面に構え意識を集中する。集中するのは得意だが思考を手放すのが苦手なクシル、さっきまでそこに居たよなと雑念が浮かんでくるのをなんとか抑え、ただ剣聖に言われたままに、目を閉じた状態で後ろの出来事を見るようにただひたすらに意識を研ぎ澄ます。


 それを妖異が待ってくれている訳も無い、魔法で作られては居るが物理現象で引き起こされた風の刃は休むことなく飛んでくる。それでもクシルは肌を裂く痛みも思考も捨てただただ周囲の気配を窺う。


「ヒィィィィ!」


 使い魔の悲鳴さえ今のクシルには耳障りだった。それほどの集中をもってしても剣聖の言うマナを感じるという事がつかめない。だが血が流れ始めている時間は無い。


 暗闇の中で削れて行く生命を感じていると何か既視感が湧いてくる。その後急に目の前が真っ白になり恐らく魂だけの存在になり白の空間に佇んでいた。そして目の前に何かが居る。


 と感じた瞬間に暗闇の中に引き戻されるクシルそのまま自身が感じた何かを断つ。


 しばらくの無音、いつの間にか風の刃も止まっている。




「ああ……! クシルさん! やり、やりましたよ!」


 使い魔の言葉を聞き、我に返り再度魔力感知を目に重ねる。そこには人間でいう腕の部分に僅かな切り傷を負いそこから微量のマナが漏れ出している妖異の姿があった。


おもしろかったら評価、ブクマよろしくお願いいたします。

もっともっと進む予定だったのに…!

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