シャズの獣②
剣聖からもらったアクセサリーをネックレス→ペンダントに変更しています。
クシルたちの前はシャズの獣の巨体が道をふさぎ、後ろはブゼズ洞窟の行き止まり。
若手ギルド員の登竜門であり訓練場の依頼掲示板は多くがブゼズ洞窟の依頼、人の出入りは少なからずある。
時刻は昼過ぎ午前中から動くパーティは多くないため感知魔法で確認しても近くに人は居ない。だが時間がたてば救援は見込める。
「まずはメイン通路へ出るよッ」
[クシルは”土魔法2:ロックウォール”を唱えた。クシルの”ロックウォール”]
クシルは、範囲魔法を唱えシャズの獣めがけて発動させた、シャズの獣の下からせりあがった壁というには、分厚い岩が腹部を狙う。と同時に、せりあがった岩を創りだす為に周囲の土や石が抉れていく。
剣聖からもらったアクセサリーによって魔力出力を抑えられているがクシルの緻密な魔力操作がそれを補う。本来であれば洞窟の崩落へと繋がる行動ではあったが抉れた部分をも補強して入り口を拡張していく。
回避行動をとるシャズの獣の脇をクシルの掛け声とともに駆け抜けるフレイとベーヌ、ケガを負った魔導士ギルドの訓練参加者はベーヌの回復薬と応急処置である程度は回復しているだが、連れ出す余裕は無い。三人がメイン通路に出た事を確認してクシルは拡張した入り口を今度はせりあがった岩を器用に広げ行き止まりだった空間に目隠しをする。
「これで僕たちが気をひけば彼は攻撃されない! ベーヌ行って!」
「クシル君もフレイも無茶はダメだからね! ちゃんと逃げるんだよ!」
「わかってる! クシル前!」
先ほどまで魔導士ギルドの訓練参加者を追っていたシャズの獣は攻撃対象をクシルに合わせる、振り上げた前足が空気を裂いて振り下ろされた。クシルに攻撃が向いた事を確認してベーヌは急ぎメイン通路を出口に向かって駆け出した。
先ほど戦ったシルバーウルフと比べ、三倍はある巨躯にも関わらず繰り出される攻撃は遥かに速い。
[クシルの”身体強化魔法” クシルに「身体強化」「スタミナ強化」の効果。]
クシルは身体強化魔法を使い、反応速度に対して遅れていた身体の動きを補い攻撃を躱し、反撃の為に剣を振る。
だが、クシルの剣はシャズの獣の毛皮で止まってしまう。身体強化していても避けながらの攻撃では力がのらず斬るまでに至らなかった。
すかさずフレイが逆側の前足めがけ剣技を放つがこちらも与えたダメージは斬撃というよりは打撃としてだ。先ほど戦ったシルバーウルフとは一線を画す大きさに速さに硬さに冷や汗が落ちるクシルとフレイ、自分達の実力を考えると無傷での討伐など無理筋。
”剣聖と戦った時より怖いものなんてない”とは言ったものの剣聖との手合わせは勝つ、逃げるの選択肢は度外視していた。クシルにとっては剣を振らせる為、フレイにとってはただじゃ終わらないという戦いだったが今回の戦いは違う。討伐、撃退、最低限が逃走、だが逃走は最後の選択肢だ、二人が逃走した場合、ケガ人である訓練参加者に向かう可能性がある。フレイは今後の道筋を考える為に新しい策に出る。
「クシル、半端な攻撃じゃだめだ。まずは魔法を使わせるぞ」
シルバーウルフの倒し方の二通り目、シルバーウルフにあえて魔法を発動させるように立ち回り隙を狙う。シャズの獣がいくら巨体で強かろうが魔法発動のために丁寧に属性変換や魔力操作の工程を進めるはずだ。通常種よりも洗練され発動が速かろうとそこには隙がある。
「フレイ、目を閉じて!」
[クシルは”光魔法1:フラッシュ”を唱えた。クシルの”フラッシュ”]
もともと日のはいらない下層に居たのだ効果は大きくシャズの獣が目を伏せる。その隙に距離を取り相手の魔法が届くであろう範囲でシャズの獣を待ち受ける。魔力感知の感知力を上げ、発動に備えるクシル。
「ウォォォォォーーーーーン!!!!」
閃光を浴びた視界が回復してきたのか首を上げ雄たけびを上げるシャズの獣。クシルとフレイの位置を確認すると、前足をドンと地面にたたきつける。
「やはり……魔力が感じられない……?」
だが、魔法は発動しない。クシルとフレイは来ると思った攻撃が来ず硬直、シャズの獣自身もなぜ地面を叩いたのかわかっていないようなそぶりを見せ、次第に目に見え怒りという感情がシャズの獣をつつんでいるのがわかった。
「グァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
[シャズの獣の”白銀の怒り”シャズの獣に「瞬発力増強」「筋力増強」の効果]
先ほどよりも大きな咆哮を上げシャズの獣の怒りが全身にまわる。そして怒りが力にかわり先ほどよりも高まった瞬発力でクシルとフレイとの距離を一瞬で詰める。
クシルは魔力が感じられない事への解答を求め思考の世界に足を突っ込んでいたため反応が遅れる。そんなクシルに気が付いたフレイはクシルの前に立ちシャズの獣の爪を剣で受け止める体勢を取った。
「フレイッ!!」
なんとか爪が届く前にフレイの背中を叩き、剣聖と手合わせした際に使った煽動魔法をフレイにかける事ができた。と、同時に魔力障壁をフレイの前にはる。
[クシルは”煽動魔法”を唱えた。クシルの”煽動魔法” フレイに「緊張緩和」「気配鋭敏化」「筋力増強」の効果 ]
しかしそんな事お構いなしにシャズの獣の大きく振った右前足は、横なぎにフレイとクシルを吹き飛ばし二人を壁にたたきつけた。
クシルは張っていた魔力障壁で激突の衝撃を分散させるが、フレイはまともに衝撃を受けてしまう。
吹き飛ばされた軌道を最短距離で走り抜け、上から爪を振り下ろすシャズの獣。先ほどは魔力障壁ごと吹き飛ばされたが今回は振り下ろし。クシルは張っていた魔力障壁を頭の上にかかげ足が地面にめり込む程の衝撃をなんとか耐える。魔力障壁と踏ん張りが持つまでではあるがシャズの獣と膠着状態に入った。
「フレイ、ダメだよ! 魔力が感じられない! シャズの獣は魔法が使えないみたいだ!」
妖精の言葉、”シャズの獣は失った”が魔力だとするなら辻褄があう。失ったという事はもともとは使えていた、通常よりも巨大なシャズの獣は群れの長に近い存在だったのだろう、それが魔力を失ったとなると魔法を誇りとしていた群れから迫害され手負いで上層付近に居たというのもうなづける。
「あーっ! やっぱお前らの回復薬は効くな!」
クシルとベーヌ謹製の回復薬で回復したフレイが、魔力障壁に爪を立てているシャズの獣の前足を斬りつける。ダメージを受け後ろに飛び距離を取るシャズの獣は再びクシル達と睨みあう。
「このままやっても瞬発力はあっちのが上だし、攻撃を避けながら硬いガワを何とかするのは難しいぞ、どうする? 救援は?」
煽動魔法が効いているのか、冷静に状況を整理するフレイ。
「魔力感知では近くに誰も居ない! ベーヌは無事に外には出れたみたいだけど……!」
「それまで持てばいいが……これを使えればもう少しやれそうなんだが」
そういいながら、フレイは自らの右腕に着けていた腕輪を触る。身体強化の魔術が刻まれているが現状のフレイでは戦闘中に扱うには魔力操作の練度が足りない。
同様にクシルはクシルで未だ全力を乗せた剣は振れていない、回避や防御、牽制に意識が向きすぎているのだ。
(だがここで魔法を使って倒しても剣の道は遠のくだけ……)
「そもそも魔力が無いって魔力切れって事なのか?」
ふと疑問に思ったフレイがクシルに尋ねる。
「魔法が使えないって訳ではなさそうだから魔力切れ……しかし精霊は失ったと言っていた……では……」
フレイの問いに真剣に考えるクシル、今にも襲いかかるシャズの獣が目の前にいるのだ深くは思考できないが、検討する余地があったのだ。
「フレイ! とりあえずがやってみたいことがあるんだけど」
「なんだ!?」
「あいつの魔力を回復させる!」
一話では終わらんかった…次回で戦闘は終わり




