剣闘士ギルドへ行こう
訓練場で受け取った剣闘士ギルドの召喚状、その呼び出しに応じてクシルは王都にある剣闘士ギルドの支部へ向かっていた。
剣聖による基礎訓練の視察が終わりその報告とギルド運営の業務を剣闘士ギルドの本部で行っていたが、王都に滞在する週があるという事で剣聖が居る際に剣闘士ギルドの王都支部へ来るようにと召喚状に書かれていた。
王都の中心から外れた場所に居を構える剣闘士ギルド王都支部。支部ではあるが他のどの戦闘ギルドよりも大きいため外門に近く居住区も商業区からも外れた場所に建てられていた。
その理由が、施設の大半を模擬戦を行うための会場にしたため広い土地が空いていた外門の近くになってしまったという事を受付と共にギルド内の案内をしてくれた職員が教えくれた。実際に案内してもらい試合会場と併設された観戦席を見る事が出来たが、何かの興業でも行うのだろうかという規模の会場が設置されており、丁度剣闘士ギルドのメンバー同士が模擬戦を行っており観衆たちが声を荒げ観戦している所も見る事が出来た。
「もうしばらくするとギルド内の大会が開かれるのです。各支部で予選を行って本部にあるコロシアムで本選を開催するのですよ。剣闘士として上のランクに行くには一度は大会で上位入賞しないといけない為それはそれは真剣な試合でしてここの観戦席が埋まるほどの大人気の催し物なのですよ」
確かに毎年そんな催し物があったなと古い記憶を思い出すクシル。
「それでは剣聖の手が空いたらこちらに迎えに参りますので今しばらく観戦していてください」
丁度外せない用事があったようだが、剣聖からの召喚状もあった事で六歳相手とは思えない程の破格な対応で模擬戦の見える応接間に通されたクシル。
すぐに案内されるとは思っておらず内職の準備もしていたが模擬戦の様子が気になり試合状況のよく見える窓側の席に座る。
剣闘士ギルドは“如何に自らの力を高める事ができるか”という実力主義。何かにつけて力比べで優劣をつける文化がある。今行われている模擬戦も共同依頼での報酬について取り分を決める為にパーティのリーダ同士が一対一で戦っていた。
片方は自身の身長もあるであろう大剣を振り回す筋肉隆々の大男、もう一方は剣聖やクシルと同じ”剣魔”のスタイルを扱う前髪が顔までかかった暗いイメージの男。
模擬戦の為、時間制限あり、ギブアップあり、武器が手から離れるか武器が破壊された場合は負け。それ以外だと審判の判定で優劣をつけるという事だった。
試合緒中の観戦ではあったが始終筋肉男が攻めに攻め剣魔の男性は押され続けていた。
だがそれは”斬る為”に隙を狙い続けている事でもある。なかなか勝負が決まらない中剣魔の男性が勝負に出る。
ここまで一切使う事のなかった土魔法を使ったのだ。土魔法で出来たぬかるみが筋肉男の足元をすくう、これまで無属性の魔力針にのみ気を張っていた筋肉男だったが回避することができず隙を見せてしまう。
「なかなか面白い試合となったな」
丁度試合が終わった所を見計らって剣聖がクシルに声をかけてくれた。受付の職員が迎えに来るという話だったが剣聖自身が迎えに来てくれたようで、試合が終わるまで待っていてくれたようだ。
試合の結果はというと、隙を見せた筋肉男だったが何とか大剣を身体の前に出した事で防ぐことができた。剣魔の男性の一撃で大剣と共に筋肉男が大きくのけぞるものの見事耐えきり、最後筋肉男が反撃に出た所で勝負が決まった。
試合の結果を見終わったクシル達、剣聖の案内の元応接間からギルドマスターの部屋へと移動する事となった。
「剣魔の神髄は斬る事だ魔法で隙を作る事ではない。斬る隙が無くても斬る。それを如何にして斬るか……だ。まぁまず君は見事に攻撃を耐えきった相手の筋肉を見習うべきかもしれないな」
歩きながら先ほどの試合の感想戦を話すクシルと剣聖。剣魔の男性が相手を斬れなかった模擬戦で刃を潰した試合であり、本来であれば斬るなんて事自体出来ない試合ではあった。
だが剣聖曰くそれでも相手の心を斬る所までいかなければ上位入賞など難しいだろうという事だった。
訓練場で剣聖と手合わせをし、剣聖が剣を一振りをした際クシルは確かに斬られたと感じていた。それが剣聖の言う心を斬るという事なのだろうが……
「雑念があるうちは難しいだろうな」
と、しばらく剣魔スタイルのアドバイスを聞きながら歩いていくと剣闘士ギルドの最奥にあるギルドマスターの部屋に着いた。部屋には誰もおらず剣聖とクシルのみ。大きいデスクの前に置かれた商談が出来そうな長椅子に対面に座り剣聖は今回の要件を話し始める。
「わざわざすまんな、今回来てもらったのはこれについてだ」
そう言って剣聖は紙の束をクシルに見せる。訓練場の近くの森を超えた魔獣領域”ブゼズ洞窟”その洞窟の実質的な主シルバーウルフのリーダであった”シャズの獣”そこ紙の束は基礎訓練で起きたシャズの獣討伐についての資料だった。
そしてその資料にはシャズの獣を討伐した後ギルド職員が亡骸を回収しておりその解剖結果。また数日前から魔導士ギルド主体で行われていたシルバーウルフの生態調査の結果、そしてケガを負った訓練参加者と討伐を行ったクシル達の証言が細かくまとめられていた。
「君が一緒に戦ったフレイ君とベーヌ君にはすでにうちのギルド職員が話しを聞いて来た。だが君には私が直接話を聞きたいと思ってね」
「といっても、大体報告済みだと思いますが……」
「全てを報告はしていないだろう?」
確かに、”情報収集”で得た情報や、魔力を回復させるために強引な治療を行い土魔法を使用するように促して細工を行う魔導士ギルドでも上位実力者しかできない魔力操作を行ったのだ、信じてもらうためにはクシルが色々と手札を見せないといけない。
丁度依頼の完了報告の時点でフレイとベーヌは疲労困憊だったためクシルがある程度都合のいいように報告が出来た。後でフレイに詳細を聞いていたとしても全ての作戦がわかっていた訳ではない自分の言い分を追認してくれるだろうと考えていた。
だが剣聖には大賢者に縁のある人物という事は割れている。信じてくれるのであれば話をしても問題はない、その為にわざわざ直接二人きりで話す場を持ってくれたのだろう。
「魔力がありませんでした。魔力切れではなく、魔力瘤が割れた後のように魔力が失われていました。それに精霊たちに愛されるような気高き狼のはずが血を追い怒りに身を任せるような戦い方だった」
「うむ、シャズの獣を討伐後に再度シルバーウルフの群れを調査したが今までNo2と確認されていた個体が何事もなかったかのように群れのリーダとなっていた、ケガも無く……だ」
剣聖はクシルの話を聞いて納得するかのように状況を話してくれた。
「シルバーウルフは魔法が全ての群れだ、魔力を失ったリーダーに対して群れの幹部たちがクーデターを起こしたのだろう。それで手負いの状態で上層近くまで追いやられた。というのが研究者の見解だ」
「その通りだと思います」
クシルも討伐後の調査結果は情報収集で確認しておりシャズの獣の動きと合わせて考えた所同じ見解が浮かび上がった。だがそれは結果だ。
「なぜ魔力を失ったか……か」
「それは……僕もそこまで広い範囲では情報収集してませんでしたから」
「という事はやはり彼女に聞くしかないか」
「まぁ……それが一番早いですかね……でも応じてくれるか」
「まぁそこは大丈夫だろう!これは彼女にも関係ある話だ」
弟子がかかわってるんだから師匠も出てくるだろう?というような含みのある良い方をする剣聖に良いように使われた気になるクシル。
だがまぁ大賢者エリであれば世界中の情報を集めている事だろう。丁度、酒の肴程度の理由でクシルを追っていただろうし先んじて状況確認を行っているかもしれない。
「ではいくか!」
「今からですか……?」
「あぁ! もう準備してある」
そういうと、剣聖は席を立ちクシルを別の場所に案内するのだった。




