3話:作戦の引き金
王宮の廊下にカツカツと不快な靴音が響き渡る
「クッソ、女はどいつもこいつも俺をバカにしやがって、忌々しい!!」
ここ数日、アレクは何度も怒りを感じていた
試験の結果では全てカミーラを下回る
手合わせでは子爵家の養子の女に負ける
挙げ句の果てに乳母から出来が悪いと怒られる
「たかが女の癖に俺に指図して、アイツも婚約者の癖に馬鹿にしやがって。」
アレクは自分が悪いとは微塵も思っていない
婚約者の癖に自分を立てないカミーラや庶民の癖に自分に楯突くエサージュ、偉ぶって自分に注意する乳母が悪いと本気でそう思っているのだ
「そもそも俺は王族だぞ、アイツらとは産まれたときから格が違うんだ、それなのに女共は皆……」
それなりに大きな声で文句を言いながら、カミーラが王妃教育を受けているであろう部屋を睨み付ける
「ふん、まぁあんな女なんていざとなればどうにでも出来る。」
そう納得し、機嫌を治そうとしたところだった
「あんな女とは、感心しないな、アレク。」
「兄上……」
この状況で最も会いたくない相手に遭遇してしまった
「聞いたぞ、手合わせで敗北を認めないどころか相手を扱き下ろしたらしいな、挙げ句婚約者が優秀だからと八つ当たりか?王族として恥ずかしい。」
「何を言っているのです、あいつらが王族の俺に逆らうのが悪いのでしょう?貴方も俺に逆らうつもりで?兄とは言え、俺は未来の王ですよ、口のきき方には気を付けてくださいよ。」
そうだ、自分は王族で、未来の王だ
俺に逆らう奴らが皆悪いのだ
「ほう?なら、自分にその資格があるか胸に手を当てて考えてみるんだな。」
なのにこの兄も、普段から俺を馬鹿にしてくる愚か者なくせに周りから評価され崇められる
側室腹の癖に、産まれたのが二年早いからと調子に乗っているのだ
「貴方こそ、俺への態度を改めてはいかがですか?では。」
俺が王になったらあの忌々しい兄も婚約者も処刑してやる、
などと有り得ないことを考えているアレクは今の会話によりアレンが完全に自身を見限ったことに気付かないのであった
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「クレール、出てこい。」
アレクが離れたのを確認し、曲がり角の向こうで様子をうかがっていた腹心を呼ぶ
「やはり気付いていましたか。ところで、どうなさるおつもりで?久しぶりにアレが話しているのを聞きましたが、以前よりも愚かさが増していましたね、何も出来ないくせにクソガキが……」
最後に小声で罵倒をしつつ、宣言しろと言いたげに決まりきった答えを求めてくる
「これ以上アレクに王族を名乗らせるつもりもない、隊の解散についても先ほど通達をした。」
「かしこまりました。そちらは新たな隊員が最低限集まったら、と言うことでよろしいですか?」
「ああ、計画を始動しよう。優秀な腹心をを持てて俺は嬉しいよ。」
アレンはそう言うと不敵な笑顔を浮かべた
次にやっとエサージュが登場します!