索敵―奇襲―追撃―止め
タイトルに副題をつけて、あらすじを更新しました。
木の陰から弓で狙う得物は人間の頭と同サイズの大きなハチ。一つの巣に対して5匹程度の大きな兵隊バチが女王バチと働きバチを守り、巣の領空を犯したすべてを攻撃する危険な魔物だ。
ベーヌはその領域外ギリギリから周回する兵隊バチを狙う。目一杯引かれた弓、狙いは呼吸で揺れ動くがフーと息を吐ききりさらに引き絞る。覚悟を決めてはじけそうになる腕をコントロールして矢を撃ちだす。
ダンッ
狙っていたハチの頭からは少しずれ、腹に刺さった矢はそのまま後ろにあった木に突き刺さる。腹に刺さった事で絶命まではいかなかった兵隊バチ、羽根を羽ばたかせるがささった矢が抜けず動けなくなった。
仲間の力無き羽音を聞いた他の兵隊バチが警戒レベルを引き上げ、弦の音がした方向に向け飛び立つ。しかし、今度は別の方向から前方に居た兵隊ハチが吹き飛ばされる。それは無属性を与えられ、極限まで細く鋭くとがらせた魔力の針、その針が前方の兵隊バチの羽根を吹き飛ばす。次の瞬間、空中制動が効かなくなった兵隊バチへ片刃の剣が振り下ろされ、兵隊バチは頭と腹を二つに分けられた。
仲間が二匹やられたが、領空を侵犯した攻撃対象は見つかった。今度は集団で襲いかかる、が見えない魔法の針が兵隊バチの動きを牽制し集団での攻撃が続かない。だが兵隊バチも風の動きを読み針を躱していく。
お互いに攻撃の通らない中、攻撃対象である人間の背中には大木、正面に残った仲間三匹が並び絶好の機会が訪れた。三匹同時に腹から針を出し攻撃対象を粛正する動きに出る。
「フレイ!」
だが、絶好の機会はお互い様、横に並んだ兵隊バチめがけ後ろに隠れていたもう一人が横なぎで兵隊バチを叩き切る。三匹とも両断するには力が足りなかったのか、剣筋の最後の一匹が辛うじて身体を残していた。
両断する為に大振りな攻撃の放ったのだ、兵隊バチはその隙を逃すことなく出していた針の狙いを変更し刺し違える覚悟で突撃を行う。しかし、その突撃も叶うことなく最初に仲間がやれた攻撃、木の陰から飛んできた矢で額を打ち抜かれ絶命した。
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「くそー良い感じだったのに1匹取り逃がしちまった」
「残念、私がもらったわ」
「うーん……なかなか感覚がつかめないな……」
クシルとベーヌとフレイは、現在パーティを組んで訓練場の近くの森に来ていた。基礎訓練ではよく使われる森の為、危険度の高い魔物は大方処理されており、若手ギルド員の戦闘訓練にはもってこいの狩場だった。
戦闘の手ごたえを確認しつつ、フレイとベーヌは兵隊バチの解体を進め、クシルは水蒸気を巣を囲うようして風魔法でつつみ働きバチを弱らせ袋に入れていく。
「なんだ、まだそのもらった剣の使い心地ダメなのか?」
「うん……叩き切るじゃなく断ち切る感覚を覚えろって言われたんだけどまだ刃に抵抗を感じるんだよね」
その剣は片刃で峰の付いた代物でクシルでも片手で扱えるほどの軽さだった。
昨日のことだ、ベーヌの模擬戦は思った以上に早く終わり、個別訓練もそこそこに集団戦闘の訓練へと進んでいた。弓使い一名、剣士二名。集団戦闘の訓練でパーティが取った作戦はクシルが魔力感知や動体感知で索敵し、ベーヌが距離を取った位置から奇襲、クシルが魔法で牽制と追撃を行いフレイがとどめをさすといったオーソドックスなものだった。
パーティでのバランスはよく、役割も分担できていた、が……もう一人回復役が居れば良いのだがとの総評を貰い集団戦闘訓練もすんなりと終わっていた。
そんな中、視察最終日であった剣聖が集団戦闘訓練に現れる。クシルにネックレスとは別に手合わせの健闘を称えてという事で贈り物をしていたのだ。
「剣魔のスタイルを貫くなら、この剣を扱えるようになれ」そして「エリちゃんによろしく頼むよ」と袖の下な一品を受け取ったクシル。
(受け取ったけど後が怖い……)
そして、クシルだけずるい!と駄々をこねたフレイに対しても「魔力が少なく苦手でもやれる事はやれ」と純粋にフレイを応援するようにやや厳しめの言葉と共に身体強化の魔術が刻まれた腕輪をフレイに渡していた。
「俺は、魔力を絞るってネックレスをつけているのに複雑な魔力操作してるお前が信じられないよ……剣を振るとすぐに魔力が途切れちまう」
「うーん常に意識し続けて、発動しているのが普通になるまでやるしかないかな」
「簡単に言うよな~」
「よし! 材料も集まったよ! いったん宿舎に戻ろう」
クシルとフレイ、お互いにあーだこーだと手ごたえを共有しながらベーヌはというと薬用の素材がたくさん手に入りほくほく顔で宿舎に向かっていた。
回復役が居ればという総評を聞いてパーティで相談した結果、薬学ギルド員が二人も居るのだ回復薬を多めに持つという事で意見が一致した。ただし、回復量の少ないレベルの低い回復薬ではなくなるべく高レベルで質の良い回復薬を作ろうという事で今日は戦闘訓練兼、素材採取を行っていたのだ。
宿舎に戻ると、クシルの部屋で回復薬の調合をはじめる。それを目で覚えメモを取り見様見真似で調合を行うベーヌ。弟子にするわけにはいかないが、調合をしているところ見て覚えればいいという事で落ち着いたのだった。
同室のポワンシーはというと、二人よりも後に帰ってきて疲れ切った状態でベットに沈み込んでいた。事前にベーヌの事を知っていた事もあり好きにしなさいと、クシルの部屋は実質パーティの会議室と化していた。
分からない手順や普段のレシピと違う点はすぐに質問し自身の技術として取り込む姿はやはり薬学ギルドでは有名な薬学者の孫だなと才能を感じるクシル。
二人で手分けして三人分の準備を進めているとフレイが部屋に入ってくる。
「ちょうどよさそうな依頼見つかったぞ、これでどうだ?」
フレイはフレイで、宿舎にある簡易的な依頼掲示板でパーティで受ける依頼を探していたのだ。
見繕ってきたのは、森の先にあるブゼズ洞窟の中に居るシルバーウルフの討伐。
身体能力が高く素早い身のこなしで襲いかかり、魔法も扱う。スペックだけ見れば難敵だがシルバーウルフは魔法がネックとなり初心者や若手のギルド員の訓練相手となっていた。
「それならちょうどよさそうだね、薬の準備もできたし、準備万全で挑みましょう!」
ベーヌも賛同し、基礎訓練の最後、実地訓練はシルバーウルフの討伐に決まった。




