闇の中
足止めはあったものの無事にギルドマスターの部屋に着いたクシル達。すでに潜入はばれている、前回のように慎重に入る必要もないと片手剣で錠前を斬り扉を開ける。
ローブを深くかぶり結界を超えるクシルだったが、ギルドマスターの部屋に入った瞬間クシルに向かって魔法が襲いかかる。それも混合属性の魔法、氷のように床を這う熱、雷電を纏った雨。
「クシルさんんんん」
「来ると思ってましたよっと」
ローブの中で暴れる使い魔を尻目に目の前の魔導士達を見る。廊下で出会った土と光の混合属性を使う魔導士。失踪届が出されながらも姿を現しクシルを襲って来た。失踪しておきながら魔導士ギルドに居たのだ他の失踪人が居てもおかしくはない。
氷のように床を這うが結局は熱、雷電を纏っているが雨なのだ。クシルは純粋な氷魔法を放出し熱を奪い、魔力障壁で傘を作り雨を躱す。魔導士ギルドのメンバーリストによって事前に得意魔法も知っていたクシルは検討していた対策で魔法を防ぎそのまま先ほど同様に片手剣の峰で剣を振り意識を”斬る”。
バタッ、バタっと倒れ部屋に居た二人の魔導士達は意識を刈り取られて床に突っ伏す。ロープを出して拘束する際に顔を覗き込むとやはり失踪届が出ている魔導士達。”異常回復魔法5”を応用して前段階である毒や混乱等外部から干渉を受けている部分の感知を行うとやはり異常は見られない。
先ほど同様に隠し部屋の直前には荒れたマナの層があり、二人を無力化したクシルは隠し部屋へと入っていく。その先は地下に続く暗い階段、まずは剣聖の無事を確認するべく魔力感知を行い剣聖の魔力を確認する。階段を降りて行った先に剣聖の魔力を確認する事が出来、一先ず胸をなでおろしたクシルは感知した魔力に向かって階段を進んでいく。
「何かに操られているとかでもないんですよね?」
「うーん……可能性としてはあるね。メジャーなのは魔法で操作権を奪うとかがあるけれどそれは外部干渉に当たるから異常回復で回復するはずなんだけど、精神的な干渉だと特定の動作で行動を縛るって事もあるからね……」
不可解な部分について使い魔と話をしながら階段を駆け下りるクシル達。所々で使い魔が魔力感知を行い剣聖の魔力を確認してはいたが剣聖とは違う魔力反応もあった。隠し部屋までの状況を考えると図書館を抜けたような速度で進むのは難しい。
話ながらしばらく進んでいくと初回に立ち寄った資料室兼会議室へと続く分岐点に着いた。魔力反応があるのはもう一方の先ほどとは違う道、光が全く無い暗闇の通路を魔法で光球を作り出し照らしだす。
「それにしても広い地下空間だね」
「魔力探査でマッピングしてますが相当な広さですね……ですが、この道を道なり進んで二個先の分岐まで行けば剣聖が居ると思われる場所に到着します!」
「わかった、さっさと剣聖の死にかけのツラを拝みに行こう!」
淡い光を持ちながら暗闇の道に入り込んでいくクシル達。すると地下にも関わらず風が吹き抜けた。ほこりを纏いながらクシルの身体をすり抜けて行く風に急いで腕で顔を覆うクシル達。しばらくすると風は止み、光が届く範囲の視界が開ける、目の前にあるのは細く平らな道だけ。
分岐を目指して前に進んでいくと先ほど自分たちが居た、魔道具により灯されていた分岐地点は完全に闇の中に消えて行く。前も後ろも闇、視覚情報は頼りにならず魔力感知や魔力探査の結果だけを頼りに前へ前へと進んでいく。
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「二つ先の分岐点だよね?」
「そうですね…相当走っているし魔力探知の結果だともうすぐなんですけどね……」
「それさっきも聞いたよ」
分岐点に入ってから半刻を過ぎたあたり、雷魔法を使った移動方法では無いにしてもかなりの速度で走り抜けていたはずだが一つ目の分岐も見当たらない事に違和感を感じ始めるクシル。
「ちなみに後ろの魔力探査の結果は?」
「移動するにつれて魔力が返ってくる時間が増えていっているので後ろにもちゃんと通って来た道がありますね」
立ち止まり後ろを向くクシルだがあるのは闇。そこで闇を払うために光魔法を詠唱する。
[クシルは”光魔法2”を唱えた。クシルの”光魔法2”]
現在手に持っている光球、その光球を棒状に伸ばし後ろの道を照らす。かなりの距離を照らしだしたが目に見える範囲では通ったであろう道が見える。と次の瞬間、魔法で作った光が掻き消され暗闇の中に落とされるクシル達。ザァーッという音と共に再度前方から風が吹き抜けてくる。顔を防ぎ身を縮ませ風がやむのを待つ。
「クシルさん!」
風が止むのを待っている間にクシルのローブの中で魔力感知と魔力探査を行っていた使い魔が声をあげる。
「やっぱりすでに攻撃を受けてるんだね」
「はい! 今の風の後に魔力感知が効かなくなりました、探査の魔力も返ってこない。妨害されています」
失踪届が出されている魔導士のうち特に高ランクの魔導士は四人、光と土、火と氷、水と雷、そして闇と風。警戒はしていたが最初の三人が直接魔法で出張ってきていた、その上精神干渉を受けているのだ罠を仕掛けるような頭を使った攻撃は意識から外れていた。
「くーぅ! だから思い込みはダメだって死んでわかっただろクシル」
自分自身にダメ出しをするクシルだったが闇と風の混合属性持ちの魔導士がどうやって魔力感知と魔力探査を誤認させたのかという自身でも答えられない問題に対して何故か?知りたい!という欲で少し口角が上がってしまっていた。
しかし考える暇も無く闇が、魔力の乗った闇魔法が背後から迫ってくる。魔法の中心を起点に引力が生じ光も空気も全てを引き寄せる”真空の闇”となったそれによって前方の空気が風となって吹き荒れる。
「あー! なるほど、僕たち走ってる最中もあれに引き寄せられ続けて前に進んでなかったんだ」
「状況判断はいいですけど何とかしてくださいよーーー!」
「わかってる! 僕の前に居る魔導士が作ったとしたら作った本人も引き寄せられる規模だ、相手は後ろっ」
引き寄せられる力に抗うのを止めバックステップで闇魔法の中に飛び込むクシル。”真空の闇”すべてを吸い込むその闇に飲み込まれた物は自身にかかる”圧”が乱され、体内で破裂を起こす程の危険な代物。しかし、クシルは元大賢者であり、メンバーリストで”真空の闇”がどういったものか確認している。知っているという事はアドバンテージになるのだ。
”真空の闇”の吸う力は一定、そして圧を乱すが自身の身体を気密状態の空気で囲んで自ら圧を調整しておけば自身の身体への影響はない。
引き寄せられる力に身体強化の蹴る力を上乗せし吸う力よりも速い速度で”真空の闇”を越えるクシル達。案の定、”真空の闇”の逆側は制御する為にも引力で術者自身が影響が出ないよう対策されており何事もなかったかのように着地することができた。
そのまま後ろを見るとマナが乱れている層が見える。状況判断をさせまいとクシルを起点になるべく小さい範囲で妨害、”マナの乱れ”を作っていたのだろう。着地してすぐにその層を抜けるべく雷魔法による移動で来た道を戻るクシル達。
ゾワっとするマナの層を抜けてすぐに再度魔力感知、探査を行う。場所的には分岐地点からさほど進んでいない位置を走らされていたようだった。そしてマナを乱し”真空の闇”を放った相手を目の前に魔力感知で捉えた。
「この反応は闇の……精霊……? でも魔力が濁っている?」
精霊とは星の理を具体化した程超自然的な存在。火や氷の精霊は居ても混合属性の様な火と氷が混ざった存在は今まで確認した事が無いので混合属性を扱えるのは精霊ではないハズだ。だがマナの層に暮らす精霊であればマナを乱す事は可能だろう。
ともかく策略を持って挑んできたのだ今までの三人とは違い話が聞けるかもしれないとクシルは意識を集中する。
[クシルの”精霊の囁き”。 ]
『アァ……ジェヴォーダン……アナタノタメニ……』
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