第90話 裁縫をしよう
夜明け前、星はまだ小さく瞬いていた。
うっすらと闇のカーテンが色付きはじめ、段々と明るくなっていく。
「ふぁぁ〜」
眠い目をこすり起きあがる。
「あい、おはよーございます〜」
ずるずるずるずる……。
むにゃむにゃと、ベッドから洗面所へとむかう。
パシャパシャパシャッ
よーし、この花の石けんにしよっと。
はぁ〜すごく良い香りー♪
丁寧に泡立て、洗顔する。
タオルで水分を押しあて拭きとっていると、はたと、鏡の中の自分と目があった。
「…………。」
何だかんだでしっかりぐっすり眠れたなぁ。
数日前には、ドキッとすることがあったのに……。
鏡の前で、うーんと首をかしげる。
それにしてもあのお土産はとてもおいしかった。
『ドーナツうまー♪』
キラキラ光るふんわりドーナツ。
ほわーっと幸せな気分で花畑になる。
さて、朝の支度をして作業場へとむかおう。
◇
「ん〜、こんな感じかな〜?」
布に糸を通しながらにらめっこする。
食堂の陽のあたる場所で、ちいさな布をぬいあげていた。
もようを描きながら少しづつ針をすすめていく。
―――前回、いきなり行なわれたギルド会議。
『竜のあくび亭』おシゴトする方募集中。
その話し合いで感謝のあまり泣きまくった。
《冒険者ギルド長パウロさん》と
《職業ギルド長ブライアンさん》
なにかお礼にとの話で
ハンカチを『できれば手作りで♪』とのことだった。
ようやくゆっくり時間もとれたのでとりかかる。
「さーて、感謝のきもちをこめてーっと♪」
色とりどりの糸。
縫いあわせ組みあわせ1つ1つ模様を描いてゆく。
糸それぞれには相性がある。
素材で模様にかかる効果がかわるのですこしだけ気をつかう。
花や草の素材は運気があがる模様と相性がよい。
それにクモの糸を足すことで幸運をキャッチしやすい加護模様になる。
「こっちはこの色で、こっちはこの素材かなー?」
ぬいぬいぬい〜
――幼い頃から小物類だけはときどき手作りをしている。
たいしたモノは作れないけど、裁縫は好きだ。
そっと裁縫箱から道具を手にする。
「…………。」
キラキラキラキラ〜♪
ハサミや針、こまごまとした道具。
すべて特殊素材で作られた魔法の裁縫箱。
加護や祝福などまじないがかかっている。
『わーい♪ ハサミさんだぁ〜♪』
じょきじょきっ ぶしゅうううっ
「うぎゃあああっ」と泣き叫ぶおじいちゃん。
ひっしに手当てしてくれた。
「……。」
――――そして完成したのがこの裁縫箱だ。
ああっおじいちゃん。
その節はホントにご迷惑おかけしました。
「あっいい感じになりそう」
お店で教えていただいた模様も丁寧に縫いこんでいく。
とても素敵な模様になってきた。
糸屋の店主さんありがとうございます。
糸が描かれるたび、ひとつひとつ模様がキラキラとかがやいてる。
だんだんとのってきて一気に仕上げることができた。
「やったぁ♪ できたー♪」
できあがったハンカチの刺繍をみて、にんまりと笑う。
今度、城下街に行く時にお渡ししよう♪
◇
「うぅ〜んっと」
ぐーっと背伸びした。
休憩がてら熱い紅茶を淹れてひと息つく。
あっそういえば。
「オズワルドさんにもなにか?」
お礼のお手紙と菓子折りは贈ったのだけれど。
「……。」
うーん?
たとえば回復薬とか?
とてもお忙しいみたいだし、きっとお疲れだよね?
コトッ きらりーん♪
『はーい、お疲れさまでーす。コレ回復薬です♪』
たしかに合理的だし、とても喜びそう?
手作りだし、よさそうだけど。
なにかこうちがうような……?
――ふいに植物に囲まれて眠る、黒髪の魔法使いがうかんだ。
オズワルドさん『裏庭のハーブ園』の東屋で、
よく休憩してた。匂いが好きだからって。
香り袋とかどうかな?
ハーブや花を詰め込んで、加護や癒やしの模様を編んで。
まだまだ糸や布もあるし。
……すこしは気が休まるといいなぁ。
◇
トントントンッ
カラン♪ 扉がノックされて鐘がなる。
「ルーシア、ただいまー♪」
「あっおかえりなさい〜ユリウス」
冒険者のユリウスがかえってきた。
針作業をとめて、すぐさま出迎える。
おたがいに旅の無事を笑いあって、温泉へとむかったユリウス。
軽食をおねがいされたので、さっそく作りはじめた。
「ええっイグニスが来てたの!?」
とてもびっくりしてユリウスが驚いてる。
「うん。まぁ、すぐに帰っちゃったんだけど……」
大魔女さまと同じ弟子の魔術師のイグニス。
『いきなり来訪』からの宿泊そしての転移魔法でとんでった。
スタイリッシュ帰宅。すごーく早かった。
「よかったね、ルーシア」
「うんうん〜♪ひさびさでうれしかった」
ユリウスがサンドイッチをもぐもぐしている。
パリパリの野菜の酢漬けとチキンに満足そうだ。
特製レモネードを口にする。
すこし困ったように笑って、肩を落とした。
「あははっでもいいなー。俺もイグニスに会いたかった。もうちょっと早く帰ってこれたらよかったんだけど……」
「あー、そうだねー」
子ども頃から。
『勇者』と『大魔女さま』の弟子同士〜!
仲良くなりたーい♪っとずっと願っている。
なのにいまだ1度も出会えていない。
うーん、なかなかムズかしい。
「でも、また来るって言ってたから大丈夫だよ?」
「ホントに?」
「うんうん〜♪」
お茶会の約束もしたからね。
今までは魔法の修行? とかで、手紙すら禁止だった。
でも突然の来訪。挨拶がてらに来たと言っていた。
いろいろと落ちついたのかも?
「これからはふつうに遊びに来ると思うよー」
「そっか。じゃあ楽しみにしてるね」
ユリウスがうれしそうにほほ笑んだ。
◇
三角巾やエプロンがとても似合ってる。
「ルーシア、夕飯は俺にまかせて?」
ささっと軽食を食べおえたユリウス。
軽くストレッチして、キッチンで作業をはじめた。
うううっありがたいことです。
手をあわせて祈るようにお礼を言ったら笑われた。
今回は1人で調理したいみたい。
お言葉に甘えてそのまま裁縫の作業を再開する。
いやぁ〜、それにしても……。
なんでこんなにも皆、会えないんだろう?
いつもすれちがいばかりだ。
「……?」
ふと、ちいさな光が目にはいった。
ふわふわと精霊や妖精さんたちが食堂に集う。
ユリウスのまわりをぐるぐると廻ってる。
「あははっ♪ 今、ごはんつくっているからねー?」
鍋をぐるぐるかき混ぜながら笑ってる。
いたずらが大好きな妖精さんたち。
なんだかとっても楽しそう。
「…………もしかして?」
っと、なにかが頭をよぎったけれど。
きっと気のせい。気のせいだよね……?……たぶん。
読んでいただきありがとうございました。




