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第十話目 タケシ、数えまくる

お久しぶりの投稿です。

あまりにも久しぶりすぎて、ちょっとノリを忘れてしまいましたがw

「いーち、にーい、……んーと、ひゃくいち…、ひゃく…あれ? いくつまで数えたっけ?」

「こっちー、2.5グラムが3045包あるから、えっと、総量何グラムだろう…」

 今日は棚卸の日。

 棚卸というのは、単純に言うとただ薬の数を数えるだけだ。

 ここで問題になるのは、薬の数と単位。

 薬の数があまりにも多いといくつまで数えたのかわからなくなるのは、数えた経験のある人にしかわからないだろう。

 そして、1包2.5グラムの漢方薬などは総グラム数で書かないといけないので、結構煩雑になる。

 新人薬剤師のタケシは、ただ数を数えて終わりだと聞いていたので(実際その通りなのだが)、楽勝で仕事を終えたあとに友達みんなで忘年会の予定だったのだが……。

「もう9時になりますねぇ。あとどれくらいで終わりそうですか?」

 のんびりと薬局長が聞いてきた。

 薬局長はあいかわらずパソコンの前に座って何かをやっている。

 数えるの手伝ってくれえ!!! とはやはり上司なので言えない。それに何か大切なことをやっているのかもしれないし、とタケシは自分に言い聞かせる。さっきちょこっと見た画面に、「忘年会をやるなら○○がおすすめ!」という文字が躍っていたのは何かの勘違いだと思うことにして……。

「タケシ先生っ。こういうときこそ電卓ですっ!」

 劇団と薬局の二足わらじをはいてる事務の主任さんが、大げさな素振りで踊りながら可愛らしいシールの貼られた電卓を示した。これは過去に彼女からプレゼントされたもので、主に粉薬を作るのに大活躍している。

「ただ数えるのに電卓を使うんですか?」

「そうですっ! たとえばっ、端数が12錠、3錠、2錠、1錠、1錠、1錠、とあった場合っ、それを電卓で足していけば、頭を疲れさせないで数えることがで~き~る~のぉぉですっ!」

 どうしてただ電卓を使うだけなのに踊らないといけないんだろう、というツッコミは彼女には通用しない。彼女にとって、踊ったり大げさな素振りをしたりするのは、呼吸をするも同然。彼女が生きるということは、そういうことなのである。

 言われたとおり、1錠1錠数えていたものを、2+1+1+3+…、とやっていってみる。

「おおっ! これは!!!!!」

 さっきまで、誰かがしゃべったり何かをして気をそらされるたびに数を忘れたりして数え直していたものが、自動的に表示されている。しかも誤動作をしない限り、消えることはない。これがどれだけラクか、読者の皆様に想像できるだろうか?

 再度、薬剤師の仕事にとっての電卓の重要性を知ったタケシである。

「これが終わったらお寿司だよ」

 という薬局長の言葉を受け、タケシはひたすら電卓のキーを叩きまくった。8時に約束をしてある友達同士の忘年会の二次会に、もしかしたら間に合うかもしれない! とばかりの勢いだ。


「よし。外用も数えた。漢方もオッケー。飲み薬も全部数えた。薬局長っ! これでいいですか!?」

 珍しくなんのオチもないまま、無事に数え終わってウキウキのタケシである。

「うーん。そうだねぇ……。とりあえず、お寿司、食べようか」

 みんな揃って、休憩室に移動。

「これも…、これもあげちゃいますぅ」

 席に着いたら、みんな揃って嫌いなネタの乗ったお寿司をタケシの器に乗せ始めた。基本的に嫌いなものはまったくないと公言しているタケシである。気付いたら、器にてんこ盛り状態。だが、若いオトコノコであるところのタケシにとって、この量はおやつも同然である。楽勝。

 談笑しながらお寿司を食べ、それじゃあお先に失礼します、と事務さんは帰っていった。

「薬局長っ! 帰れますか??」

 さらにテンションのあがったタケシ。この時のタケシには、二次会のテンションの高さにも充分ついていけるという自信があった。数を数える、ただそれだけの行為がタケシのテンションのメーターを振り切って、ナチュラルハイ状態にしてしまった。恐るべし棚卸、である。

「そう……。帰るの……」

 お寿司の器をすべて洗い終わった二歳年下のセンパイが、静かに言ってきた。

「薬局長、どう思いますか?」

「うん。帰るなら仕方ないよね」

「……え?」

 なんだか変なムードである。

 実はね、と二歳年下のセンパイが切り出した。

「薬剤師はこのあと、数のチェックをしなきゃいけないの」

「数のチェック……ですか?」

「そう。さっき数えた数と、理論在庫を照らし合わせる作業。これが結構大変なのよねー」

「え……、だって、数かぞえるだけって……」

 そう、とお茶をすすっている薬局長がにこやかに言ってきた。

「基本的に、みんなのすることは数を数えるだけ。だから、帰りたかったら帰ってもいいよ」

「でも私は残ってやるけどね。あーあ、いったい何時になるのかしら」

 手を拭いたら、二歳年下のセンパイはまた調剤室に戻っていった。薬局長もそれに続く。

(どうしよう。帰ってもいいんだよな? っていうか帰りたい。みんなと合流したいし。これで帰っても許されるんだよな?)

 とタケシの頭の中でいろんなことを駆け巡らせている時である。「あ、そうそう」と薬局長が戻ってきた。

「これ、昇給の査定の対象になるから。別に残らなくてもいいけど……ね」

 タケシは石化した。

 ただでさえ少ない給料には、少しでもアップしてもらいたいものである。

『ごめん、今日無理』という簡単なメールを送信したあと、タケシも調剤室に戻った……。

 タケシが薬局をでることができたのは、次の日の午前1時半である。

「タケシくんがいてくれたから、わりと早く終わったわぁ。この間なんか、二人でやったから4時までかかったもん」

 二歳年下のセンパイが、スッキリとした表情で言ってくる。


 明日からは……もとい、今日からお正月休みだ。

もうお正月ですが何か?状態ですw

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HONなび
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