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第7話 竜殺しの弟子① ―ユリウス―



 風が吹いて木々がゆれていた。

 青空からうっすらと夕暮れへと変化する頃。



 トントントンッ


 カラン♪


 『竜のあくび亭』の扉がひらいた。



「ルーシア? いるかな~?」


「―――ユリウス!?」


 まだ幼さのこる青年が食堂をのぞきこむ。

 わたしはキッチンからすぐさま扉にむかってかけよった。


「おかえりなさい〜!」


「ただいま、ルーシア」


 《ユリウス》『竜のあくび亭』の宿泊客。

 冒険者でおじいちゃんの弟子。

 ダンジョンから月に数回こうして宿屋に帰ってくる。



「ごめーん中庭の水浴び場借りていい?」


「うん! 大丈夫だよ」


「倉庫にも入れたいモノがあるんだけど……」


「了解だよー! 鍵持ってくるね」



 手をふった後、ささっと鍵やタオルの用意する。


 この『竜のあくび亭』には元冒険者だったおじいちゃん特製の貸し倉庫がある。冒険者時代、一時預かりで苦〜い思い出と不自由。宿屋を建てるなら絶対貸し倉庫付! と希望したらしい。


 あったら絶対に楽だからって理由で。


 今まさに貸し倉庫は、おじいちゃんの弟子。

 冒険者のユリウスに使われて大活躍中だ。


 鍵を手にして、建物の中から中庭へ向かうとユリウスが作業をしていた。

 荷馬車から運び込んだ武器やら防具やらアイテムを並べてる。


「ごめん、むこうでも浄化して持ってきたんだけど。倉庫入れる前にもう1回ちゃんと確認したいと思って……」


「大丈夫だよ~♪ あっ、おなかすいてない?」


「うん、なにか食べたい」


「サンドイッチならすぐに用意できるよ」


「ありがとう助かる~」



「あっそれと今日は宿泊と夕飯は別のとこで取るから、作業はそれまでは片付けるからね」


「はーい。じゃあ、ちょっとまってて」



 ユリウスは8歳までの3年間、一緒に暮らしていた家族だ。


 孤児だったユリウスをおじいちゃんが拾って育てている中、

 幸いにも遠縁の親族が見つかり引き取られた。


 それからしばらくして剣の教えを乞いたと

 時々『竜のあくび亭』に来ていた。

 隠居の身であったおじいちゃんも元孫? には甘く、しぶしぶ了承した。

 おじいちゃんに憧れ、剣を修業したユリウスは冒険者になった。



 わたしは手を洗ってキッチンで調理をはじめる。


 朝に焼いたパンの表面を軽く焼き、うちがわにバターをぬる。玉ねぎとゆで卵をスライスして、マヨネーズと黒胡椒こしょうであえる。水気を抜いたハムとレタスを挟んで『サンドイッチ』完成だ。

 


 うーん、おいしそう。

 あまった材料はあとでつまみ食いしよー。


「あとは飲みものーっと」


 さっそくとりかかる。


 かぱっ ガサゴソ~


 魔道具冷蔵庫から砂糖と蜂蜜で漬けた輪切りのレモンをとりだす。

 柑橘かんきつ系の匂いがはなをくすぐる。大きめの水差しにレモンを入れて水と氷をいれて完成。『檸檬れもん蜂蜜はちみつのレモネード』のできあがりだ。



 すこし赤みがかった空に風が舞う。

 


「はーい、お待たせ持って来たよー♪」


 中庭で上半身裸のユリウスが立っていた。


「……っ!?」


 わあああぁぁっーっ


 ずわっ ドタンッ


 あ、あぶなかった〜っ

 

 びっくりしすぎて思わずトレイを落としかけた。

 けど……何とか大丈夫だったー。

 うううっ

 不意打ちすぎるよ~。



「ありがとう、ちょうどおわったところー」


「うー。って何で、そんなにずぶぬれなのっ」


 ユリウスが水をしたたらせてる。


 まわりからさっするに武器やアイテムに水かけてー。

 そんでもってユリウスまで水まみれになったのかなー?



 ぶわさっ


 すぐさまトレイを野外テーブルにおいて、

 あわててユリウスの頭にタオルを投げた。

 まだぬれている髪をガシガシふく。



「あー、ごめん! かなり汗かいちゃって水浴びしたんだ」


「もうーっ水浴びにはまだ早いよ。風邪引くーっ」


「あははっ」



 2人で笑いあいながら、タオルで拭いた。

 さくりと着替えたユリウスとベンチにすわる。

 


「はい、サンドイッチだよ」


「ありがとう、もうペコペコ」


 輪切りレモンがうかぶ水さしからレモネードをそそぐ。

 ユリウスが笑顔になった。


「うれしい」


「ユリウス、レモン好きだもんね?」


「うん! いただきます〜」


 ユリウスがサンドイッチをがぶっとほおばる。

 もぐもぐ〜っとひたすら食べている。


 よっぽど、おなかすいてたんだ。

 しみじみながめていると、レモネードを飲んだユリウスのうごきがピタリととまった。



「え……どうしたの?」


「なにこれ」


「えええー!?」



 レモネードなにか失敗しちゃった?

 あああっそうだったーっ味見してなかったよ。


 がしっ


 あわててユリウスからグラスをうばってあおってみる。


「……っ!?」


 んんんー!! こ、これはっ!?


 ずががーんっ


 絶妙なすっぱさと甘さがくちいっぱいにひろがって衝撃をうけた。



「わあああぁぁっ」


「すごくおいしくてびっくりしたんだけど」


「わぁぁぁああっ」


「うん、うん。いつものルーシアだね」



 おいしさのあまり思わず叫ぶわたしと、

 そのとなりで、嬉しそうにうなずくユリウス。

 サンドイッチを笑顔でもぐもぐしている。


「あああっこれドウゾさんからもらった蜂蜜なの。おいしさの秘密はこれだよーっすごくおいしいよ〜♪」


「あー、ドウゾさんか……」


 ん?


 ユリウスがやや半目気味だ。


「なにかねー、ミツバチを特定の貴重な花だけ集めさせるんだって。ふつうのとちがって時間かかるけど、おいしいのと特殊な薬や魔法薬の材料にもなるって?」


 蜂と花モンスターがバトルしながら採取するとかなんとか……?


「ふーん? ドウゾさんの食材ハントっぷりすごいね」


「ね〜♪ いろんな料理にも試したいなぁ〜」


「むぐむぐ、うんうん」


「また良いモノもらっちゃった。なんだか申し訳ないよね」


 うううっこんなにも美味しい食材の数々。

 いつもいただいてばっかりで……。


「食堂にいろいろおろしているからね。最近なぜだか大繁盛しているらしいし? お礼はありがたくいただこうよ」


「そだねー! って、ああっ!」


 手に持っていたうばいたてのグラスをみた。

 笑顔でユリウスに没収ぼしゅうされた。





 読んでいただきありがとうございました。


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