表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/51

実績 20%

 人里離れた森の奥深くにその塔はあった。


 "賢者の塔"と呼ばれたその塔の最上階で主である大賢者は最期の時を迎えていた。


 大賢者の仕事はこの世界に起きた出来事を読み解く事。世界の理に近づき、星を安定に導くための手伝いを行う事。すなわち”星の代行者”である事。

 全ての時間を使って自然に目をやり、人々の話す内容に耳を傾け新たな知識を獲得していった。思想に偏りが無いように外界とのかかわりを断絶して搭の最上階からこの世全てを見て聞く事が仕事だった。


 それを可能にしていたのは大賢者が常に発動していた"情報収集(データログ)"というスキルであった。

 あらゆるものの目を借り精霊の耳すらも借り、起きた事実を淡々と集めて行くスキル。大賢者が使えば星を覆い尽くす範囲で使用可能で、大賢者の有り余る知識欲は貪欲に全ての事柄を蓄えていった。

 集めた情報を使えば魔獣領域に居るネームドモンスターの動向も即座にわかり、魔獣の大発生等の対策も取れるわけだが、大賢者は行わなかった。”情報収集”は知識を得るためだけの行為なのだ。


 あくまで星の活動にどの程度影響あるか解析をするためであり、星の活動に影響があれば使い魔を使って何か起こるかもしれないと各国に警鐘を鳴らし後処理の対策案を講じる可能性もある。

 だが、賢き者は神羅万象から知識を得て、悪戯に自分の力を振りかざさない。それは代々の賢者から幾度も紡がれた決まり事だった。




 そんな大賢者もすでに300歳を超え魔術で延命してきた身体にも無理がたたっていた。

 大魔導の使い手、大いなる賢者も寿命には抗えない。死期を悟った後、一人だけいた弟子を一人前に育て上げる程度の時間は持ちこたえていたが、その生命(いのち)に時間はほとんど残されていなかった。


 自らが構築した魔法体系や魔術理論は先代にも劣らない功績となり研究成果も次代に引き継いでいる。大賢者として、星の代行者として、天命は果たしたという想いは強かった。そしてついに、心残りもなく弟子と使い魔に囲まれながら最期を迎えた。




-------------------------------------------------------

 何も感じる事が出来なくなった自分の目を閉じ暗闇の中で弱っていく生命を感じていると急に目の前が真っ白になった。


「お疲れ様でした」


 今まで聞いたことがない、それこそ長く色々な声を聞いてきた大賢者でさえ聞いたことのないその声は大賢者を称え優しく包んでいた。


「おぉ主よ……お迎えが来ましたか」


 その不思議な声は今まで自分が代行者として仕えていた星なのだと大賢者は理解した。


「えぇずいぶんと長い間ありがとうございました」


 続く労いの言葉に自分の使命は終わったのだと悟り、大賢者はその労いが正当なものであったのだと感じた。


(いやしかし……)


 しかし、本当の所はどうだったのかとふと疑問になり星の声に聞き返してみた。


「いいえもったいないお言葉です。ですが……どうだったでしょうか……星の代行者として貴方に応えることはできましたしょうか……」


「そうですねぇ……では見てみますか? 貴方のアチーブメントを……あなたが成してきた事で獲得した賞状……メダル……トロフィー見たいな奴なのですけど」


 思っても見なかった回答に戸惑う大賢者はそのような評価システムが存在していたことに驚きを隠せなかった。


「……え……トロフィー?」


「そうですそうです! んー貴方のアチーブメント取得率は20%ですね~」


 そんな賢者とは裏腹に軽いノリで答える星の声は調べた結果をこれまたあっさりと伝えた。


「え……? 20%」


 300年生き、魔法体系を整え、魔術理論を構築し……研鑽の日々を過ごし森羅万象に近づいた。そんな自負が20%という数字でいとも簡単に崩れていく。


「すごいですよ~! 普通の人は1%行くか行かないかですから~」


 確かに大賢者が20%であれば常人はもっと少ないだろう。しかし自分の評価に納得出来ない大賢者は自分の事で頭がいっぱいで常人の事なんて頭に入ってこなかった。

 なぜだという自問自答が、世界の出来事も星の理も()()()()()という自負がそれ以降の情報をシャットアウトしているようだった。


「それでは無事人生クリアおめでとうござい……」


 だが大賢者の納得なんて関係ない、星の声は300年生きた大賢者の人生という幕を下ろそうと次のシーンに映る。エンドロールという名の走馬灯でも流すつもりなのだろうか? なんとか停止状態から復帰した大賢者はその声をさえぎった。


「ちょっと……ちょっと待ってください!! 私の300年はあなたを理解できて20%…!!? 私は全ての知識を得た気でいたのに20%なのですか?」


納得のいかないその声に、困ったような声で星の声は答える。


「理解と知識は別なんですよ」


 そんな声に大賢者はハッとした。


「知識を得ただけではアチーブ取得にはならないんだよね。うーん……君は魔法に関してはずば抜けているけど、剣の極意を獲得したかい? 拳の極意を獲得したかい? 神業と呼ばれる品を作る技術を獲得したかい? 強敵との戦いで得られる恐怖や高揚感……ちゃんと味わった?」


 剣の極意も神業と呼ばれる品の作り方も強敵との戦闘も知っている。だが知っているだけ、その全てを獲得したかと問われるとそうではない。

 もちろん魔法とは違う別分野、例えば薬学なんかは最上級の品質を作れるようになったりと星の声で言う理解に行きついたものもある。だが結局は魔法につながるものだけを学んでいて偏らないようにと外界と断絶した生活も大賢者というだけですでに偏っていたのだ。


「そう考えるとオールコンプリートって無理難題みたいなものなのだけどね……だからこそ20%は称賛に価するよ~」


 おそらく本当の事なのだろう。だからこそ大賢者は嘆いた。


「まだまだ星の代行者としては理解せねばいけない事が山ほどあるのですね……」


 死んでいるにも関わらず顔面蒼白でどんよりとした表情を浮かべた大賢者は自分が死んだ事よりもそれに今気が付いた事に対して悲しみに暮れていた。もう二度と戻ってこない時間を嘆くかのように嘆きが口からポロポロと漏れていく。


「そんな事に死んでから気づくとは……本当に情けないばかりです……そしてもう生がないというのに……その取りこぼしを拾えたらと思ってしまう知識欲を抑えきれないこの性にも……」


「おっ……じゃぁ100%目指してみる?」


 おそらくここは死後の世界。死んでからというものの、300年の人生をぶっ壊す出来事ばかりで目を白黒させる大賢者がそこに居た。

初投稿…どうなるやら…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ