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夜風

作者: bon


夜風を浴びながら男二人がベンチに座っていた。

片手にはお酒を片手にはやきとりのようなものを持っている。


仕事にくたびれた私は、いつも帰り道に見かけるこの公園で一人で軽く飲んでから家路にでもつこうかと思っていた。

お気に入りのビールとあたりめ。「お金持ちになる!」と田舎からを夢見て上京してみたものの、

社会という現実に打ちひしがれたサラリーマンにとっては最高の贅沢である。


今日は夜風が気持ちいい日だった。

天気も良かったが、夕立なのか足元は少し湿っていた。


背中合わせのベンチで、私の背を挟んで後方のベンチに男二人は座ってた。


二人は何かを話している。

楽しそうにも、暗そうにも見えない。

ただ、淡々と話しているのだ。


耳を傾けると、会話が鮮明になってきた。

どうやら友達の結婚について話している。

20代後半に見える二人だ、結婚ラッシュの時期なのであろう。


「実は今度結婚式に行かなきゃでさ、元カノの結婚式なんだよ」

一人が言う。


「元カノの結婚式に呼ばれてるの?」

もうひとりが言う。


そりゃそうだ、一般的に元カノの結婚式に行く男の話など聞いたことがない。


男が続ける。


「結婚ってなんなんだろうな」


「そりゃ幸せの一つの形なんじゃないの?」


もう一人の男が答える。


「人が幸せそうにしてるとムカつくのよ」


男が答える。会話は続く。


「幸せの形がありすぎるよな〜

一つだけにしてくれりゃ、わかりやすいのに。」


「一つだけだったから、おもしろくないよ。

神様が一つだけに決めてもどうせ違う形を生み出していくよ、人間は」


20代後半の二人だ。仕事、恋愛でいろいろな悩みがあるのだろう。

私は、そういう時期もあるよなと懐かしむような気持ちで話を聞いていた。


「いろんな幸せがあるとしたら、人の幸せを奪う幸せも許されるよね?」


物騒なことを言うなこの人はと、公園の目の前に広がるマンションの群れの明かりを眺めながら思っていた。


「そうかもだけど、人を不快にさせて自分が幸せになるのは違うと思うな」


もう一人の男が答える。


まっとうな答えをするじゃないか。私はそう思った。


「人の話を盗み聞きするのも幸せの形なのかな」


男が言う。


「そうだよな〜、それは違うと思うんだよな~」


もう一人の男が答える。


無意識に長い間盗み聞きしていた私はやっと我に返る、

自分の盗み聞きがバレているのか。いやバレるはずがない。


たとえ、バレていたとしても一言言うべきか、いや、逆に気持ち悪くないだろうか。

「すみません、盗み聞きしていました。」

言えるはずがない。言わないほうがいい。


そうこうしているうちに、男二人が目の前まで来ていた。


「こんばんは」


一言挨拶をされ、見上げた先にはスマホの明かりでこちらを照らす男二人。

ビールと焼鳥を持っていたはずの男ではなく、ビールとナイフを持っている男だった。


「焼鳥は見間違いか」

と、やけに冷静に思った。


明かりに照らされて気づく。

湿った地面は、どこか粘り気があり、色が赤い。近くには横たわった女性。


私は思う。

「今日は夜風が気持ちいいな。」



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