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顎で使う

「おい! エリ! どうした……! なにがあったんだ!」


 魔導士ギルドの屋外演習場端にある厩舎に向かった剣聖に追いつくべく変装して図書館を抜けるクシル。だが魔導士ギルドのギルドマスターシェナスと剣聖が厩舎前でもう一人の人物に出会ったという報告の後からエリの様子がおかしい。


「あ……あぁ……! し、師匠急いで! 急いでください師匠ッ……!」


 悲鳴混じりで助けを求めるエリの言葉で嫌な気配が現実のものとなったと理解したクシル。潜入中にも関わらず弟子であり師匠であるエリに応えるように身体強化魔法と雷魔法を使い最高速で図書館を駆け抜ける。


「エリしっかりしろ! なにがあった!」


「ランスが……! ランスが攻撃を受けています!」


 床を蹴り、壁を蹴りボールのように跳ねて進むクシル。「図書館で魔法を使うな!」という声を置き去りにして屋外演習場に向かう。外に出た所で状況を確認するために自身の周囲のみ発動していた”情報収集(データログ)”の範囲を広げ、感知魔法を使う。すると魔導士ギルドの敷地の端に講義前に魔力感知で確認しておいたシェナスの魔力を見つける。その近くには弱々しくなった剣聖の魔力ともう一人講義前には居なかった正体不明で強力な魔力。


「コイツ誰だ…?」


 と状況確認をしていると剣聖の魔力が地面の下に向かって移動していきある地点から魔力反応が途切れるのがわかった。


「エリ! 剣聖は!?」

「ランスッ!!」


「エリッ! 移動するよ!」


 現場におらず見ているだけの歯がゆい状況からか普段以上に動揺を隠せていないエリ。無理に聞きだすよりも現場に向かう方が早いと判断し現場に急行するクシル。先ほどまで剣聖が居た場所までもう少しという所で馬の魔獣にまたがったシェナスとローブを羽織る人物の後ろ姿が見えた。


『記憶にも出てきた剣聖の弟子か? あいつが居ないな……ヴォーダンあいつらに捕まえさせておけ』


「グルァアア」


 その姿を捉えた所でヴォーダンと呼ばれた人物が放った重く低い遠吠えにも似た声が聞こえ、その後すぐシェナスたちはご丁寧に妨害装置を起動し不可視魔法(インビジブル)で姿を消しおそらく空へと飛んで行ったのだった。


 剣聖を助ける事も間に合わず、シェナスも追えない状況で現場に到着したクシル。


[クシルの”精霊の囁き”。 ]


『コワイ……コワイ……』

『ジェヴォーダンなの?』

『よしよし……いいこいいこ……』


 現場に漂う風の精霊の声を聴き、魔力感知を最大にしてその声の主の居場所を探るクシル。ずかずかとその声の主の前に立つと目を合わせて声を荒げる。


「エリ! 私を見ろ! 今度は私が居る!」


 風の精霊の目にリンクしているエリ。目の前の出来事に動揺しているエリに対してクシルは精霊の目と使い魔の耳を通して声をかける。


「師匠……」


 しばらくの間があり、眼前のクシルを見て落ち着いたのか声を還すエリ。


「師匠じゃない、弟子だよ。落ち着いたか? 落ち着いたなら剣聖を助ける為にも状況を教えてくれ」


「はい……」


 -------------------------------------------------------




「ローブの男の手を握った後に苦しみだした、でその後反撃をするも倒しきれず土魔法で開けた穴に落とされた……って所か」


「はい、シェナスは見ていただけのようですが”特に目をかけている奴”と言っているのでグルでしょう…はっきりと顔が見えませんでしたが剣聖は顔を見て驚いていたようでした。後はシェナスが”剣聖サマにはまだやってもらう事がある”と……」


「という事はまだ生きている、助けられる。魔力感知でも反応が無いって事は妨害装置の中に居るって事だと思う。地下であればギルドマスターの部屋の隠し通路に入れば反応も追えるはず」


 冷静さを取り戻したエリが精霊の目とリンクして見ていた事、”情報収集”として行動記録、音声記録に残っていた記録を洗い出してクシルに状況を説明する。同様に、道中で報告しきれなかった隠し通路で見た内容をエリに報告し今後の方針をまとめる。


「やる事は二つ、一つ目は剣聖救出、再度ギルドマスタ―の部屋に向かい隠し通路から剣聖を探す。これは僕が向かう。救出と同時に妨害装置を破壊してからエリとの連絡役に使い魔も連れて行く」


「えぇ……クシル君を頼みましたよ」


 恐らく自分も行きたいだろうにクシルの事を使い魔に頼むと同じ口から「ハイっ」と返事が聞こえた。


「もう一つは、シェナスとヴォーダンと呼ばれる人物、この二人の追跡。剣聖に手をかけたって事は裏工作はもう必要ないって事だと思う何か大それたことを行うのかも。妨害装置と不可視魔法を使用しているとは言え全ての痕跡を消すのは難しいはずだしこれはエリに任せる」


「はい」


「よし、とにかく時間はなさそうだからさっさと剣聖を助けてそっちへ向かうね。シャルにお茶でも準備させておいてよ」


「フフ……師匠を顎で使うんじゃありません!」


 フッといつもと変わらないクシルの言動に安堵したのか軽口をいうクシルに対していつもと変わらない口調で応えるエリ。


「では追跡の為一端リンクは切ります、何かあれば呼んでください」


「あぁ」


 使い魔とのリンクを切り精霊の目で身体強化魔法と雷魔法を使用して再度ギルドマスターの部屋に戻るクシル達を見送るエリ。

 賢者の塔で自身の頬をバンと叩き、目の前で剣聖が攻撃を受けていた際見ているだけで声をあげる事しかできなかった自分に対して気合を入れ直すエリ。師匠の励ましも軽口もあるそれにケンカを売られたのは大賢者である自分自身だ。


「追跡をしなくても来る場所はわかっています……今度は私の手が届く、届くなら大賢者と剣聖にケンカ売った事後悔させてあげますよ」


 シェナスは剣聖に対して賢者の塔への行き方を聞きだそうとしていた。そして剣聖の状況を説明する際エリはクシルにその事を伝えず自分のみに秘めていたのだった。

一回休みで更新です

おもしろかったら評価、ブクマよろしくお願いいたします。


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