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潜入の手引き

「魔導士ギルドに潜入してもらいたいんだけど」


 そう言い放った剣聖は説明を続ける。


「魔導士ギルドのグレーを黒くするためには物証が必要だ。だが私は言わずもがな、エリちゃんはシェナスやギルドの幹部には顔が割れている。とすると魔導士ギルド内での協力者を見つけるか、誰かが潜入して物証を見つける必要がある」


「あら、ギルマスとクシル君は顔を合わせてるんじゃなかったかしら? それに基礎訓練場で派手にやらかしたのだから魔導士ギルドのルーキにはばれちゃう気がするのだけど」


「その通り! だが対策は考えてある。シェナスの提案に乗るのは癪だが魔導士ギルドでの講師を引き受けようと思う。若手をメインに講師を受け持つといえばシェナスや幹部そして若手たちは私の講義に集まる。その隙にクシル君が潜入して物証を集めるんだ。たとえ魔導士ギルドで人に会っても若手が道に迷ったと思われるだろう」


「……だけど物証を集める時間がないわよ?」


「そこはエリちゃんにフォローを頼みたい。先ほどの話だと”情報収集(データログ)”に対して妨害装置を使ってるという見解だったな。魔導士ギルドの方はどうだった? 」


「魔導士ギルドもなんの情報も出てこなかったわね――ああ、なるほど……何もなかった場所を探すのね? 」


「そう、”情報収集”で何もなかった場所を優先的に調べる。その為にしばらくの間エリちゃんには魔導士ギルドへの”情報収集”優先で進めてもらいたい」


「特にシェナスは怪しすぎる……そうだな、シェナスに講師を受ける話をしに行った後に魔導士ギルド内で”剣聖が魔導士ギルドの悪事を暴いて乗り込んできた”なんて噂を流すというのはどうだろう。魔導士ギルド内で噂が広まり秘密の会談で真偽を確かめる奴も出てくるはずだ。結果”情報収集”では秘密の会談の場所では噂が立たない」


「いいわね、勝算が出てきたわ」


「そうだろうそうだろう――」


 と、気が付けばクシルは蚊帳の外。剣聖とエリの二人で作戦を建てクシルが潜入する事は決定事項かのように話が進んでいた。


「あの――面倒ごと嫌ですけど……」


「「えッ? 」」


 驚いた声を上げる剣聖とエリ。何言ってんだという顔で見てくる二人に何言ってんだという顔で返すクシル。


「駄目よクシル君、これは決定事項なの……師匠命令よ!」


 師匠命令、その都合のいい命令は大賢者時代のクシルがすべてを投げ出して知識欲(知りたがり)を優先させたときに発動されたものだ。そして投げ出されたすべてはエリがとばっちりを食って対応していた。その意趣返しとしてここぞとばかりにカードを切るエリ。


「剣聖様からすでにお菓子をたくさんいただいてますからね……あきらめてくださいクシル君」


 とお茶のお代わりを持ってきた使い魔シャル。とばっちりを食らっていたのはエリだけでなくシャルも同じ、師匠命令という横暴に対して喧嘩両成敗と事前にエリが剣聖に買収されていた事をばらしていく。


「こら……! シャル! 要らないこと言わなくていいのよ!」



 呆れたような、だがこれがここの通常運転だったなと思い出した剣聖は改めてクシルを見る。

 クシルという存在が自分の前に現れるまで、ここ数年もの間、喪失感と焦燥感に駆られていたエリ。そのエリに何もできなかった剣聖。今のエリの表情を剣聖は作ってあげられなかった。だがクシルの登場で空気が一変した。


 大賢者の弟子それに見合う実力を持ち、剣をそして他の戦闘ギルド、生産ギルドで妙な活躍をする新人。何かあるのだろうが構わない。大賢者が信じる彼を信じる、それは本心だった。


「とまぁ――師匠の了承は得ている。作戦も先ほど伝えた。エリちゃんが必要な魔法を教え、ペンダントを外した上で君の魔力操作があれば潜入も簡単だろう」


 エリに魔法を教えてもらう必要はないが、剣聖の思惑通り隠密魔法もある魔導士ギルドが使用している妨害の魔道具と同様の事をその見で実践することができる。


(そのあたりも考慮してエリは了承したのだろう――いや、あの顔を見ると普通に買収されているだけなような……)


 だが


「僕にメリットがない」


 魔導士ギルドからの賢者の塔への嫌がらせを止めるために、つまり大賢者エリのために潜入する……これはまぁしょうがないだろう。だが剣聖にいいように使われるいわれはない。

 そもそも実績(アチーブメント)を得るために魔導士ギルドへ行く必要は今のところは無い。今後他の取得条件が開示されて必要になればその際に行けばいいと思っているクシル。


「剣聖の私が剣魔に最適な剣を贈ったというのに、それ以上必要かね?」


「この剣で僕を釣るというのならお返しします」


「……君が生産ギルドでもいろいろな噂を作り上げた事は聞いている」


「ぶっ」あとで覚えておけよとエリを見るクシル。


「その剣と同等の武器を作り上げるのもそう遠くはないだろうな……では何を望む? 」


「僕は星を知り(さと)るだけじゃなくて星の(ことわり)を解きたい。だから剣闘士ギルドでもう一人、道を極めたっていう拳聖に合わせてほしい」


 剣聖が剣を極めた、すなわち自身に対して武具という外部装置を用いて技や術を極めたとするならば、拳聖とは拳、すなわち自身に対して己自身という内部装置を用いた技や術を極めた者を指す。


 ”魔を極めし者”の取得条件が、キャスター、ヒーラ―、エレメンタラーの各極意取得、そして極意アチーブメントを取得するには職種ランクを5まで上げなければいけないという事が分かっている。

 シャズの獣を倒し得た実績(アチーブメント)は”ソードマン:ランク1”。魔を極めし者同様に、武に関してのアチーブメントがあるのであれば職種が少なくとももう一つあると考えたクシル。


 そしてコロシアムには剣聖以外にもう一人の拳聖がいることを思い出し今回の要求に至った。


拳聖(あいつ)かぁ…それは構わないけれど……素直に言って教えてくれるような奴じゃないよ?」


「拳聖に一から十まで教えてもらうつもりはありません。少なくとも自身の向かう道先さえ見ることができれば、あとは自分で何とかします」


「ほら……言ったでしょ? こんな事言う子なのよ()()()。クシル君を上手く扱うならクシル君の好きにさせた方がいいと思うわ」


「エリちゃんがそこまで言うならいいだろう。奴はコロシアムでもトップに入る実力だというのにめったに顔を出さない。とりあえず言付けと顔つなぎはやってあげよう」


「ありがとうございます!あと……」


「あと?」


「もう一つお願いが――」


 とクシルが交渉をはじめた事でエリが笑い、剣聖が苦笑いをし魔導士ギルド潜入作戦がまとまっていった。


会話メイン回、剣聖の名前はランス。剣聖や大賢者というのは栄誉ある二つ名のため、名前を呼ばれる機会がどんどん減っていきます。剣聖に関しては自ら名前を名乗らず、若手で剣聖の名前を知っている人はほとんどいないそうな。大賢者は引きこもりなのでもともと知られていません。


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