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記録の中の手がかり

「なんとか逃げ出せたが…」


 夕食が終わり雑談タイムに入りかけたところを今日はもう疲れたからとクシルは急いで自室に戻る。部屋にはポワンシーが先に戻っていたのだが、朝に顔を合わせた彼女と同一人物とは思えない疲労困憊な姿がベッドの上に横たわっていた。


 静かに自分側のベッドに向かうクシル。ベットの上に座り自分の頭の中の記録を読み込む。これから”情報収集(データログ)”で集めた過去の行動記録(ログ)と音声記録をさらっていくのだ。




 目下のクシルの悩みはベーヌの事だ。しばらくは顔を合わさないようにし彼女について情報を整理してから適当に話を合わせるつもりだった。

 しかし何故かフレイとベーヌでパーティを組む事になってしまい明日にも顔を合わす訳だ。顔を合わせる度に圧をかけられながら「師匠は誰か?」と質問されるのは御免こうむりたい。


 思考を加速させ流し読みの要領で今日の午前中から遡ってベーヌのという名前を追っていく。まずは午前中の記録を確認。

 つまるところベーヌは魔力回復薬(マナポーション)の作り方を知っている人物が誰か確認したいようだ。それはなぜか?さらに遡っていく。しかし圧倒的に時間が足りない。


 星全体の行動記録と音声記録を集めておき、星の動きに敏感な精霊たちの呟きに耳を傾けた大賢者時代。

 ある地域で何か動きがあればその場所の記録を遡っていくのだが、一年、二年と長期の記録を一週間ぶっ続けで読む事もあり、使い魔だったシャルにエリの相手をしてもらい終わった頃には呆れ顔の二人をよく見たものだった。


 サクサクとベーヌの過去を追っていくが映像で残っている訳ではなく誰が行動し、それによって何が起こったかがまとまっているだけだ。日常の出来事が淡々と続くだけでは面白い物ではなし、音声記録は全ての音を拾っているが感情の抜けた会話文から重要な箇所を見つけ出すのは難しい。


 今までは興味のある出来事に対して心血注いで行っていたが、今回に至っては対個人に対しての対策の為しかも手掛かりの無いままだ。


 時間もなく、興味も取っ掛かりもない。ただ記録を追うだけの作業にクシルは飽きてきた。


 深夜に差し掛かった当たりでなんとか自前の情報収集で追える分の記録は読み終わった。

 現時点でわかった事はベーヌは薬学ギルドでは有名な老舗の薬屋のお嬢さんであり、午前中に話をしていた師匠である祖父が数年前に亡くなり父がそのお店を継いでいる事がわかった。祖父の様な薬学者になるのだと日頃から家族に口にしていたが、父とは仲が良くない様だ。


「うーん」


 ”祖父について”、”父との確執”この当たりの内容が確認できればベーヌの質問の真意がわかりそうなものだが今からエリから預かっている6年の記録の中からベーヌの項目だけを上げて読み返すのを想像してげんなりするクシル。




(師匠はエリって事にして逃げるか……いや知らない人物が出てきたらさらに追及が……)


 音には気を付けていたが、それでも小さくカチャカチャと音を立てる器具。ただ記録を読み返すだけの作業に飽き、クシルは記録をさらいながら内職をはじめていたのだ。今度は薬学ギルドへの納品の為の水薬を作っていた。


「クシル君まだ起きてたの?」


 その音に気が付いたのかポワンシーが声をかけてきた。


「うん、ちょっと考え事をしてまして」


「ふーん、私はその音が何か気になるわね……何をしているの? そっち見に行ってもいいかしら?」


「どうぞ、すいませんお邪魔でしたかね」


「いいのいいの! ちょうど目が覚めちゃってね……って、あれ……? もしかしてクシル君って薬学ギルドにも入ってるの?」


 一声かけ、了承を得たポワンシーがベットから起き上がりパーテーションから顔をのぞかせた。

 寝ぐせがひどい頭をぼりぼりとかきながらずれた眼鏡を直した所で目に入って来た光景に驚き、また眼鏡がずれる。自分がお世話をしないといけないと思っていた相手が深夜まで内職を行いしかもその手際は見事なものだったのだ。


「ええ、考え事する時に手を動かすのが癖になってまして……ギルドの納品用に回復薬を作ってました」


「え…なにこの品質……王都の薬屋でも見ないよこんなに澄んだ奴」


 大賢者時代に取った杵柄で薬学に関しては他の生産ギルドよりも一歩進んでいた。現にこの考え事をしていた時間にひとつ職種ランクが上がっていた。


[クシルはアチーブメント”アルケミスト:ランク1”を達成しました。]


 作るにはかなりの希少素材と大掛かりな器具が必要になるが”完全回復薬”なんかを作る事が出来れば職種ランクは幾つかショートカットして達成できそうだなと、当初の目的を忘れ自分の興味のある事に思考が流れ始めるクシル。


 どこか遠くを眺めるクシルに対してポワンシーが申し訳なさそうに声をかけてきた事でなんとか思考が戻ってきた。


「あの……クシル君さ魔力回復薬作れない? いや……作れなくてもいい持って無い?」


「できますよ 今要りますか?」


「え… ほんとに!?」


「ええ、ポワンシーさんにお昼に声をかけてもらわなければ遅刻してましたからね…そのお礼です」


「あ…やっぱり遅刻しかけてたんだそれはよかった!」


 やっとお世話係の面目躍如ができて笑顔が浮かぶポワンシー。丁度作っていた回復薬を完成させて、同一の素材を器具に放り込むクシル。魔力回復薬の素材は回復薬と同じ、違うのは作る工程と魔力が必要になってくることだけだ。

 素材を入れた蒸留水に魔力通しそのまま”放出”するのではなく再度自らの身体へと”還元”し循環させ続け容器の中を物理的にも魔力的にも回転させるのがいいものを作るコツだ。


「あれ…魔石は使わないの?」


 ふと製作過程を眺めていたポワンシーが口を挟む。


「魔石は無くても作れますし品質的にはこっちのが良い物が出来ますからね」


「へぇ…私が見た事ある奴って粉が浮いててさ飲みこんだらザラザラするもんだからなにこれ! って聞いたら魔石を砕いて入れてるーって言われて」


「この薬って魔力が必要になってくるので魔石があれば魔力操作が苦手な人でも作れるんですよ」


「なるほどなーフルノーって代替わりしてからお手頃価格だけど品質はいまいちなんだよね…あれかな大量生産してたってことかな」




 もうポワンシー用の魔力回復薬を作ったら寝てやろうかなと思っていたが思わぬところで情報が手に入りそうだ。


「そのフルノーってお店の事詳しく教えてくれませんか?」


 ポワンシーの口から出たフルノーという言葉。それはベーヌの実家の薬屋の名前だった。


1話に収めるつもりがなんで……



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