魔獣領域
ブゼズ洞窟は基礎訓練場から森を進んだ先にあり、若手ギルド員の最初の関門となっている洞窟だ。
基礎訓練の最後に行う実地訓練、実際に依頼を受け、達成する事で基礎訓練の修了認定を受けることができる。実力を認められたものはソロで挑む事もできるが、多くの若手ギルド員は基礎訓練で出会ったメンバーと即席のパーティーを組んで挑む。
そして、その依頼の多くがブゼズ洞窟での採取や討伐依頼なのだ。
洞窟と言えど、森の近くにあり木々の根が穴をあけ日が差し込む場所も多い。入り組んでいるが少数で歩く分には何も問題はなく時折広い空間があり奥へ進むと下層へ続く坂道がある。
上層には草食の魔獣が生息しており、餌となる薬草や小動物もこの層ではよく見る事が出来る。そして、下層には今回のクシル達の討伐目標であるシルバーウルフたちの巣があり、肉食の魔獣たちの世界である。
「よし! いこう」
洞窟自体はすでに最下層まで踏破されており森林ギルドの管理下に置かれている。その為、上層のメインの通路には魔燐のランタンが設置されており視界の確保は問題ない。
[クシルはアチーブメント”魔獣領域開示:ブゼズ洞窟の踏破”を達成しました。]
クシルが洞窟へと一歩踏み込んだ瞬間、アチーブメント取得のログが発生した。アチーブメントリストで詳細を確認すると、”ブゼズ洞窟最下層までの踏破”が条件となっていた。
確かに大賢者時代に最下層まで踏破している。
そしてたった今、魔力感知、動体感知の感度を最大にした上で風魔法”チューニングボイス”を使った反響定位を行った。結果、記憶にある洞窟とほぼ変わらない構造を確認した所だった。
(魔力が最下層まで到達した事で踏破扱いになったのか……? いや前世の記憶がフィードバックされた? なんにせよ、ブゼズ洞窟だけのアチーブメントではないだろうから今後実証を重ねねば……)
新たなタイプのアチーブメントを確認した事で今後の活動の方針を頭の中で検討し始めるクシル。
「ほら! クシル考え込んでないでちゃんと索敵して!」
と、フレイにそのことがバレ、ケツを叩かれるクシル。フレイ曰く”クシルは顔と態度に出やすい”との事でこの数日間の集団戦闘訓練でクシルとベーヌ両名を上手に扱えるフレイがパーティーリーダの役割を担っていた。
「わかったわかったよ! しばらくはレイヨウ達だけだから、下層の入り口付近まで進もう」
今回の依頼内容はシルバーウルフ五匹の討伐。シルバーウルフ自身が魔法を扱うためその牙と爪は魔力を通しやすく、魔導士達の武器やアクセサリーの素材として重宝されているのだ。
そのシルバーウルフたちが下層から出てくるのは獲物を狙う時だけ。上層から下層へとつながる通路付近に向かえば上層の草食魔獣を狙ったシルバーウルフたちに遭遇できる。今回クシル達はその狩りの現場を事前に見つけ分断した上で各個撃破という計画を立てていた。
しばらく歩き、下層へと向かう通路に入ったあたりで早速、索敵に反応があった。
「見つけたよ、斥候役と前衛役で4匹。事前の打ち合わせ通りベーヌが一匹釣って僕が残りの三匹を引き付ける。フレイとベーヌで釣った1匹の相手を。で、仕留め終わったら合図。よろしくね」
丁度狩りを始める前のシルバーウルフの集団を見つけた事で、早速準備にうつすクシル達。
「仕留め終わったらクシルが再度分断、また俺たちが1匹だけ相手をする」
「作戦はわかってるけど三匹引き止めるんだよ、クシル君気をつけてね?」
「うん! 大丈夫!」
作戦の確認、アイテムの確認を行い準備万端の状態でシルバーウルフとの戦闘が始まろうとしていた。
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「ギャウッ」
日に日に精度を増していくベーヌの弓でいられた矢がシルバーウルフの左目を貫く。洞窟で風が無い事も影響し、かなり距離を置いての攻撃だったが好スタートで襲撃を始める事が出来た。
左目をやられひるんだシルバーウルフ、残りの三匹は狙撃してきたベーヌを見つけ一気に駆け出すがそれを横からクシルの魔力針と剣による攻撃が襲う。
魔力針はシルバーウルフの一匹に刺さり、クシルの剣は振り下ろす直前に反応され、軌道を変えたシルバーウルフの皮を裂いた程度であった。クシルの目の前には二匹とベーヌに左目を射られた一匹、作戦通り一匹がベーヌのもとへと飛び掛かる。
ガキンッ
向かってきたシルバーウルフの牙を剣で受け止めるフレイ、そのまま剣を逸らしてシルバーウルフを壁へと投げ飛ばす。綺麗な受け身で壁を蹴るシルバーウルフは危険度を更新しフレイの処理を最優先へ切り替え、再度飛び掛かる。
だが、フレイはその軌道を先読みしていた、身体を半身ずらしておとりとして差し出す。壁を蹴った瞬間に体を戻し攻撃の機会を狙っていた。
フレイは剣聖との手合わせ中、幾度とフェイントを食らった。手合わせ後半では何とか食らいついていたが、当時の記憶を呼び覚ませば不甲斐ない自分の姿が思い浮かんでしまう。
だがフレイはその記憶を糧に個人練習やクシル達が水薬を制作していた最中、鮮明に残った嫌な記憶を咀嚼しどう動けばよかったのかを研究していた。
結果、自らの直線的な動きを見なおし相手の動きの読みをより深く追求して戦闘に挑む事が出来るようになっていた。
それはつまり剣聖の体裁きを見て盗む事であり、過去の自分と同じような直線的な相手に対して効果的なフェイントのかけ方を知っているという事。
フレイは、フェイントにかかり自分から半身ずれた位置に突っ込んでくるシルバーウルフに剣を振り下ろす。シルバーウルフの皮は固く相当の切れ味が無いと裂く事は出来ない。また、シルバーウルフが空中制動中だったこともあり剣の斬る力は全て逃げてしまう、だが地面にたたきつけるには最適なポジションと攻撃だった。
地面にたたきつけた後、剣をすぐに引き切り上げから袈裟切りの連続攻撃を繰り出す剣技”ショットスラム”を放った。
「フレイ! さがって!」
フレイの猛攻を食らってもまだ息のあるシルバーウルフ、剣技の隙を狙い攻撃を仕掛けるのが見えたベーヌが声をかける。追撃の準備をしていたベーヌは普段よりもかなり重い矢を番え、風魔法使い速度を上げて撃ちだす弓術”ヘヴィアロー”でシルバーウルフを打ち抜く。
刺さるというよりは重量物に追突される形で弾き飛ばされたシルバーウルフは虫の息、最後にフレイに剣を突きたたれ絶命した。
「クシル! 一匹目ッ!」
「了解」




