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第87話 魔法使いの弟子⑦ 青空の花火



 ――月明かりの中。


 魔術師イグニスとベッドで横になっている。

 とりあえずいっしょに眠ることになった。

 

 なんだこれ? どーしてこうなった……?

 


「あいかわらず、あったけぇなぁ」


 うわぁっ?

 ぐりぐり顔を背中うずめたりするのやめてぇぇー


「ちょっとぉ、くすぐったいっ」


 べしりっ


 イグニスの手をぺしぺしした。



「あははっ」


「ううう、ソファーにいきます」


「ごめんごめん。許して、ルーシアお姉サマ?」


「……。」


 まるで反省してなさそう。はぁとため息をつく。

 暗やみのなか2人月明かりに、てらされている。


 数年間ずっと会えなかったイグニス。

 ぜんぜん変わってない。

 なつかしい。またこうしていっしょに眠ってる。


 いつのまにかやさしく髪をかすようになでられた。


 あれ? これはいったい……でもとても心地いいな。

 ゆっくりとからだの力がぬけていく。



「……ルー姉ぇ、さみしくないか?」


 イグニスが撫でながらささやいた。


「……うん」


「そっか」


 もしかして心配してくれていたのかな?

 宿屋をはじめてからは、いろいろやることがあって

 今はあまりさみしさは感じてない。


 まぁ、たまーにボロボロ泣いちゃうけど。


 

「回復薬、オズ兄ぃからもらった。ありがとな」


 ああ、オズお兄さまの《2つの回復薬》ギルド依頼品。

 ひとつはイグニスのぶんだったんだ。



「うん、どういたしまして」


「……。」


「……。」



「……ルー……姉ぇ、みん…な…で……」


「…………?」


「……。」


「……イグニス?」



 すやすやと寝息が背中から聞こえてきた。


 あー、疲れて眠っちゃったんだ。

 すごく遠くからだよね。

 ありがとう、イグニス……。



 力の抜けたイグニスの腕から抜けだして、ゆっくり体をむきなおす。


 気持ち良さそうに寝息をたてている。


 ふと、目にした宝石。

 耳に赤や黄色のおおきな魔石が何個も埋め込まれている。


「……。」


 幼いころは尖った耳がイヤだと、魔法がうまく制御できなかったりで、泣いたりつらそうにしてた。



 月明かりの中、眠るイグニスの髪と耳にふれた。

 頭をやさしくなでながら、ウトウトする。


 いつの間にか眠りに落ちた。



 ◇



 夜明け前の薄暗い空で、星はまだ小さく光っている。


 まどろみの中、目を覚ます。



「ん、……おはよーございます〜」


 寝ぼけながらむくりと起きあがり目をこする。

 

 むにゃむにゃ……窓の明るさから判断して……ふむぅ?

 とても早く起きたようだ。


「あれ〜、イグニス?」


 いつのまにかベッドはものけのからだった。

 


 ◇



 上着をはおって庭へとむかう。


 まだ夜明け前。

 ――静けさの中、大樹のしたで。

 赤髪の魔法使いのまわりをほのかに光ながら集う。


「……。」

 

 イグニスが精霊や妖精さんたちと楽しそうに語りあってる。

 いつもと違ってやさしげな表情でとても穏やかだ。



 幻想的なゆらめく色、――唱える呪文に応えるかのように。

 魔法陣から数字や記号が光りながら線を描くように浮かび上がった。円陣をくんで中心から金色の光が廻りだす。



「……おはよー、イグニス?」



 背後からそっと声をかけた。

 イグニスがビクリっとして、気まずそうにふりかえる。



「っと、ルー姉ぇ……お、おはよー?」


「……もう、行っちゃうんだね」



 描かれているのは……転移魔法陣かな?

 黙って帰っちゃうなんて、ちょっとだけさびしい。



「ん、今回は顔見に来ただけだし?」


「そっかー」


 早すぎる気もするけど……。

 時間や都合もあるし、仕方ないよね。

 こうやって遊びに来てくれただけでもありがたいし。



「今度は、ゆっくり時間をとるなー?」


「うんうん」


 ぜひ、そうしてください。

 もっと話したいし、ゆっくり時間を過ごしたい。

 バタバタしすぎるのは大変なんだよー?



「都合がつけば、オズ兄ぃも一緒でお茶会とかしよーぜ?」


「――――お茶会?」


「そ、魔法使い3人でさ」


 オズお兄さまとイグニス、3人で?

 わぁ〜! それって絶対楽しいやつだー。



「あははっうん〜楽しみにしてるね♪」



 ポタ


 ポタ、ポタタッ



 いつの間にかハラハラとしずくがおちた。


 あれ……? おかしいな?

 笑顔で見おくっているはずなのになぁ。

 目から、目から……涙がとまらない。


 数年ぶりにようやくえたから?

 なのに、またすぐにかえってしまうから?


「うううっ……ぐすっひっぐっ」


 よくわからないけど涙がとまらない。


「……っ」


 イグニスが、とてもバツのわるそうな顔をしてる。

 おでこに手をあて、苦々しく顔をゆがませて、大きくため息をつく。


「あぁ〜! 泣くなよ、コレだからルー姉ぇはー。……だから黙っていこうとしたのにぃ」


「……いぐにずっ……ご、ごめんなざいっ」


 あわてて目をこする手をつかまれた。

 サッとどこからもなくだしたハンカチで目元をあてられる。



「……オレさぁ、ルー姉ぇに泣かれるの……ホントだめ。ムリ、苦手なんだよ」


 目をそらしつつ呻くように呟いてる。


「うん……ごめんね。でも、お見送りしたかったから」



 また来るからと、約束はしたけれど―――。

 やっぱりちゃんと別れの挨拶はしたいな。


 だっていつ会えるのかわからないし。

 


 その言葉にとりまく光がゆれた。


 がばっとイグニスに抱きしめられた。


「……っ!?」


 え? なにっどうして……?

 

 強く、けれどやさしく抱きしめられる。

 ふるえるようにぎゅっとされたあと耳元でささやく声。



「――――ちゃんと見送るんだろ? ルー姉ぇ」


「……っ」


「だったら、笑ってくれよなー?」



 小悪魔的な魔法使いがにやりと笑った。



 ぱぱぱぱーん♪☆


 まわりで花火をうちならし花がさいて舞い踊りる。


 大樹から精霊や妖精たちが、いっせいにとびだして光を放ちながらぐるぐるとまわりはじめた。


「わわっ」


 手をとられ、ダンスを踊るようにくるくるまわる。


 な、なにこれ〜っ『いきなりダンスパーティー』!?

 

 イグニスがとても楽しそうに踊りながら笑う。

 精霊や妖精さんたちもいっしょに踊って、すごく楽しい。



「はははっルー姉ぇ」


「イグニス……ふふっ」



 花火が咲く中で、たがいに見つめあいながら踊る。

 くるくると抱きあいながら一緒にまわって、ポイっと開放された。


「びぇぇっ」


 よろける体でふみとどまろうとした瞬間。


 がしっ


 すかさず手をひかれ、そのまま抱きよせられる。


 花火がはじけて、天高く舞う。

 揺らめく炎が花吹雪のようにぐるぐると2人のまわりで、舞い散った。


「い、イグニス……?」


「…………ルー姉ぇ」


 すすっと頬をなでる。


 涙のあとをたどるように。

 やさしく指でふれられて思わずドキリとする。

 

 顔がくっつきそうなくらいおなじ目線。

 赤髪がゆれて、深いだいだい色の宝石のような瞳がみつめてる。

 


「オレの姉弟子さま……」



 やさしく頭を抱きよせる。


 

 耳に甘く、甘くささやく声。


 ちゅっ


 そっとまれて、耳にキスされた。



「……っ!?」


「ルー姉ぇ、またな」



 イタズラがうまくいったような笑顔をむけたまま

 後ろにさがって転移魔法陣を発動させた。


 キラキラキラキラ〜♪


 大樹が光を放ち、花火をともなって天高く遠くへ光を届けた。


「……っ!?」


 朝の薄白い青空に舞い上がる花火。

 なにこれ……きれい〜!


 ハッとして先ほどやりとりに真っ赤になる。


 ま、魔法使いの過剰演出っ……!

 いろいろとやりすぎだよーっ。


 わたしは青空の花火を見上げながら笑った。


  

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