第91話 流浪の占い師 ―テトラ―
「『竜のあくび亭』の募集の件、ようやく決まったぞ」
「ホントですかっ!? やったぁぁ♪」
うれしくて声をあげて席をたつ。
ここは職業ギルドの一室。
朝の仕事を早々に片付けて、わたしは城下街へと訪れた。
――案内された会議室。
職場ギルド長ブライアンさん、
冒険者ギルド長パウロさん、3人でお話してる。
『竜のあくび亭』の求人募集。
あの話し合いからようやく良い報告をいただいた。
「ずいぶん待たせてしまったが、これで一安心だ」
「はははっシアちゃんホントよかったね」
「はい♪ありがとうございます」
3人でにこにこしながら、ほわわんとする。
「……それにしても一気に見つかるとはねぇ」
資料をみながらパウロさんがしみじみとため息をつく。
候補だけでもかなりの大人数。
とてもたくさんいっぱいだ。
「まぁ条件もだいぶ緩和したし、さらに待遇をあげたからな?」
「そうだったんですか〜」
募集の件はすべてブライアンさんにおまかせしている。
今はとにかく大切な人手を確保するという観点から、予算はいくらでも積んでる状態だ。
「無事に話がすすんでホッとしたよ」
「はい。来ていただけるだけでも、とてもありがたいです」
精霊や妖精さんたちがいっぱいいる。
ちょっと特殊な宿屋だからね。
おじいちゃんと神さまに全力で感謝のお祈りしよう。
とにかく、よかったよかった。
『竜のあくび亭』の宿泊客。
皆さま方にあれやこれやと手伝ってもらってもらっている。
かなり甘えているトンデモない状況だ。
これでようやくふつうの宿屋として運営できる!
お客様にちゃんとしたサービスが提供できるよ〜♪
◇
「あっお約束の品。だいぶおそくなってしまいましたが」
ガサゴソ ガサゴソ〜
3人でわいわい話す中。
お礼の品の包み紙をさしだした。
前回、ハンカチをかしていただお礼と、そして日頃の感謝を込めた『刺繍入りのハンカチ』だ。
「おおっありがたいねぇ〜。それぞれ2つってことはもしかして、ブリジッテとドロシーの分なのかい?」
「はい♪いつもお世話なっていますから〜」
奥方さまたちへの感謝の品だ。
おじいちゃんが天へと旅立って、大変お世話になった方々だ。
今はどこか遠くの村。
モンスター討伐の依頼中で不在らしい?
「ずいぶんと手間をかけさせたな、感謝する」
「いえいえ、おそれいります。ささやかなものですが」
わぁぁっ
ものすごく喜んでいただけてる。
うれしいなぁ。がんばってつくったかいがあったよー。
「さっそくだけどあけてもいいかな?」
「はい〜」
笑顔でうなずくとお二方さまが紐といた。
しゅるりっ ガサッ
「「おおっこれは……!?」」
キラキラキラキラキラ〜♪
紐解かれた包み紙から
『刺繍入りのハンカチ』がかがやいてる。
「シ、シアちゃん〜!?」
「こいつはスゲェな……!」
うわぁっなにこれ
めっちゃかがやいてるよ!?
「――これが噂の『竜殺しの勇者』の孫娘の手芸品か……!」
「まいったね、とんでもない一品だよ」
「えええっ」
おかしいな昨日確認したときは
こんな光かがやいてなかったのに?
あっもしかして。
――昨晩、キラキラした光が楽しそうに包み紙のまわりをぐるぐるしてたような。
精霊や妖精さんたちがお手伝いしてくれたの?
「ありがとうシアちゃん! 家宝にするねっ」
「ひぇぇっ」
パウロさんがバッと手をにぎって涙をながしながら天をあおいでる。
めちゃくちゃよろこんでる?
ばんばんっ
「ガハハッこいつはたまげた。感謝するぜ」
「わぁぁっ」
ブライアンさんが大笑いしながら楽しそうに、頭をなでてくれた。
「いやぁ〜ジゼル殿が、毎回、毎度、何回も! じまんしていた『シアちゃんの手作り手芸品』……ようやく手にはいって、私はうれしいねぇ〜♪」
「ガーハハハッたしかになっ!」
うわぁっなにそれ、なにそれ? おじいちゃんんん!?
3人でわいわいと語らった。
◇
コツコツコツッ
ん?
窓の外から黒い鳥がコツコツとちいさく小突いてる。
「どうやらオズワルドから連絡が来たようだ」
前々から取り決めてあった今回の話合い。
魔術師のオズワルドさんは不参加だ。
ブライアンさんがそっと窓を開けて黒い鳥を手にのせた。
ぽむっ
ふれると一瞬でちいさな魔法陣が展開して一枚の手紙になる。
『魔法伝書鳥』
手紙がそのまま鳥になって届ける魔法具。
あらかじめ、やりとりする個人や場所など魔法契約が必要だ。
「ブライアンどういう状況だ?」
「はぁ、王城から急な召集があって今回参加は無理らしい」
「ええっそうなんですか」
王城に呼びだしって……。
なんかすごいなー。
雲の上な存在。
王族様が住んでいらっしゃる場所。
なにかあったのかなー?
あいかわらず、お忙しいみたいだ。
「さすがのオズでも手こずってるみてぇだな?」
「まったく大事な話し合いだろうに」
やれやれとするパウロさんとブライアンさん。
「あのー、王城への呼びだしと宿屋の報告。天秤にかけるのがおかしくないですか……?」
「今は『竜のあくび亭』が最優先だよ」
「うまく立ち回れないアイツが悪いな」
「……ええっ」
声を揃えて話すお二方におもわず後退る。
優先される宿屋とはいったい。
拒否ることのできなかったオズワルドさんが悪者な扱いに?
というか、このギルド長ご三方様が。
直々に募集の件にかかわってること事態。
ありえない話だと思うんですけど……。
◇
――青空のしたギルド街へととびだす。
お昼ごはんをどうかとおさそいを受けたけど丁寧に遠慮しておいた。
まぁ、おいそがしい方たちですし。
気持ちだけでも充分にうれしくて感謝してる。
「うーん、じかにお渡ししたかったけれどなぁ」
オズワルドさんは不参加。
――会議室へと舞いおりた魔法伝書鳥。
どうやら王城へと呼出中だったらしい?
花を詰めこんだ香り袋と回復薬。
パウロさんとブライアンさんが笑顔で快く引き受けてくれた。
すぐに届けたかったので、ありがたい申しでに喜んだ。
城下街に流れる小川。そこにちいさな橋がかかっている。
この橋を境にして。街はがらりと雰囲気がかわる。にぎわいながらも落ちついたお店が建ちならぶ。
こだわりのお店などがあつまっている場所だ。
「さて、どうしようかな〜♪」
橋のうえで手すりにもたれて、川で遊ぶ小鳥たちをながめながら考える。
パンにする? それともパスタ?
肉や魚、野菜を中心とした料理。
今日はなんでもござれだよー。
いろいろピックアップしてるお店はあるけどー。
ふらりと立ち寄ってみるのも楽しそう♪
「歩きながら考えるでいいかもー?」
――――ティリーン。
ん?
どこか遠く、ちかくで不思議な音がした。
なつかしい音色。
「なにかお困りですかな……?」
ハッとしてふり返る。
そこには占い師らしき人が1人。
橋のうえで、ある程度の距離をたもちながら。
フードを頭から深くかぶり顔をふせながらささやいた。
「あなたは今、とても迷っておられますね?」
「っ!?」
「――それは数ある選択肢から――1つの結果を――選ばなければならないという状況と――お察しします」
「えっどうしてそれを?」
なにを食べるかで悩んでいたけど、顔にでてた?
は、恥ずかしいな。
でも、これはいったい。
「ですが、いかがでございましょう? その迷いや悩み。ぜひとも、わたくしめに手助けをする役割をあたえてはくださらないでしょうか?」
「…………。」
身ぶり手ぶりをまじえながら、やさしく問いかける占い師。
どうやら、わたしの悩みを解決しようとしてるみたい。
うーん、でも?
きゅうに声をかけて協力するって……。
なにかあやしくないですか?
あれ?
でも、この声と身ぶり手ぶりどこかで……?
おぼろげな記憶の糸をたぐりよせる。
「えっと、もしかして……テトラさん?」
はたっと動きがとまる。
占い師が深いローブからゆっくりと顔をあげた。
「……おやぁ〜? ルキナひさしぶりですねぇ」
バサリッと外したフード。
―――紅色、金色、海色、葉色、4色の髪がゆれた。
「わぁぁっやっぱりテトラさんだ!」
《テトラさん》
――旅する占い師。おじいちゃんの友だちだ。
子どもの頃に『竜のあくび亭』によく訪れていた。
世界中をまわって予言を授けるらしい?
うれしそうに目を閉じたまま笑ってる。
気づいてもらったからか、とても喜んでいる。
「おひさしぶりですっこんなところで会うなんてすごく驚きました!」
「いやはや、わたくしめもびっくりですよ。ルキナ?」
いや、いやいやいや〜。
わかってて声をかけましたよね?
目を閉じたまま大げさに驚く動作をしている。
それがかえってよけいに、あやしいです。
「でも、どうしてここに?」
「ふふっ、まえに申しあげましたでしょう?――あなたが迷う時、わたしは訪れると。星による導き、巡りあわせ……こうして出逢えたのも運命、ですから」
ぐるぐるぐる~ たしゅっ
テトラさんが長い髪をゆらして、うれしそうにくるりと廻って礼をとる。
うつくしい仕草でにっこりほほ笑んだ。
「は、はぁ。ありがとうございます?」
でも、お昼ごはんで悩んでいただけなんだけど。
え?
もしかして……。
世界中を旅する占い師……予言者を?
たったそれだけの理由で呼んじゃった!?
「あわわっ」
「さぁ、話してごらんなさい? ルキナ……あなたはなにを望み、そして迷っておられるのですか?」
――あなたのお悩み解決します。
とつぜん、はじまった占い師の相談所?
「あの……いえ えっとぉ、その」
わたしはふるえた。




