疲れた
「なんでこんなになるまで戦ったの! 無茶はダメって言ったでしょ!」
ブゼズ洞窟に西から日が射し始めた時間帯、クシル達がジャスの獣と戦った場所にベーヌと救難信号を見て駆け付けたギルドの職員が集まっていた。
「いやぁ……全力出さずに逃げるのは惜しいなって……」
「右に同じ……」
ジャスの獣との遭遇戦、終わってみるとクシルもフレイもボロボロの有様。シルバーウルフ四匹との戦闘に完勝出来た事で強敵とはわかりつつもシャズの獣に挑んだ結果だ。
ケガ人を放置して逃げに徹すれば逃げる事も、救援が来るまで耐える事も出来ただろう。それにシャズの獣が魔法を使用していればセオリー通りに魔法発動の隙を狙いもう少し難易度は低かっただろう。
だがなぜかシャズの獣は魔法を使用せず、怒りで強化された瞬発力が二人を翻弄。速さに対応できず決定打を決めれなかった事がクシルとフレイの反省すべき点だった。
だが結果的にはボロボロになりながらも戦闘に勝った二人。そんな二人に対して怒鳴り散らすベーヌ、何度か洞窟を潜るつもりで準備した回復薬を全部使いきったのだからと二人は甘んじて受け入れてた。
一緒に救援に来たギルドの職員はボロボロの二人は置いておいて討伐された個体シャズの獣に目を向けていた。
「しかし、なぜ昨日最奥で確認できた群れのリーダーが上層に居る……それになぜ一匹で?」
「発見者の魔導士ギルドの訓練生が遭遇した時にはすでに一匹で手負いだったようです」
クシルは”情報収集”で確認していた事を伝える。
そう……一匹でかつ手負いだった。これはクシルとフレイにとってプラスに働いた。リーダともなれば取り巻きがおり、そもそも複数での狩りを得意としているシルバーウルフ。集団戦となったらさらに攻撃手段が限られていただろうとクシルは考えていた。
「ともかく無事で何よりだ、下層に居る魔導士ギルドの訓練生は我々に任せて訓練場に戻りなさい」
「それじゃぁ討伐証明だけ取らせてください! これでシルバーウルフ五匹なんです」
「そ、それは良いがこいつを普通のシルバーウルフ扱いでいいのか……?」
「いいんですいいんです」
「君たちがいいならいいが構わないが……我々は下層へ向かうが今後の調査のためにソイツは回収していく、討伐証明を回収したらそのままにしておいてくれ」
そろそらベーヌの説教を聞き飽きたとフレイがシャズの獣の素材を回収を提案し、了承した職員たちはバタバタと魔導士ギルドの訓練生の状況確認へと下層へ向かっていく。
「次は私だけ仲間外れなんてやめてよね……」
素材の回収を始めたクシルとフレイとベーヌの三人、職員達も居なくなり三人だけとなった時にベーヌが頬を濡らしながらシャズの獣に刻まれた傷跡を触る。
基本的な作戦が奇襲なのは防御力も回避力もないベーヌをかばわなければいけない状況をなるべく作らない為だとベーヌ自身が理解していた。もし今回の戦闘で自分が居れば足手まといになりフレイとクシルは今よりもけがを負っていただろう。理解はしていたが感情はそうもいかない。
「ベーヌの作った回復薬いつものよりうまかったぞ」
「……当たり前でしょ」
こうなったベーヌを慰めたりするのは得策じゃないと、いつも通りに接するフレイ。それを知っているベーヌも切り替えて素材回収を手伝う。
そんな中クシルが思い出したかのように二人に声をかける。
「そういえば午前中に回収した分って誰か持ってる?」
「「 アッ 」」
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シャズの獣の素材を回収し、もともと休憩を行っていた行き止まりまで戻ったクシル達。
魔獣をケガ人に近づけさせない為に作った土魔法の壁を崩し、午前中に討伐した分の素材を無事に見つける事が出来た。
ただ壁を崩す際そこをよじ登れるほど回復した魔導士ギルドの訓練生が慌てた事で落下し、再度気を失った彼を介抱するのに少々時間を食ったわけだが、何とか日が傾く前に訓練場まで戻る事が出来た。
午前中から動きっぱなしの三人はくたびれた体を何とか動かし簡易依頼掲示板がある総合受付で依頼の完了報告を行う。フレイとベーヌは査定待ちという事で近くにある椅子に腰かけそこでやっと疲れた身体を休め足を伸ばすことが出来た。
「なんだそれは……?」
「シャズの獣の魔石なんだけど、このサイズで空っぽな魔石はなかなか手に入らないんだ」
フレイ達の近くで手に取った大人のこぶし程ある魔石の状態を確かめていたクシル。それはシャズの獣から取り出した魔石だった。
身体を循環していた魔力が一か所に留まって固まる事で魔石となるがシャズの獣は魔力を失っていた。本来であれば魔力が無ければ魔石は生成されないはずだが、魔力を失ったり枯渇していても魔石は生成される。しかも生成される魔石は魔力の色が付かず無色透明な魔石となる。
これについては諸説あるが魔力を失ったり枯渇したりしたとしても体内に魔力の発生源があるはずでその部分が固まってしまうというのが現在の研究結果だ。
「空っぽな魔石って誰の魔力も抽入されていないからノイズが少なくて、大容量の情報書き込みをするのには便利なんだ! これ僕がもらっていいかな?」
「あぁ……もってけ、それにしてもお前元気ありあまってるのな……」
回復魔法や身体強化魔法を使えるクシルの身体は元気、二人を差し置いて戦利品にテンションを上げていた。
ベルがなり呼び出しを受け依頼の完了にサインをもらったクシル達は報酬と素材の換金を受け取る。だが、査定が終わるころにはベーヌは寝息を立てておりフレイも疲労困憊。クシルの疲れ知らずな状況を呆れられ分配や今後の話はまた明日という事で解散となった。
少し短めですがなんとか水曜日に更新……




