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空の散歩

 剣闘士ギルドでのギルドマスターの部屋に滞在したのは半刻にも満たなかった。資料を見て事情を話して「さぁ行くぞ」と剣聖に連れら来た道を戻り事務所の裏にある階段を登っていく。


「お待ちしておりました剣聖」


 付いた場所は観客席の上で広い平らな空間。その場所は見上げれば一面空で遮るものも雲だけだ。何があるのかと見て回れば一か所ポツンと小屋があり小屋の床は穴が開いて下と繋がっていた。


「ピィーーーーッ」


 その穴の部分からバサリバサリと羽音を立ててグリフォンが剣聖に向かって飛んできた。下の階をのぞきこむと何匹かのグリフォンが厩務員から餌をもらっており、小屋部分の下の階が厩舎、観客席の上の空間がグリフォン達の発着場となっているようだった。


「おいおい、気が早いなもう準備万端なのか?」


 ユヌと刻印された足環をつけたグリフォンは剣聖の到着を感知したのか餌を放り出して剣聖のもとへ飛んできた。太い前足で器用に剣聖に抱き着き、剣聖も応えるようにその背を撫でていた。


「見事なグリフォンですね、それによく懐かれている」


「あぁこいつは私が孵したものだから家族と思ってくれていてね、よくいう事を聞いてくれるんだ」


 今から剣聖と向かうのは賢者の塔、転移魔法(ドアーズ)を使えばすぐに向かうことはできるが大賢者時代もほとんど披露していない魔法だ、このまましばらくは秘匿しておきたい。それに、今後足代わりにされたり急な呼び出しをくらうのも面倒だとクシルは考えていた。

 魔船を使って陸を進めば急いでいても一日はかかる行程。だが空を飛んで最短距離で向かえばかなり時間が短縮できる。今回のように少人数の場合は魔獣に乗せてもらうのが一番早い。

 森林ギルドでは鳥の魔獣、海洋ギルドではワイバーン、魔科学ギルドでは最近製造された小型の飛行船、魔導士ギルドでは風魔法を使う魔獣や精霊の力を借りる事で……そして剣闘士ギルドではグリフォンを移動の為にギルドで飼育していた。


 ユヌと名付けられたグリフォンは毛艶もよく体格もがっしりとした個体で、見える部分は後からやって来たグリフォン達よりも優れている事がわかる。ただ内面はまだまだ甘えん坊なのか剣聖の脇を離れる事は無かった。


 剣聖は言わずもがなユヌにまたがり、クシルも「大丈夫かい?」「乗り方はわかるかい?」と厩務員に心配されながらも別のグリフォンがあてがわれる。


「それでは予定通りこの子と出かけてくる。くれぐれも誰も入れず行先も伏せるように」


「はっ」


 王都支部の支部長に声をかけると、剣聖とクシルは賢者の塔に向かって飛び出した。


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 しばらくはまっすぐ飛ぶだけだが、ユヌは剣聖と出かける事がよほどうれしかったのかアクロバティックな飛行を続けながら目的地へ向かっていた。クシルはユヌの飛行を相棒のグリフォンと共に呆れて見ており「お前は普通に飛べばいいんだよ」「ピィ」と奇妙な情が芽生えていた。


 王都の外門を超え、田畑の広がる農業地帯を超え街道から外れた平原の奥にある森、その森を更に奥に進んだ所に賢者の塔はあった。情報収集(データログ)や感知魔法に意識を向けるとどんどん人の数は減り魔獣が増えそして賢者の塔の周辺では精霊の数が一番多くなる。


 だがこれでもクシルの大賢者時代と比べると人の数は多い。エリから聞いてはいたが、大賢者不在の今、魔導士ギルド主体で”塔を踏破した者が次の賢者、魔導士ギルドが後ろ盾になる”とふれ回っているらしい。その挑戦者が次から次へとやってくるのだ。


 腕に覚えのある魔導士であれば賢者の塔を登る事が出来るかもしれない。だが賢者の塔にはエリが居る、話とは違って大賢者は健在。登り切った際に自身の腕とエリの力を比べエリを差し置いて自らを賢者と名乗れる魔導士は居ないだろうそれほど大賢者という名は桁違いなはずなのだ。

 つまり現状つぎからつぎへとやってくる挑戦者たちは大賢者として相対したことが無いにも関わらずエリを下に見ている愚か者たちと言う事。


「よし、ではこのまま最上階に向かおう」


 賢者の塔までもうすぐという所で高度を上げる剣聖とクシル。このまま塔の下に降りて登っていく事もできるがグリフォンで着地するのはそれなりに人目を引いてしまう。その為空から賢者の塔最上階へ向かう事にした。


 賢者の塔では空から攻略しようとやってくる不届き物を拒絶する為に結界が張られており上空から侵入する事はできなくなっている。だが生活必需品や情報などを外部から輸送してくる場合下から登ってくるのでは大変なので空を使って運んできてもらっている。


 それを可能にしているのが大賢者印の割符。魔力を登録した特殊な木札を二つに割り、片方を賢者の塔に置いておく。来訪者側はもう一方の木札を持って魔力を流す事でもう一方の木札が反応。その内容を使い魔たちが確認して問題なければ結界に入り口を作るという流れだ。


(あれ剣聖に渡してたっけかな? エリが渡したのかな……?)


 クシルは塔の下から登ってくるルートが好きだった。自分が置いておいた罠や問題をどうやって解いたのか、どう挑んだのかを確認して自身の知識欲(知りたがり)を満たしていた。

 その為下から登るルートを推奨しており上ルートは本当に生活に必要な物の輸送業者のみにしか渡していなかった。


 割符を準備し魔力を流し込む剣聖。結界に穴があきグリフォン達がその穴を通って結界内に侵入する。今回に限ってはクシルも同行している、エリが着陸ができる係留場まで出迎えてくれていたので最悪割符が無くても行けたかもしれないが。


「久しぶりね剣聖サマ……手土産の一つでも持ってきたんでしょうね? クシル君もよく来たわね……プっ……」


 出迎えてくれたエリが剣聖とクシルに挨拶をする。恐らく顔を見た事で訓練場での自分(クシル)の噂でも思い出したのだろう。どうやら生産ギルドでは危ない新人という事で警戒されているようだったし……


「エリちゃん久しぶりだね、もちろん持ってきたさ」


()()久しぶりデスネ」


 最大限威圧した事でエリは笑顔を消し通常運転に戻って剣聖の方へ視線を向ける。


「それで今日は何の様かしら?」


「ある程度事情は見ていたのだろう? 君の所の秘蔵子が倒したって言うシルバーウルフについてさ、それともう一つ」


「何か進展があったのかしら?」


「ああ、今回の件も魔導士ギルドのギルド員失踪事件につながっているようなんだ」

30話となりました、よかったらブクマ評価よろしくお願いいたします。

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