魔導士ギルド失踪事件
ギリギリ金曜日…
係留場から場所を移し応接間を兼用している広間に向かう三人と二匹。大賢者としての意識が戻ってから今までで情報収集にも引っかからなかった事件を聞いたクシルはその詳細が気になって仕方がない様子で急いで広間に向かっていた。
広間に入り用意されていた長椅子に座る剣聖。その近くにユヌが足をたたんで座り、クシルの相棒は日の当たる場所で日向ぼっこを始めた。全員が集まったのを確認してエリの使い魔であるシャルが器用にお茶とお茶請けを運んでくれた。
「それで、魔導士ギルドのギルド員失踪事件って?」
もう待てないと剣聖と大賢者そしてクシルの会合は、クシルの疑問からスタートした。
「事は一年程前、その頃から失踪人の届が増えてきているんだ。そしてそのいずれも魔導士ギルドに属しているギルド員でね」
それだけなら、基礎魔法を覚えただけで自らの技量も知らない魔導士崩れが増え、手に余る人員を魔導士ギルドが管理できていないという話なのだが。
「大賢者に関係しているから進展を報告しに来たんだよね?」
はやくはやくと子供のようにせかすクシルに呆れつつも説明を進める剣聖。
「君もご存知の通り今賢者の塔は魔導士ギルドによって攻略対象になっている」
「それは大賢者がなめられているからでしょ?」
思った事をそのまま伝えた所隣からその大賢者の拳が落ちてくる。
「魔導士ギルドのギルドマスターシェナスには会っただろう?彼はエリちゃんの事を大賢者と認めていない、認めてはいないが実力は理解している」
それをなめられているというのでは?と思いながら先ほどゲンコツをくらったばかりだ、口にするのをやめたクシル。何を言うか分かっていたのかキッと睨みを効かすエリは剣聖の話を続ける。
「一年半くらい前に魔導士ギルドから招待状が届いてね。私が大賢者になった後に挨拶にも行ってなかったからちょうどいいと顔を出したんですよ」
「その時の魔導士ギルドのギルマスがえらく下手に出て来てですね、もっと交流しましょうとか魔法を教えてとか勝手な事を言うもんだからホントに挨拶だけして帰ってきたんです。その後から魔導士ギルドが賢者の塔攻略に乗り出して……」
「教えを請う位には実力を評価している相手であり、嫌がらせをされる位には意識されてるって事か……」
なめられているというよりは逆恨みされているような感じかとクシルは一人納得の声を上げる。
「その通りです! なめられてるわけではなく向こうが意識しすぎなんすよ!」
地団駄を踏むエリは、シュシュっとおそらく想像上の魔導士ギルドのギルマスに向けて拳を突き出す。「本気出せば塵一つ残さず消してあげるんですけどね……」挨拶の際に相当色々言われたようだ。そんなエリをおいて剣聖が資料をクシルと大賢者に見えるように置く。
「話は戻るが失踪したギルド員達にはもう一つ共通点があったんだ」
「話の流れ的に言うなら、賢者の塔の攻略組だったとかかな」
「話が早い。そう、賢者の塔攻略組のメンバーが失踪しているんだ。シェナスが”うちのギルド員が賢者の塔から戻ってこない、実験台にしたのでは? ”とエリちゃんに難癖をつけてきていてね」
「調べさせるために賢者の塔を開放しろとか馬鹿言ってんじゃないですよ! 私の方は無視を決め込んでますが失踪騒ぎがあるのにさらに人数を増やして賢者の塔攻略に向かわせてるんですよ……?」
さらに腹を立てるエリ、クシルの姿で最初に会った時は余裕が無さそうだったがこれで理由がわかった。
「言った事があるだろう? 基礎魔法が広まり魔導士ギルドの影響力が大きくなっていると……ギルドマスターが集まる会合でも話題に上がってはいるのだが無下に出来ないんだ。それで賢者の塔を登ったことのある私がエリちゃんに直接話を聞いてくるという事でとりあえず話が付いたのだが……」
「そこまで来ると逆に魔導士ギルドが怪しすぎるんだけど……?」
自分になびかない大賢者に対して逆恨み、失踪人も自作自演で賢者の塔を開放するように迫る、それであれば筋の通った話だ。本当だとしたら魔導士ギルドのギルドマスターに対して呆れて物も言えないが……
「あぁそれで私がエリちゃんに事情を話して、魔導士ギルドについて調べを入れてもらってるんだ」
「このまま大賢者がなめられっぱなしで居るわけにはいきませんからね!」
ここまでが大賢者と共有している内容だと前情報の説明をしてくれた剣聖。一通りの話を聞いてやはり魔導士ギルドの動向が気になる。
「そしてこれが今日の用向きだよ」
先ほど剣闘士ギルドで見た資料を改めて大賢者に見せる剣聖。大賢者はざっと目を通すとため息を一つつく。
「精霊たちがジャズの獣と呼ぶシルバーウルフのリーダ、なぜ魔力を失っていたのか……エリちゃんの記録に何か残っているかい?」
「どうせ貴方が来る事はわかっていたから事前に行動記録と音声記録をさらっていたのだけど……なにも残ってないの。記録だけ見ればシャズの獣はいきなり魔力を失っているわ」
「魔導士ギルドのギルマスがわざわざ訓練に出張ってるのも気になってこっちも記録を見ていたのだけどおかしな記録はなかった……そう」
「おかしなくらい何もないのよ」
問題が発生した場所で何も起こっていない。火があるのに煙が見えないではおかしいのもうなづける。
「おそらく妨害装置があったんだろうな」
「ええ、私や他の誰かが情報取集を使っていても問題無いように周囲のマナを遮断する魔道具で妨害されている。シャズの獣がいきなり魔力を失っているという事は妨害装置を持った誰かがシャズの獣に近づいて何かを行った」
エリとクシルの見解を聞いて剣聖は再度紙束を取り出す。
「それが聞ければ、グレーがより黒に近づいたって事だな。うちのギルドで確認をした所わざわざシルバーウルフの生態調査って依頼を魔導士ギルドが発行していた。それも何回もだ、恐らく下見と実行した後の確認という事だろう」
それは、訓練場に貼られていたであろう依頼票、発行者の欄に魔導士ギルド職員の名前が載っている事を証明する調査結果も一緒になっていた。
「黒には近づいたけれどまだ決定的な証拠がないわけね」
エリがどうしたものかとうなりながら頭をひねる。だが剣聖は何か考えがある様で、にやりと笑いながらエリに声をかける。
「その通り……だから君の所の弟子を借りられないかな」
「魔導士ギルドに潜入してもらいたいんだけど」
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