家族会議
「どうしたのクシル……今日の魔法の練習で頭でも打ったの…?」
両親からしてみれば魔導書を開いた瞬間から魔法に熱中していた息子。その息子が神妙な顔で魔導士ギルドの基礎訓練を辞退するすなわち魔導士としての道を断つという告白をしてきたのだ、なにか異常があったのか? とおどけながら心配を声にする。
「あれほど魔法に熱中して魔導士になるんだって。クシルの力をいろんな方が魔導士ギルドに伝えてくれてて基礎訓練自体なかなか受けれないのに是非にって声をかけてくださったのよ?」
一方のクシルは賢者の塔で感じた胸のモヤモヤを今も感じたまま両親の声を聞いていた。
”星の代行者”を目指すならばアチーブメントを獲得しなければならない。そしてアチーブメントを獲得するには魔導士以外のギルドで道を極めんとする必要がある。無駄に時間は割ける訳がない。
それにエリからの”魔導士ギルドは関わらない方が良い”という警告の事もある。
「理由を聞かせて欲しい」
重い口を開けたのはクシルではなく父親のモンマンだった。
大賢者時代にも数える程しか感じなかったようなプレッシャーにゴクリと唾を飲み込むクシル。
記憶をたどって客観的に見てもモンマンは口数は少ないが決して悪い父親ではない。妻を、子供を尊重し魔法が得意とわかると門外漢だろうと街に魔導書を借りに行ったりと、尊敬はすれど恐れるような父ではなかった。
「そうよクシル……私たちはあなたの事を教えて欲しいの。あなた自身の事だからあなたの好きにしていい。でも何を考えてそんな結論になったのか……急な事だから……」
モンマンの一言で冷静になったのかトーン落とした声でミリーが言葉を重ねる。それに合わせてクシルの胸のモヤモヤも少し収まったのを感じていた。
それでもどうやって伝えればいいのか何故かみつかない。どうやって…と頭で推敲を続けているとミリーが再度口を開いた。
「そうね……あなたの事だから私たちが反対するかも~とか、私たちが望んでないんじゃないか~とか考えてるんじゃないかしら」
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「ワシが師匠になったんじゃないワシはお前を弟子にしたんだ。だから、ワシの進む道を歩かなくていい。お前が進もうが戻ろうが曲がろうがお前の進む道をワシが一緒に歩こうじゃないか。」
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母の一言でクシルの記憶と感情の紐づけが取れた。
「……なるほど……さすが母さんだね。」
ミリーの言葉でモヤモヤとプレッシャーの理由がやっと分かったクシル。
これは不安という感情、人と人との関係が壊れる事への不安そういった感情。
魔導士に憧れて短いながらも魔法に精いっぱい向かっていた昨日までの自分を見ていた家族がいきなりの言葉を聞き、関係性が崩れるのではないか? 記憶を思い出すにつれて6歳の精神性と感情に引きずられていたのだ。
左手で瞼をなぞるクシル。それは大賢者時代何か考えにつまると出るクセ。長年着けていた義眼を調整すると考えがよくまとまったのだ。
6歳の記憶と感情を大賢者時代の記憶と経験で整理していく。決して塗りつぶす訳ではなく一度死んで転生して過ごした6年間といて地続きの記憶として整理していく。
整理すればなんて事はない300年近く生きたのだ。そういう不安を感じたとしてもどうなるかの経験はたくさんしてきた。
もう6歳に引きずられる事はなくモヤモヤもプレッシャーもなくなっていた。
「もっともっと知りたいことができたからなんだ」
「もっと知りたい事?」
クシルは胸元から今日獲得した戦利品を机の上に置いて両親に見せる。魔力を通して2人にも見えるように表示してみせた。
「ギルドカード……? どうしたのこれ」
「今日、1日かけて試験を受けたり手続きして魔導士ギルド以外の全部のギルドに所属してきたんだ」
「僕はこれから魔法だけじゃない、剣の使い方も斧の使い方もおいしい料理の作り方も木工細工の作り方も…自分ができる事全部やって、そして極めたいんだ」
ギルドカードを手に取り書かれている事に唖然とするミリー。保護者の枠が知らない名前で埋まってるではないか。この子はこの1日で何をしていたんだと思考が固まっていた。
逆にモンマンは冷静にクシルの話を聞いていた。
「なるほど……だがそれでは魔導士ギルドの基礎訓練辞退の理由にはならないぞ」
「これを見て父さん。今の大賢者様がね僕を弟子にしてくれるってさ」
転生して大賢者の記憶が蘇った、そういっても前例もないしどういう現象か自分にも説明しきれない。それならば大賢者の弟子だからという理由で納得してもらおうと今朝エリと交わした契約書を見せる。
……エリが大賢者様とか寒気が走るからやめてとか言ってそうではあるが……
「だからギルドに入らなくても色んな魔法が勉強できる。魔導士ギルドで過ごす時間、それを僕は他の事に当てたいんだ」
「筋は通っているが……1つのギルドの中でランクを上げるのだって大変な事なんだ。本当に全部のギルドで活動するのか?」
「うん、やる。やるよ。変な事を言うけど僕その為に生まれてきたんだ。」
変な事ではなく本当の事ではあるのだが、これからの決意を両親に宣言するクシル。母はギルドカードを手に持ったまま微動だにせず、父はクシルの目を見ながらその宣言を聞いていた。
「……」
「そうか……わかった。良いだろうこの書類にサインすればいいんだな?」
どう説明するか次の説得材料はと考えを巡らせていたが、驚くほどあっけなく父はサインに応じてくれた。
「ありがとう。でも……信じてくれるの?」
「信じるもなにも、大賢者様もこのギルドカードを作るのを手伝ってくれた方もお前を信じたんだろう? 他人が信じてくれたのに両親が信じなくてどうする。それに母さんも言ったろ、お前の自身の事だからお前の好きにしていいと」
「そうよ! このシシエって方はどなたなの! 保護者のサインだなんて! ちゃんとご挨拶しないといけないわ……!」
あっという間の展開に流されないようにショート寸前の頭を起こしギルドカードについて問い詰め始めたミリーだったが保護者のサインの主が服飾ギルドのギルドマスターだと伝えるとまたも動かなくなった。
「それに俺は嬉しいんだ。お前には才能が有りその才能を好きでいる事が出来た。俺たちが何もしなくてもお前はどんどん1人で才能を育てていった。本当は、俺が俺たちが導いてやりたかったんだが……」
魔法の才能があり両親に褒めてもらった事で魔法が好きになった。だから両親に見て欲しくて目の前で練習もした、それをきっと両親も望んでくれていると考えていた昨日までのクシル。
その幼い心は魔法を勉強しなければ関係性が崩れるのではという不安につながっていった。
しかし、両親は両親でこのまま魔法だけを与えていいのかと思う所があったようだった。だがそれも昨日までの話
「全部知りたいんだろ? じゃあ……俺にも教えれる事が出来たってことだ。」
「うん! 教えて!」
その日の夕食後の家族団らんは昨日までとは違い、1人で3人分よくしゃべる母と寡黙な父が料理の作り方を、木工細工の作り方を饒舌に話す。そんないつもとは違ういつも通りの時間が静かに流れていった。
この11話お12話ホントまとめ方に苦労した2話でした…
ここからまたアチーブメントを獲得するために奔走する予定です。




