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第86話 魔法使いの弟子⑥ 月明かりの中で



 湯浴みをして部屋に戻る。


 コンコンコンッ

 しばらくすると扉をノックして魔術師イグニスが訪れた。



「おじゃましまーす」


「はーい」


 わたしの部屋でイグニスがソファーでくつろぐ。



「ルー姉ぇの部屋変わんねーのな」


「あははっそだね」


 ぐるりと見渡しながらつぶやいた。


 ほとんど模様替えをしない部屋は、小さい頃からあまり変わらない。


 2人でしばらく雑談で花をさかせた。




「それじゃあ、そろそろ眠ろう〜?」


「だなーっ」



 イグニスがそのままソファーにたおれ、眠る姿勢をとる。



「ちょちょちょっと、まってーっ」


「はぁ? まだ何かあるんですか、姉弟子様? オレもう、眠ぃーんですが?」


「そこで寝るのはだーめ。イグニスがベッド使って? わたしがソファーね」


 ベッドをぽんぽん叩いて誘う。


「はぁ……」


「長旅で疲れてるよね? 前に居た場所も、ここからかなり遠いって聞いたし……ベッドでゆっくり休もう? ね?」



 イグニスがジトッとした目をむけてため息をつく。


 え? なにその表情。


「あのさぁ……ルー姉ぇからベッドを奪うとかありえねーし? 師匠とオズ兄ぃにヒドい目にあうのオレなんですけど……?」


「?」


 うーん?

 大魔女様とオズワルドお兄さまが?

 そんなコトするわけないのに。


 ……たぶん、気を使ってくれているのかな。


「そんなこと言わないで〜大丈夫だよ〜。ほら、起きてこっちに来てー?」


「はぁ……」


 ソファーで横になってる腕をぐいぐい引っぱりながら起こす。


 イグニスがかなり眠たそうで目をこすって欠伸をしてる。

 ちょっとだけ可愛いなー。



「よーし、おいでおいで〜」


 手をひいてベッドへーっと。


 ガシッ


「わぁっ」


 ドサッ


 そのまま倒れ込むようにおしたおされた。

 銀色の髪がばさりとベッドに舞う。



「えっいや? ちょ、イグニス!?」


「はいはい、ベッドね〜?」


「は? いや……ちがうくて……!」



 身動きできないよ。


 なんで? おおいかぶさって……?



「自分からベッドに誘って連れこんだくせに……今さらかよ、ルーシアお姉サマ?」


 なげられた言葉に、驚愕して目を見ひらく。



 いや、あのっちがっ

 あああったしかにそうだね……!


 言ってるコトが真実なだけに何も言えない。


 ぶるぶると恥ずかしすぎてふるえる。

 イグニスが笑ってやさしく抱きしめた。



 ぎゅうう〜♪



「あわわっ……」


「いっしょに眠りたかったんだよねー? ルー姉ぇ?……ホントわがままだよなぁ」



 耳に囁かれて、フッと息を吹きかけられる。



「ぎゃっ」


 うわおおぁあいえいっ!?

 ちょ、今何をしたー!? 何をなさいましたかぁぁ!


 真っ赤になりながらジタバタして抵抗する。

 なにこれ逃げられないよっ


「ほら、ちゃんと一緒に眠ってやりますから、おとなしくしろよなぁ〜♪」


 うわぁぁっ


 ま、まるで魔族みたいな顔で見下ろしてる。

 なんでいきなりこんなことを……?



 ――――ふいに幼い頃の記憶がよみがえる。


『俺にちかずくな、あっちにいけ』


 いっしょに眠ることをイヤがるイグニス。

 わたしが一方的にこっそりベッドにもぐりんでた。


 これはその時の仕返し!?



 ……あの頃は……イグニスがよく悪夢でうなされていたから。


 とても心配で……姉弟子だからって、

 ムリやりいっしょに眠ろうとしたんだよね……。


 でも、もしかしたらイグニスにとっては

 幼少期のイヤな思い出として残っているとか……?


 トラウマとかになってたらどうしよー。



「……いぐにず、ごめんねぇ……」


「は?」


「……姉弟子、とてもヒドイことをしました……」


「おい、何であやまる? そして泣くっ!? って、また変な勘違いしてワケがわからないこと考えてんなー? ヤメろぉぉぉー! かんべんしてくれぇーっ!」


「うううっ」


「とにかくいっしょに眠ってやるから、もう泣くな?」


 イグニスからあてられたハンカチで、鼻をすすりながら泣きやんだ。


  

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