始まり
まだ朝の色が残る太陽の位置、小鳥が囀る声と木漏れ日が差し込む窓を横にして少年が二人対面している
そして、優雅に紅茶を飲んでいた位の高そうな少年はは顔を上げてにこりと笑い、こう言った
「さて、クレール、明日付けで俺の親衛隊を解体することとなった。」
「…は?」
伝えたい事があるからと朝一の登城を命じられ来てみれば、第一声がこれだ。
第一王子本人が親衛隊を解散する、その事の重大さは貴族ならば誰でもわかるだろう。
「どう言うことだアレン、そもそも何故補佐の俺に話が伝わっていない?」
「お前は二人きりだと敬語が抜けるな、相変わらずストレスが貯まった顔をしているぞ?全くこれだから止められない。」
相も変わらず人を困らせることが好きな奴ではあるが、理由もなくこんな強行手段に出ることはない。
そもそもの話、親衛隊とは未来の近衛兵、王子の学友や有力貴族の子弟で構成されている。
正当な理由もなく簡単に解体していいものではない。
であれば、考えられる理由としては
「仮とはいえ、王位継承権がお前に無いことに反発でも来たのか?」
「ああ、俺が16になってから約一年で五件、勿論遠回しにだがな。」
「直接言える、言ってくる奴らだけでも五件か、なら自分の隊は解体して作り直すから文句があるなら第二王子の方に移動しろ、とでも?」
その方法ならば確かに、真に忠誠心の無い奴らを炙り出し追い出せる
ただ一番の問題はほとんどの有力貴族の子息が抜けるだろうと言うことだ。
「どうも奴らは俺ではなく仮にも仮にも継承権一位のバカの方が良いらしい、悲しいことだな、その理由を考える脳もないとは。」
わざとらしく悲しそうな表情を浮かべているアレンは真意を見抜けない者を傍に置くつもりがないらしい。
「お前のその考えはわかる。確かに俺も隊内が一枚岩では無いことを指摘したさ、でもそこまで思い切ったことをする必要はあるのか?」
アレンは肩を竦め、さらにわざとらしく困ったとでも言うような表情を浮かべた
「実はもう一つ理由があってな、エサージュの入隊手続きを嗅ぎ付けられたらしい。」
「なるほど、女を自分達の仲間として認めたくない、か。」
この国の男尊女卑は前時代から深く染み付いている風習の一つである
数年前から掲げられている男女平等の政策はお飾りとなっており、実際にそれを受け入れている貴族はごく僅かだろう
「バカらしい話だよ、王家の公式の声明として古い風習は要らないと宣言したのにね。」
「そもそも、エサージュは魔導騎士団長の娘だろう。騎士の称号をこの年で受けていて、そこらの団員が束になっても敵わない程の実力がある、何が不満なのか理解できない。」
騎士の称号はそう簡単に受けられる物ではなく、相当の実力が求められる
更に彼女の場合は、国で最強とされる騎士団の団長を父に持っていた
そのため、親の七光りと言わせない程の実力の証明が必要だった
だからこそ彼女は血の滲むような努力を積みそれを成し遂げた、だからこその騎士なのだ
そして、王子であるアレンが彼女を団に入れることは、実力があれば女性も地位を得られると公に発表するためでもあったのだ
「まぁ、確かに…お前や陛下の思惑も理解できない奴らは居たとしても思うようには使えないだろうし、内部分裂の原因になりかねないだろうな。」
「ああ、あいつらもお前達の用に頭が良ければ良いのにな。」
「そうだな……待て、お前達?誰かに伝えていたのか?」
アレンの言葉に違和感を憶えたクレールが訝しげな顔をした。
「カミーラだ。先刻会ってな、相変わらず優秀だ。解体すると言ったらすぐに理由を言い当ててきたよ。あのバカの婚約者にしておくには惜しい」
「仮にも貴方の弟なんですから、バカは無いでしょう。まぁ、あの男にカミーラは勿体ないですが。」
人が来る気配を察し敬語に戻しつつ、優秀な妹に想いを馳せる。
本音を言うのならば継承権一位を持っているにも関わらず努力をせず、王族にも関わらず前時代の風習に囚われている、そんな愚かな奴に優秀な妹を渡したくはない
「相変わらず憂鬱な顔をしていたぞ、あいつと顔を会わせたくないらしい。まぁ、自分より明らかに劣った地位の高い婚約者など居てもお荷物なだけだろうな。それとお前に言伝てを頼んだと言っていたが?」
「ああ、その事でしたら...」
と、クレールが朝の出来事を思い返す