第2話
「おんなじクラスじゃんよろしくな!!!」
「今だけでも新鮮な空気味わっとこー…」
僕と朝陽は同じクラスだった。
同じ中学からの進学生はそこまで多くない。まあそもそも友達が多くないから知らないだけかもしれないが。
勉学と多少の習い事以外に時間を費やしたことのない僕のことだ。無理もない。
「僕の番号は……と。」
自分の席を確認し教室に入る。
教室は新学期独特の緊張感がある。話をする生徒は殆どいない。
しかし中には積極的に友達づくりに励む…
「俺は須崎朝陽!よろしく!!…へぇー!中学剣道部だったんだ!武道ってかっこいいよなぁ!」
こういう者もいる。勿論僕はこんなことはやりたくてもできない。
席も名前順で教室の中心、そしてコミュニケーション能力の高さもあり、朝陽はあっという間に注目の的となった。その和やかな雰囲気を傍目に見つつ僕は小説を開く。
教室に生徒が皆集まって数分後。
眼鏡をかけたお人形みたいな女子が入ってきた。つり目で勝気な雰囲気もあるが綺麗な子だ。
でも制服じゃないってことは…?
「皆んな集まってるみたいだな。今日からこのクラスを受け持つことになった数学科教師の冷泉だ。」
予想は的中したようだ。教師としての威厳を保とうということなのかはわからないが…顔だけ見ればその言い方や雰囲気が合っているようにも思えるがその体躯を考慮するとなんだか違和感があるように思える。
「もうそろそろ入学式だ。とりあえず移動するから廊下に並べ。」
こう堅苦しい式典から逃れられないのは仕方のないことなのだろう。しかしこういう時には何を考えていれば良いものか…はっきり言ってよくわからない。
真剣に聞くべき話などなかろうに…所詮は自覚の問題だから言われてどうこう変わるようなものでもないと思っているのだが。
内心悪態をつきながら僕は徐に席を立った。
「我が清学高校の歴史は…」
予想通りだ。自校の歴史を振り返り始めると短く終わるわけがない。
色々考え事をするものの全く時間が過ぎないのはどうしてだろうか。「逆浦島現象」とでも言える過ぎて行く時間の遅さにもどかしさを感じつつ、ひたすら話が終わるのを待った。
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式典を終え、教室に帰ってきた生徒たちは、入学式前の雰囲気と異なり、明るかった連中がすっかりぐったりとして伸びきっている。さすがの朝陽も喋る元気もないらしい。恐ろしや校長の話…
「さぁ、あまり自己紹介ができなかったが、このクラスを受け持つ冷泉冴空だ。担当教科は数学。
とりあえず今日はホームルームを終えたらそのまま解散になる。明日以降は配布した資料の通り、講義になるのでくれぐれも講義の忘れ物のないように。
まあとりあえず連絡は以上。これから皆には自己紹介をしてもらう。ではまずは出席番号1番の右京からか。」
久々にくる出席番号1番のとばっちりに内心憤慨した。
名前がア行とはいえ、今までほとんど前に人がいたのでそれをそのまま丸コピでよかったものを…面倒だと感じる反面、適当にやって悪目立ちしてしまうと今後の高校生活に支障をきたしてしまう。僕は柄にも無く頭をフル回転させて無難な自己紹介をした。
「えーっと…右京弦樹です。区立千寿中からきました。初めましての人も、そうでない人も、3年間どうかよろしくお願いします。
んー…長いこと音楽やってたので音楽系の部活に入ろうかなって思ってます。もしお話しする機会があれば仲良くしてください。」
普段の僕を知る朝陽がこっちを見て笑いを堪えている。そもそも人と話すことですらほとんどない僕が自己紹介でこれだけ話したのだ。それを知る朝陽が笑うのもわかるが…いくらなんでも笑いすぎじゃないだろうか。
「須崎朝陽です!区立千寿中出身、勉強は苦手なので誰か教えてください…!!!!
運動は色々やってきてるんですけど何の部活に入るかはまだ決めてないです!とにかく皆んな3年間よろしく!!!!」
実に熱苦しい自己紹介だった。でも少し笑いたくなる気持ちもわからなくもない。もしテロップがついていたなら「勉強を教えてください」の言葉の後に「(切実)」が絶対についていただろう。
そしてその数人後。
「蓮実芽生彩です。よろしくお願いします。…」
ん…?目が合った気もしたが俺みたいな奴は相手にもされてないだろう。
スタイルもいい、可愛らしい女子が挨拶をした。
周りの男子が噂するのを聞いていたから知っているが改めて見るとかなりの美少女だ。流石の僕も目を引いた。
顔も小さい上に群を抜いて可愛い。身体のラインも出るとこは出ている。こういう生徒は男子の中で引っ張りだこ、目立つこと間違いなしだ。
この後も自己紹介は続くも、冷泉先生の目も気になり内職をする気は起きなかった。僕が目をつけられて怒られるのは嫌なので誰か代わりに怒られてくれないだろうか。
そんなどうでもいいことを考えているうちに、ホームルームの時間が終わった。
「明日から早速講義が始まる。改めて言うが忘れ物は決してしないように。では、解散。」
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昼前に学校から解放されて午後をやることがなく、物思いに耽っているところに、僕の生活を脅かす厄介な生徒がやってきた。
「ちょっといいかしら。」
それはやや憮然とした表情をした蓮実芽生彩だった。それを見て僕は心の中で小さく舌打ちをしたのだった。