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”斬る”

 昔々、大賢者として生きた時代、当時の剣聖に剣の極意とはなんなのか質問した事があった。


 返ってきた答えはただ”斬る”のみ。


 曰く、剣の極意とは武器の本質を引き出すことにある。なまくらだろうが、聖剣だろうが剣の本質は斬る事にある。剣技(スキル)やスタイルも結局は”斬る”という行為を引き出すための飾りであり、究極的には全てが”斬る”に収束する。だから、剣の極意とは剣をふって”斬る”事、それだけと教えてもらった。


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「それまでッ」


 二人の挑戦者が最後に放った一撃は見事に剣聖の虚を付いて放たれた。見ていた訓練参加者とギルド職員のほとんどがなぜ剣聖の後ろを取れたのか理解できなかったであろう一撃。


 それは戦闘前から行われたクシルの作戦。戦闘前から微量に魔力を放出し、フレイに対しては魔法を行使する際に魔力を纏わせた。戦闘中は魔法を浴びせ続ける事で魔力感知を使わせ二人の魔力を認識させた。そして最後に視界を奪い今まで纏っていた魔力のみを剣聖に向け罠にかけた。

 全ては剣聖の剣を見て理解するためだった。


 ここまでしてやっと、本当の意味で手合わせをしてくれる気になったのだろう。剣聖はフレイとクシルに向き直り振り向きざまに一閃。それで手合わせは終わった。


 模擬戦会場に最後まで立って居たのは剣聖のみ。クシルとフレイの二人は四肢を地面につけ、その脇には最初からその形だったと言われても納得してしまう程見事に、この手合わせを見てなければ刃の無い剣で切られたとは思えない真っ二つにされた片手剣が落ちていた。


 だがクシルは無事に当初の目的を達成していた。その成果を瞬間をつぶさに記憶し反芻する。

 剣聖の一閃、それはただ剣を横なぎにふっただけ。そして剣の本質を全うするように、その道筋に居た全てを斬る。自分自身にも刃が通った感触はあった。鋭いとても鋭い何かが身体を通る感触。

 それでも真っ二つになっていないという事は剣聖が斬ろうとしたのが剣だけだったのだろうと仮説を立てる。


 状況から色々な解を頭で考えるもすべてはクシルの仮説、すなわち理解には程遠いという事実だけが今回の手合わせで得た結果だ。まだまだ道の遠い事実ではあったが、一歩前進した事で地面に倒れ込んでいるというのに顔が緩んでしまうクシル。


「斬られた感覚はあっただろうに……何故笑えるのか……」


 そんなクシルを見下ろしながら、どよめく会場の収集をつけるべく剣聖が声を上げる。


「ここに居る者はこれから模擬戦を行う者たちだな? 実戦では命のやり取りが付いて回る、負けられないし失敗できない。だからこの二人のようにこの基礎訓練では挑み、失敗して負け、そして学んでいって欲しい。その結果が今後の君たちに生かされるはずだ」


 剣聖の視察により浮ついた心で基礎訓練の説明を受けていた参加者だったが、今回の手合わせが上手く働いたのだろう今度はそれぞれが、挑む事に、失敗しないように、負けないように剣聖の言葉に耳を傾ける。


「そして皆も見た通り手合わせとは言え果敢に挑んだ二人に対して私は評価せねばならない。剣聖の名において基礎訓練の模擬戦工程終了を認めよう」


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 今日が初日、クシルと同じ参加者の面々は模擬戦の詳細を聞くためにギルド別に分かれ教官のもとへ向かってれていった。先ほどまで手合わせが行われていた会場に残っているのは剣聖とクシルのみ。

 フレイはというと剣聖に斬られ自分が真っ二つになったのだと思い気絶したままだったため、ギルド職員に担がれ治療所に向かっていた。


「それで私の強さは手合わせで分かったのか?」


 治療と後始末を口実に残った剣聖はしたり顔でクシルに問いかける。


「ええ、それはもちろんあの一閃を見れた事で大いに意味がありました」


「それはよかったが、君の魔術であれば剣に頼らずともいくらでも私と戦えただろうに。わざわざ私のスタイルを真似てエリちゃんはどんな教育をしているのやら……」


 魔法で牽制や防御を行いもう一方の剣は”斬る”事のみを追求するスタイル。これは当代の剣聖が得意としているスタイルだった。

 もともと魔力が高く魔法に対しての造詣も深かった剣聖はまだひよっこの頃賢者の塔を登って当時の大賢者であるクシルに手合わせを願い出ていた事があった。

 それから事あるごとに賢者の塔にやってきては魔術を習得し魔法を学び、当時弟子であったエリと競い合いながら。そして大賢者となった今でもエリちゃんと呼んで親しくしている。


 当の本人は「ちゃんづけで呼ばれるから私が大賢者と認識されないんだ」とご立腹のようだが。


「ご存知でしたか……ですが大賢者は関係ありません、僕がしたいようにさせてもらってるだけですので」


「ご存知もなにも、あんな緻密に魔力を扱えるなんてこの世界広しといえども大賢者くらいなものだからね、それに魔力で罠を張るなんて策は前任の大賢者そっくりだ。彼の時は周囲を魔力で覆われて魔力感知をつぶされてね……」


 大賢者であるエリからの助言という苦言では、魔導士ギルドの動きが怪しい為、大賢者の弟子である事はあまり人に言わない方が良いと言われていた。自由に動きたいならなおさら……という事で一応隠すつもりはあるのだが、前世の染みついた魔力操作はばれる人にはばれる。

 これではあとで詰が甘いと怒られそうだと遠い目をしていると剣聖が自身の荷物の中からペンダントを取り出した。


「その時に言われたのさ”お前は魔力に頼りすぎている”ってね。君もあの時の私と同じ、手合わせの時も言ったが片手間で扱える程剣は甘くない。だからこれを君に渡そう」


 そのペンダントはクシルが作り、ひよっこ剣士にくれてやった魔力の出力を抑える魔道具だった。出力が抑えられた魔力は牽制にしか使えず相手へのダメージを考えると剣を振るしかない。


 剣聖相手の手合わせなので出力を抑えなくても致命傷になる程のダメージなんて心配はなかったが、魔力感知で自身とフレイの魔力を認識してもらうため出力を調整する必要があった。それを見抜かれていたらしい。確かに剣の道や他の道を歩く際に魔力出力が多い事がネックになる場合もある。


「ありがたく頂戴いたします」


 自分で作れるものではあるのだが剣聖との繋がりという事もありペンダントを受けとるクシル。しかしクシルが手を取る直前になって剣聖が辺りを見回した。


「早速だが今つけた方が良い。わざわざ魔導士ギルドを辞退するほどなのだろう?」


 そういうと剣聖は渡す直前だったペンダントをクシルの首に回してつける。なぜ今なのかと思ったが理由が向こうから歩いて来たのだ。


「剣聖! どういうことですかなさっきの魔力反応は! こちらは魔力測定中だったのですぞ!」


 魔導士ギルドのギルドマスターであるシェナスが剣聖に対して怒鳴り込んできたのだ。

意識が目覚めあばかりは大賢者の時代のしゃべり方だったけど、家族会議を自分の状況を鑑みて6歳らしく、上の者には敬語を使えるようになりました……エリに対しては今までのままですが……

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