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煽動

「いいだろう」


 なんとか剣聖の目に止まり手合わせの了承を得たクシル。魔力を飛ばして気をひく作戦は成功したようだ。

 極まった技術を実際に見て感じるという事は、服飾ギルドで見た黒天鵞絨のローブのように進むべき一歩を示してくれるはずだ。

 剣聖にケンカを吹っかけてでもその剣技(スキル)を見せてもらおうと意気込むクシル。


 剣聖が合図をし会場が準備されていく。移動した先は模擬戦の会場の一つで同じ組の面々もその模擬戦会場を囲み、初日の説明会は見の程知らずの見学会に移っていった。


「よし行くよ」


 そんな見の程知らずのクシルはフレイの手を取り模擬戦会場へと向かう。


「え……? 行くって何言ってんだ……?」


 先ほどまでクシルを諫めようと必死に声をかけていたフレイ、しかしその声は一言もクシルには届かず気が付けば剣聖が手合わせを了承、もうどうなっても知らないぞと傍観を決め込もうとしていた。

 していたが、ふいにクシルに手を引かれ見学会のど真ん中に連れ込まれようとしていた。


「剣聖! 手合わせだしこっちが二人でもいいよね?」


「おいおいおいおいおい……」


 剣聖はクシルとフレイを品定めするかのようにした後、目を瞑り無言でうなずいた。


「ホラ剣聖サマと戦ってみたいって言ってたでしょ?」


 逃げ場を無くしたフレイにとどめを刺すクシル。「確かに……確かに言ったけどさー! 」とうなだれるフレイにクシルは模擬戦用に刃をつぶした片手剣を渡し、自らも同様に片手剣を手にする。


 今回の手合わせは極めた技術を見るためだ、素人が達人に足蹴にされるだけでは意味が無い。剣聖ならば素人同然の剣など無手であっても剣聖のが有利であろう。


 剣聖に剣を振らせるだけの実力がクシルには無い。それは自分自身で理解している。家族会議の後父親モンマンに武器の扱い方について手ほどきを受け、大賢者時代の知識を元に自分に合うスタイルの剣技をかじった程度の実力なのだ。型は様になったもののこの短期間で習得したといえる剣技もない。


 その為のフレイだった。クシルより剣での実践経験があり剣技も習得しているだろう彼を使って達人の剣を引き出せれば先に進む道も少しは見えるだろう。そしてフレイの実力を見れば今すぐに目指すべき道が見える。そういった理由で当人に何も説明なく巻き込んだのだった。




 模擬戦会場の枠外に並ぶ人々の真ん中にポツンと空間が出来ている。その空間に居るのは剣聖とクシルとフレイの3人。剣聖はクシル達と同じ模擬戦用の武器を手にするが抜く事はなく腰にぶら下げ、手合わせの相手を見定めていた。


 先ほどまでうなだれていたフレイは何とか剣を手にして三人だけになった空間を見つめた後、もうやるしかないと開き直るしかなかった。


 剣聖を相手取る……気合は良くても緊張でフレイの手は震えている。


「相手の胸を借りればいいんだからドーンと行ってこーい! ホラ手伝ってあげるから!」


 この時、会場の全ての人間が思ったであろう、”手合わせを言い出した本人が何を言っているのだ”と。しかしこの時点からクシルは勝負を仕掛けていたのだった。


 フレイに触れたその手は、背中を押す為だけではない。魔術により属性を込めた魔力を自らに還元、発動した魔法を背中を押した手を通じてフレイに向けて発動させる。”煽動魔法(アジテータ)”効力は落としてはいるが、対象の緊張をほぐし煽り立てる。


「お前は一体何考えてんだーーーー!」


 背中を押された事で剣聖に向かうしかなくなったフレイ。なぜ手合わせに付き合わされている自分が背中を押されないといけないのか……しかし背中を押された事でいい意味で緊張もほぐれた。

 クシルに魔法をかけられとはつゆ知らず胸を借りるだけだと剣に力を籠める。



 フレイの初手が剣聖へと向かう。が大振りなその軌跡に、剣聖は身体を少しそらすだけだ。そこに二手目三手目とフレイの連撃が剣聖へと叩き込まれる。これも最小限の動きで避けきる。

 しかし挑戦者達の攻撃もこれだけでは終わらない。フレイが剣を振り切った後今度はフレイに合わせてクシルが斬撃を重ねる。剣聖は変わらずその場を動かず上半身のバネのみで避けきってしまった。


「まだまだッ!」


 全く当たる予感のしない斬撃を放つ二人であったがそれでも剣を振る。三手も見れば実力は図れたのだろう今度は剣聖がフェイントを挟む。二人の攻撃を誘導しクシルとフレイの剣は狙う的を見失い空を切る。


 手合わせは最初っから一方的で、ただただ二人だけが剣を振り続けている異様な光景。

 やり取りを見たギルド職員や周りの観客たちもこのまま剣聖が避け続ければクシルとフレイの体力が先になくなり模擬戦は終わるだろうと考えていた。




 しかし、剣聖がクシルの()()()()に上体を逸らした事でその想定は外れる事になる。


(剣のみで戦っても応えてくれる訳が無い)


 片手剣であっても6歳のクシルには重い長物だ。両手を使って何とか攻撃の合間を縫うように動いていたが流石にそんな事で剣聖が動じてくれる訳が無い。そこでクシルは次の手に出る。


[クシルの”身体強化魔法” クシルに「身体強化」「スタミナ強化」の効果。]


 これで片手で剣を扱える、両手持ちをだった剣を片方持ちに切り替え、空いた手を使いクシルは攻撃の間そして剣聖がフェイントを入れる瞬間を狙い魔法を放ったのだ。

 手合わせの前の気をひくための魔力針ではなく、無属性の見えない程に鋭くした針の形をした魔力を”放出”した。


 クシルとフレイの剣の動きそして見えない針の攻撃、三つの攻撃が織り交ぜられ休む暇を与えない程の連続攻撃が剣聖を襲う。

 魔法攻撃に関しては追尾性能付きで弾数も多い、魔力感知を使いながら自分に向かって飛んでくるものだけを避けるしかない。


 だが、増えたのはたった一つの攻撃手段だけ。剣聖は大した事でも無いとすぐに順応し再び全てを避け続ける。クシルは身体強化魔法でスタミナ切れの心配は無い、動きまわりフレイと並び、時には挟撃をするような形で剣を振り続ける。


 一方のフレイ、煽動魔法により集中力は上がっているがフレイ自身に補助的な魔法は掛かっていない。だが戦闘前の緊張感もなくなりフレイの集中力は自信のギアを何段も上げて行く。結果、最初はフェイントにつられていた剣も徐々に剣聖の動きに合わせはじめた。


 周りの参加者に映る姿は変わらずただクシルとフレイが剣を振り続けるだけ。調子を上げて行くフレイだったが、所詮は付け焼刃の技量じわじわとクシルの剣技が足を引っ張り、次第に二人の剣速は頭打ちになっていく。

 このままでは進展はなく、そろそろ潮時だろう……と剣聖が今まで避けていたクシルの剣を真っ向から受け止めて見せた。


「手合わせを申し出た割に……片手間だな」


 剣聖に向かったクシルの剣はたった二本の指で止められていた。

 剣を止められた事で硬直したクシルに、剣聖はしばらく起き上がれなくなるよう力加減をして腹部を蹴りを入れる。

 蹴り飛ばされたクシルはフレイの脇を飛んで行き観客の前で砂埃を上げ転がっていく。


 ギアが上がってきたとはいえクシルの攻撃という援護も無い状態では結局の所どうする事もできないフレイ。上段から振り下ろした剣は剣聖の蹴りによって軌道が変わり地面を切る事になり、地面に突き立った剣を足で止めた剣聖は言う。


「君はなかなか筋が良かったよ」


 本心からフレイを称えた、クシル同様、力加減をした蹴りがフレイに向けられた


 サァァー


 がその瞬間剣聖に向かって風が吹き、巻き上がった砂埃が剣聖をつつんだ。


 砂埃で視界が遮られる。その直前に見えたのは、蹴りを食らったはずのクシルが腹を抑えながら風魔法を使っている所だった。感触はあったのでギリギリ防がれたのだろう。そして砂埃が完全に剣聖の視界を遮った。


「最後の足掻きか」


 再度クシルが放った無属性の魔法が飛んでくる。だがやることは今までと変わらない。魔法の接近を感知しては避ける。


 避けると同時にクシルとフレイ、二人の魔力がこちらに向かってる来るのを感知した剣聖。次の攻撃に対して身を向ける。


「視界が遮られたといえど君たちの攻撃はもう飽きたよ」


 辟易声で終了宣言をし、二人に引導を渡すつもりの剣聖は魔力を込めより強い風を起こし砂埃を払う。

 そして、二人の攻撃を避け反撃を繰り出す……つもりであったが、()()()()()()()()()()


 そこに有ったのは今まで二人との戦闘中に感知していた魔力のみ。丁寧に人の形を保ったままの魔力は精密な操作で剣聖へと向かっていた。

 もちろんただの残滓であり、剣聖に触れる前に砂埃と一緒に霧散したのだがその一瞬の隙で十分だった。




「ウォォォォォ」




 魔力に反応に気を取られた剣聖へ向けて、クシルとフレイお互いの渾身の一撃が剣聖の虚を突いて放たれた。

戦闘シーンを書くには難しいですね…

状況説明や言い回しなどを少し修正。

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