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第88話 空飛ぶドーナツ sideイグニス

読みとばしても本編に影響はありません。

よろしくおねがいします。



 オレは名はイグニス。

 ――暗黒竜を倒したとされる勇者御一行。

 その一人の大魔女さま。そして、その弟子だ。



 はじめて訪れた『竜のあくび亭』

 大樹のふもとでオレは1人たたずんでいた。



「ねー、ねー、これ一緒に食べよう?」



 少女がやってきてドーナツを手に目のまえでふる。


 『竜殺しの勇者』の孫娘ルーシア。

 オレの姉弟子さまらしい。



「これね、ドーナツなんだけどね、ふわふわでおいしいのー」


「……。」


 手をとりぶんぶんふり回す。



「イグニスもたべたら元気になるよー?」


 バシッ


「あっ……!」



 うるさくておもわず手をふりほどく。


 ぽすんっ


 空をとんだドーナツが草の上に落ちた。



「あー……」



 目を見ひらいて落ちたドーナッツを見てる。


 かなしそうな瞳に胸がすこしだけ痛んだ。

 どうしたらいいかわからない。

 気まずくて背をむけて立ちさった。



「はぁ……はぁ……」



 屋敷にむかう足がどんどん重くなって動かせない。

 息ぐるしくて。

 鉛のようで前に進めない。


 これは『竜のあくび亭』の呪い?

 いや、あのドーナツか?


 きびすを返して元の場所へとむかった。



 少女が落ちたドーナツの前で芝生にすわってる。

 ぺしぺしと草や土をはらっていた。



「……それ、どうするんだ?」


「んー、食べるよ〜」


「土がついてるだろ」


「んー、野菜にもついてるから大丈夫だよ〜」



 よくわからないコトを言いながらドーナツを払うことに夢中だ。

 2個目のドーナツもきれいに払った。



「いただきま〜す♪」


 かぷっと食べて目をかがやかせる。


「おいしいねぇ……」


 目をほそめうっとりとつぶやく。



 土まみれだった菓子を頬ばる少女。

 

 何だかすべてがくだらなくてバカバカしい。



「うまいのか?」


「うん、おいしいよー」


「……なら、オレにもよこせよ」


「えー、これおちちゃったものだよ?」



 フハッと笑った。


「おまえって……お花畑なんだな」


「?」


 オレはもっとおろかだ。



「イグニス〜? どうしたの泣かないで〜? ちょっとね、土ついてるかもだけど……ドーナツあげるから〜」


 いつのまにか涙を流してるオレに、少女がドーナツを半分こにした。

 焼き菓子をゆっくりくちによせてくる。


 少女の瞳を見つめたままそのお菓子にかぶりつく。


「……うめぇな」


「うん♪」


 花が咲くように少女が笑った。




 ◇



 

 オレは炎の力がすごい。

 

 まわりはご丁寧にバケモノってよびやがる。


 たしかにそうだ。

 おろかな錬金術師たちが生みだしたバケモノ。それが俺だ。

 ――大魔女さまが救いだして手をさしのべた。




「うんうん。わたし、イグニスといっしょに眠るね〜♪」


 何度目かの『竜のあくび亭』での宿泊。



 空飛ぶドーナツ。

 少女の悲しげな瞳。


 あんな事があった手前、断わりづらい。



 大魔女さまの姉弟弟子きょうだいでし

 弟ができた〜♪と喜んでる。


 いやいやいや、ホントの姉弟じゃねぇ。

 弟子同士って言ってんだろ!?


 誰かコイツをとめろ。オズ兄ぃ助けてくれ。



「コイツ俺がこわくないのかよ……」



 おなじベッドでぐーすか寝てる少女を見る。大口開けて可愛くもねぇ。


 ……見た目だけはびっくりするほど、天使とか妖精みたいに可愛くせにさ……。俺のまわりによって来る女の子はキャーキャーうるさいけど、皆んなちゃんとしているぞ。


「んぐんぐ……おいしいよぉ……へへっ」


「……。」


 やべぇ、こいつが何の夢見てるかわかっちまう。やっぱりただのお花畑なのか?

 頭の中は、食いもんのコトしかねーのかよ。


 むにっとほっぺたをつまむ。

 柔らけぇ。いつももぎゅもぎゅ動かしているせいだな。


「んっ……イグニスぅ〜」


 俺は目を見開いて驚いた。いきなり名を呼ばれてびっくりした。


「イグニスぅ……すきぃ」


「……!?」



 え? おい、何言ってんだ。



「うまうま……うまうま……」


「……。」



 あー、コレあれだな。コイツ夢の中でオレから何か食いもんもらってるとか、いっしょに食ってんだな……。


「……はぁ」


 バカらし、さっさと寝よ寝よ。


 がばっ


 ため息をついて、寝返りをうとうとしたら少女に抱きつかれた。



「いっ」


 こ、こいつ腕に……!?おいっよだれ、よだれぇぇ!

 師匠ぉぉ! オズ兄ぃ助けてくれぇぇ!!


 心で絶叫を上げた。ムリやりはなそうとしても体重をかけられ動けねぇ。子どもの力でがっちり腕にしがみついてやがる。


 月明かりの中、銀色の髪がさらりと落ちて少女の顔におちた。


 はぁ、ホント見た目だけは……。


 うんざりしたあと、大きなため息をつく。片方の手で少女の銀色の髪をかきあげ後ろへ流した。


 ……こいつ、めっちゃあったけぇな。


 ひさしぶりの人肌のぬくもりに眠気が訪れた。


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