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仮パーティ解散

 シャズの獣との遭遇戦から一夜明けた翌朝、話し合い兼朝食の為にクシルは食堂に向かっていた。

 カウンターで朝食を受け取り辺りを見回すがまだフレイとベーヌは居ない。広めの席に陣取り朝食を口に運ぶ。

 訓練場に着いたその日から今まで毎日顔を合わせていた二人。クシルもベーヌも朝早くから活動するタイプだったため、眠たそうにしながらもベーヌに付き合うフレイの三人で毎朝大体同じ時間に朝食をとっていた。気が付くと朝食の後の時間がパーティ会議の時間となっていたのだ。


 朝食も終わり木工細工の内職をしながら待っていると。まだ眠そうに目をこするフレイと疲れからかいつもより遅い到着のベーヌが現れた。二人もクシルを見つけ、朝食を受け取って合流する。


「疲れは取れた?」


「うーん……まぁ……」


 フレイはいつもの調子で半分寝ながら朝食を口に運んでいく、しばらくすると食べるのを忘れ寝てしまうのでベーヌが小突いて起こしまた寝ながら食べるというループをしばらく繰り返す。


「クシル君はホント元気ですね……」


「まぁいつも通りだよ?」


「さっきお手洗いでポワンシーさんに会いましたけど、クシル君昨日も夜まで内職してたんでしょう? ちゃんと休めてます? 回復薬要ります!?」


「ポワンシーさん打ち上げで飲みすぎて変な時間に起きて来ただけでそんな夜遅くまではやってないんだけどな……たまたま目を覚ました時に内職してただけだよ? 」


 その後、酔い覚めと胃痛に聞く薬を作ってあげたのだから寝ててほしかったというより起きててありがたいと思っているだろうな等と考えていたクシル。


「打ち上げという事はポワンシーさんも無事に訓練が終わったのね!」


「そういってたね、シャズの獣の生態調査ポワンシーさんのパーティーで一昨日受けてたらしく、一日ずれてたらどうなってたことかって泣いてたよ」


 シャズの獣に襲われた魔導士ギルドの訓練生、下層に居た四名は全員重傷だったが土魔法で壁を作ったり不可視魔法を使ったりと何とか切り抜け命だけは助かったそうだ。その中にはポワンシーの顔見知りも居たそうで、訓練終了の打ち上げの予定が「私たちがああなっていたかも! 」「でも何事もなく終わったんだから」とテンションの乱高下が激しい飲み会になったそうだ。


「ポワンシーさん達は今後どうするのかしら」


「うーん?しばらくは今のパーティで活動するって言ってたよ」


「そっかぁ……」


「また悪い癖が出てるぞベーヌ、遠回し過ぎると伝わるものも伝わんないから……」


「もう! フレイはさっさと朝ごはん食べ終わってよ! その話したいんだから」


「へいへい」


 小突きの後は小言を言われ、なんとか目を覚ましたフレイ残った朝食をかきこみパーティ会議を始める準備が整った。

 まずは報酬の分配。といってもクシルはシャズの獣の牙と爪を幾つかそれにシャズの獣の魔石をすでに現物で受け取っており、報酬と素材を換金したお金はベーヌとフレイ二人で分ける事で早々に話がまとまった。それよりもベーヌの関心のある話題は次なのだ


「それでクシル君は今後どうするの?」


「とりあえず基礎訓練一通り終わったけど、まだ森林ギルドと海洋ギルドそれに魔科学ギルドとしての訓練をやってないからね、弓とか槍とか新しい武器を試す為にまだしばらくはここに居ると思うよ」


「そう……その後は?」


「しばらくは生産ギルドで納品を続けながら戦闘ギルドの依頼を受けてランク上げって感じだから王都に居るかな」


 戦闘ギルドでは低ランクの間は依頼の数をこなしていかないと脱退勧告がなされる。剣闘士、森林、海洋、魔科学と四ギルドの依頼を順番にこなしてランクを上げ制限を無くす必要がある。生産ギルドは時間的なノルマは無い物の定期的に数をこなすことがギルド内のランクを上げる近道なのだこちらも並行して進める必要があった。

 生産ギルド内のランクを上げれば開示されるレシピや素材なども広がり、それ相当の力があると認められ納品できる品も増えるのだ。レシピ等はすでに知識として持っているクシルだが早いうちに難しい加工に取り組めばその分アチーブメントの職種ランクが上がるのも早いだろうと考えていた。


「ね! 私は王都に戻ったら薬学ギルドで納品したりフレイと一緒に素材を集めたりするのだけど、クシル君も王都に戻ったらまた三人でパーティを組まない? というか弟子として師匠に色々教わりたいのだけど!」


「弟子は取らないって言ったでしょ……パーティを組むのは構わないけどまだしばらくは一人であれこれ試してみるつもりだから期待には沿えないと思うよ」


「近くで見てクシル君の薬学の知識は祖父と同じレベル……いや祖父を超えてるのよ! だから弟子じゃなくてもまた近くで見れれば……」



「こんなに仲良くなれたのだから、別れが悲しいんだってよ」


「フ、フレイ!」


「だからベーヌは遠回しなんだって……それに別れって言っても今生の別れじゃないんだし薬学ギルドでもまた会うんだろ? 今あーだこーだ誘うよりクシルの都合がついた時にまたパーティ組めばいいじゃねーか」


「うっ……」


 基礎訓練の終了認定を受ければ仮で組んでいたパーティは解散となるが、寝食を共にした同年代の知り合いというのは貴重で仮パーティがそのまま継続して本パーティになる事はよくある事ではあった。

 だがクシルはアチーブメント取得を第一に動くつもりでパーティを組む際に基礎訓練だけの仮パーティで訓練後は解散という事で話はしてあった。


 しかし最後の訓練まで一緒に過ごし他人とは思えないのはクシルも同じ。大賢者時代、弟子のエリ以外で数人程度しか友人と呼べる存在は居なかったクシル。それも同じ時間を過ごせたのは大賢者の長い寿命にしてみれば一瞬。久しぶりのこそばゆい感覚に口角が上がるクシル。


「フレイの言う通りまた薬学ギルドでも会うだろうし素材集めをお願いするかもしれない……後は僕の薬品をベーヌの実家に卸したり逆に買い取ったり……まだまだこれから関わりがあるのだから悲しくならないでよ。僕たち友人でしょ?」


「ええ……わかったわ…… クシル君が路頭に迷ったら友人として雇ってあげるんだからね!」


「これは恥ずかしがってるっていうのはわかった」


「お!クシルもベーヌの事わかってきたな」とフレイが笑い「もー」と怒るベーヌ。にこやかな空気でパーティ会議は終わり、ベーヌとフレイが王都に戻る数日の間は、もうしばらく仮パーティを継続して素材集めをするという事で落ち着いた。


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「来たか若き店主達! 研修はどうだったかな? 」


 そこに集まったのは生産ギルドのうち自らの店を持つことを望んだり、二代目三代目として店を受け継ぐ事が決まっているメンバー達だ。戦闘ギルドのように年齢での区切りではなく自主的に応募する必要があるが職人としてではなく店主としての研修をこの訓練場で一通り行っていた。

 そしてそのメンバー達は、最後の研修である訓練場にある各ギルドの店舗を若き店主達だけで運営してみるという研修を終えたばかりであった。


「今日まで色々ときつい研修を受けてきた事だろう。最後の研修は反省会という名の打ち上げだ、今日はゆっくりすると良い。そして同じ志を持つ者は貴重な存在だ研修の最後におのおの繋ぎを作るといいだろう」


 服飾ギルド、鍛冶ギルド、薬学ギルド、調理師ギルド、細工師ギルド今回は全てのギルドから数名参加しており、最初のうちは監督役の初老の男性が参加者に声をかけ、話題を振っていたが次第にグループが出来、現場の愚痴や経営についての相談をしたりと和気あいあいとした会となっていった。


 しばらくすると噂話にも花が咲く。


「そういえば、うちのギルドにとんでもない新人が来たんだよな……! 毎回とんでもない数の糸を納品するのにほぼ毎日受付にくるんだぜ……ああいう子とは繋ぎをつくっておきてーな!」


 と服飾ギルドの若手が話せば


「うちもうちも! なんか見た事もない食材を納品した新人が居たんだって! 流石にこの訓練場じゃ管理もできないからって王都に送ったらしいよ!」


 と調理師ギルドの若手が話す。すると


「うちの新人はやばい奴がいたらしいよ……専用の機材が必要な素材の納品があったらしくてこんな訓練場でそんなものの納品だなんてなんかやばい事してるんじゃないか―って問いただしたらわざわざ自室に作業場を持ち込んでたらしくて……!」


「おー」という歓声と共に鍛冶ギルドの若手が盛り上げる。最後に


「うちなんか困ったもんだよ、新人がギルドを介さずに薬品の授受を行ったみたいでさ。しかもそれの効果が抜群だった見たいで魔導士ギルドの人達がひっきりなしに「クシル君の薬って置いてます?」って……」


「「「え……? そっちのスゴイ新人もクシルって名前なの……!?」」」


「「「「え……?そっちも…???」」」」


 気が付けば全員が同じ人物の噂話をしていたと知って驚きの声を上げた。そしてその噂話は全部本当の事だとしっている監督役のギルド員―この訓練場で生産ギルドを取りまとめる初老の男性は若手たちの反応にゲラゲラ声を上げて笑っていた。


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「なんか鼻がムズムズする……」


「風邪ですか? クシル君は本当に働きすぎなんですから気を付けてくださいね……? はい、これが本日納品分の報酬ですよ」


 総合受付で本日の討伐依頼の完了報告を行っていると顔なじみとなった受付の女性が対応してくれた。何やらどこかで噂話をされていたのか、その噂話をリアルタイムでチェックしていたのかエリの笑い声が聞こえた気がした。今度あったらどうしてくれよう……


「ありがとうございます、たぶん誰かが噂してるだけだと思います」


「それならいいのだけど、あ、あとクシル君に剣闘士ギルドからの手紙が届いてました」


 受け取った手紙の封蝋に押された印は剣闘士ギルドの物。その場で中を開けて内容を確認すると丁寧に書かれた召喚状。最後に押された印は見覚えのある印だった。その印がちらっと見えたのだろう受付嬢が驚いた声を上げた。


「剣聖からの呼び出し!?? クシル君なにしたんです!??」

基礎訓練編終了です!

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