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内職道中

 快晴の中、少年少女12名と引率として参加している職員が魔獣のひく何十人とはいれる大きな魔船とよばれる乗り物で一息ついていた。王都発船のその魔船は大きな街を経由しながら目的地である訓練場まで整備された街道を進んでいく。


 空気中にあるマナの波に乗る事で船体が浮いており、船体自体の動力はないものの魔獣が引く事で大きなものでも運ぶことができる。

 今回のような旅客船は座席が設けられており利用率の高い大きな街を過ぎた所でもまだ座席には余裕があった。


 基礎訓練が始まる数週間前から定期的に発船しているこの魔船。今日もすでに何便か発船しておりこの後もしばらくの間は基礎訓練に参加するメンバーを乗せて運航する予定だ。



 クシルが乗るこの魔船の乗客はほとんどが同じ目的の基礎訓練参加者。そして大半が魔導士ギルドの所属希望者だった。引率職員の会話を情報収集(データログ)で拾ったが、残りのメンバーは剣闘士ギルド所属が2名、森林ギルド所属が2名、魔科学ギルドが1名、そしてクシルという内訳だそうだ。


 ブルゴ王国には魔導士ギルドの本部があり、現在は”年齢関係なく所属前に基礎訓練を行う”としたことからここ最近の基礎訓練は全体的に魔導士ギルド所属希望者が多くなっていた。

 また、海まで距離がある事から海洋ギルド自体になじみが薄く所属を考える子のほとんどは海に近い街でギルドに入る事からこの地区での基礎訓練では海洋ギルド所属の若手はほとんどいないそうだ。


 今回の全メンバーの中でも海洋ギルドに所属しているのはクシルだけ、といっても魔導士ギルド以外全てのギルドを受けているのだあまり関係はない。


 訓練場につくまでの間、クシルは後ろの座席で”情報収集”を使って周囲の状況を確認を行う。それは大賢者(エリ)が行っている知識の蒐集という意味での情報収集ではなく、本当に自身の周囲を知る為の情報収集。

 それと同時に基礎訓練に行く前に父に教えてもらい作った2種類の木工製の道具を器用に魔術で動かし繊維から糸を紡いでいた。


 ボビンがいっぱいになったら鞄の中で転移魔法(ドアーズ)を使って異空間に放り込む。後でまとめて服飾ギルドに納品をする予定で他にもいつでも内職できるように転移魔法の扉の前に素材の準備をしていたのだ。


 人が増える度にざわざわとしゃべり声が増えていたが後ろの座席は静かな物でクシルはあっという間に納品数量をはるかに超える糸を紡いでいた。



 そんな中、最後の街で乗り込んできた幾つかの組の中で少年少女の一組がこちらの方へ視線を向けたあと後ろへと向かってきた。


「前の方はうるさくてしょうがないぜ……魔力持ちがブツブツと呪文を唱えてうるさいったらありゃしない。でベーヌどこに座るんだよ」


「あ! フレイこっちこっち! 」


 同行者であろう少年に声をかけた少女はクシルの目の前に立つと声をかける。


「クシル君? 久しぶりだね! 君も戦闘ギルドにも所属してるんだね! というか内職? 薬に使う道具かなにか?」



 声をかけて来たそのベーヌと呼ばれた少女に顔を向けるとそこには記憶に新しい顔があった。薬学ギルドで同じ試験を挑んだ少女でありなかなかに口が達者だったあの少女が目の前に居るのだ。

 声をかけられても魔術を止めずにひたすら内職に励むクシルはベーヌとフレイと呼ばれた少年に向け軽く会釈をする。


「いや……服飾ギルドに納品する糸だけど……?」


「え……クシル君って服飾ギルドにも所属してるの……?」


「お! なんだコイツがベーヌが言ってた気になる奴か? 俺はフレイ、剣闘士ギルドとして基礎訓練を受けに来たんだ! よろしくな!」


 ちょっとフレイ! とベーヌに背中を叩かれながら挨拶をするフレイ。ベーヌと同じく年はクシルよりも年上で暗い茶髪を短くそろえ、成長途中にもかかわらず引き締まった腕は普段から剣を握っていたのだろう事がうかがえた。

 一方のベーヌはというと薬学ギルドでは二つに結った金髪だったが、今回は動きやすいような服装で髪も一つにまとめ上げ、背中に弓を携えていた。


「フレイの事は気にしないで、薬学ギルドの時はちゃんとお話しできなかったじゃない? お隣いいかしら?」


「別に席開いてるんだしここでいいじゃねーの? どうせ着くまで寝るだけだしよ。それにしてもその内職魔法でやってんのか? ってことは魔導士ギルドの基礎訓練受けに来たのか?」


 合意の上で話しかけようとしたベーヌと、そんな事お構いなしに話しかける対照的なフレイ。この二人によって静かで平和だった後方の座席が気が付けば賑やかな空間となっていた。


「魔導士ギルドではないよ、どうしようかなと思っていたけどまずは剣……かな」


 魔導士ギルド以外の基礎訓練とはいえ全部をいきなりにはできない。クシルはまず剣闘士ギルドとして訓練に参加、その後に各ギルドの特色のある武器を教えてもらうつもりで予定を立てていた。


「ってことは俺と同じ剣闘士ギルドってことだな!ライバルだなライバル!」


「もうフレイばっかり! クシル君も戦闘ギルドと生産ギルドに入っているのよね。私も森林ギルドと薬学ギルドに所属しているの」


 フレイのペースに持って行かれなかなかクシルと会話ができていなかったベーヌが割り込む。


「見た感じベーヌは採取から生産まで一通りこなす生産ギルドメインで戦闘ギルドはサブって所かな?」


「その通りよ、採取から生産までこなせて一人前だもの! 所属前だけどもう何回か薬草を採りに連れてってもらってるの! その薬草で作った薬今日持ってきたの。後で見てみて」


 ふふんと、弓を触りながらクシルの問いに答えるベーヌ。ベーヌの祖父について回っていろんな薬草を見つけては持ち帰り育てているという事を教えてくれた。薬学ギルドでの一悶着があったからか年下ではあるがクシルの事を一目置いていたようだった。


 フレイはというと席に座り前の座席に足を投げ出してベーヌとクシルの会話に聞き耳を立てながら困惑した顔で二人を見ている。


「ベーヌもクシルもギルド掛け持ちってよくできるよな……俺はそんな器用じゃないからさいろんな事できないな……」


「あらでもフレイはその剣一本でやっていける実力があるじゃないの」


「まぁそうだな……俺にできるのは剣一本だけだしな。やるなら剣の道を極めて剣聖サマに挑んでみたいものだ!」


 クシルの見立ては間違っておらず、小さい頃から剣を振ってきたそうでベーヌとベーヌの祖父の薬草採取にもついていき何度か狩りにも参加したそうだ。筋がいいとベーヌの祖父に褒められギルド所属を考え始めたそうだ。


「そう!そういえば掛け持ちと言えば……今回の基礎訓練に魔導士ギルド以外の全部に所属して参加する奴がいるらしいぜ! なんでも所属すればいいってもんじゃないよなー」


「あら噂話? それなら私が聞いたのは、わざわざ魔導士ギルドの基礎訓練を辞退したって方がいると聞いたわ。今や魔導士ギルドは花形、基礎訓練を受けるだけでも高い壁があるというのに……」


「ハハハ」


 それ全部目の前の奴ですとは言えず、乾いた笑いが漏れるクシル。

魔船について追記して少しばかり言い回し等を修正。

特に話しが変わったとかはないです。

魔船は陸で浮いてる船です。

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