第83話 魔法使いの弟子③ 幻の魔女
「これから夕食の仕度するから、ゆっくり温泉とかでくつろいでてー♪」
「わかった。ちょっと夕食までは休むな」
ひらひらと手をふって別々の行動をとる。
トントントンッ カラン♪
『竜のあくび亭』の鐘がなった。
「ただいま、ルーシアさん」
「うぃーす〜っおつかれーさーん」
「おかえりなさい〜♪」
夕食時には、『竜のあくび亭』常連宿泊客、
聖職者リヒトくん、騎士テオドールさんが帰ってきた。
おたがいに挨拶をする。
ぜひご一緒にと、わたしとイグニスと一緒に4人で食事をとることになった。
ポチリ
音楽再生機の魔道具から楽しい音がながれた。
〜♪♪♪
わたしのとなりには来客である魔術師イグニス。
聖職者リヒトくんがそのむかいになり、側にはテオドールさんが席についた。
かちゃかちゃっ お皿をならべた。
食事はシェアできるように取分け方式だ。
大きめのテーブルに椅子。
異種族の大柄なドワーフさんたちも活用できる。
なので、食事をいっぱい並べてゆったりできるので大好きだ。
「じゃあ、とりあえず乾杯♪」
「「「かんぱーい♪」」」
トン、トトン♪
木製の杯をあわせて乾杯した。
「こちらは、わたしの回復薬のお師匠様がいっしょのー。弟弟子のイグニスくんでーす♪」
ぱちぱちぱちぱちっ〜♪
手をたたいて拍手をうちならす。
わたしの客人なので元気にあかるく紹介した。
騎士テオドールさんが
ビーフシチュー食べながら笑顔でうなずく。
「もぐもぐふーん? 弟子なかまかぁ〜?」
「うんうん、そだよー♪」
リヒトくんもあたためたナッツミルクをすこしずつ口にし、耳を傾けながらほほ笑む。
「――お初にお目にかかります。大魔女様の弟子、末席に名を連ねる、魔術師イグニスと申します。以後お見知りおきを。よろしくお願い存じ上げます」
ブハッ
リヒトくんがナッツミルクを吹きだしそうになってむせた。
わわわっちょっとリヒトくん!?
あわてて布巾をつかみなげる様にさしだす。
リヒトくんとテオドールさんが、びっくりした顔になってる。……あ、あれ?
「……お二方様のお話は、後見人である大魔導師オズワルドから伺っております。……この不肖の姉弟子へ、度重なる過分なる心遣いに拝謝いたしております」
深々と頭をさげたイグニス。
今度はわたしがびっくりした。
い、イグニスくん……? どちら様でしょうか?
ポトリ
テオドールさんの口から、ウィンナーが皿の上に落ちた。
3人であぜんとした顔でイグニスを見ている。
「っと、堅苦しい挨拶はここまでかな? 魔術師イグニスだ! よろしくな〜!」
ウィンクして星屑の火花が散る。
ぱぱぱぱーん☆
七色の花火が上がり火花が舞い踊るように回って光りだす。
花びらが楽しそうにゆらめいている。
ジャンジャカジャンジャカ♪
こ、これは……!?
ド派手な光演出と虹色空間!?
前に小説で読んだ《異世界人》の伝える
『フィーバータイム』みたいな感じ?
魔道具の音楽再生機もすこぶる活躍中だ。
「……やべぇ、ツッコミが追いつかねぇ」
「は、はい。僕もなにがなんだか……」
驚愕で目を見開いているテオドールさんと、リヒトくん。
すみません。ウチの弟弟子がご迷惑を……。
あああっ
それにしてもいつの間に一応ちゃんとした?
社交辞令ができるように?
とってもびっくりしたー。
あんな挨拶をしてもらって……。
いえ、わたしがいたらないだけですね。……はい。
パァンッ
「いっただきま〜す!」
イグニスが声をあげた。
ぽかんとしてとまどう3人をスルーして、
感謝の手をあわせ祈りを捧げる。
喜々としてビーフシチューとパンを、ガツガツ食べはじめた。
お腹が空いていたのかすごい食べっぷりだ。
「おう! ルー姉ぇ、これうめーぞ!」
「う、うんおくちにあうようで大変なによりうれしいでございますぅですー」
さっきのびっくりで言葉が変な方向にとんでった。
「……。」
4人でカチャカチャ無言で食事をとる。
なんだか異空間にいるみたいだ。
◇
テオドールさんが、グッと果実水をあおる。
ダンッ
「はあぁぁ〜」
ジョッキをテーブルに大きめに音を立てて置く。
深くため息をついた。
「なぁ、ルーシアちゃんよぉ?」
「は、はい」
テオドールさん……。
どうして目がすわっていますでしょうか……?
「いろいろと聞きたい事があるが……まぁそれはいったん置いておく」
「うーん? うん」
いったんおくんだ。いろいろと何だろう?
とりあえず返事した。
「……それにしても……大魔女様の弟子? どーいうことだ? ぜんぜん知らなくてびっくりしたぜぇー?」
ハァァァ、とため息をはきながら顔をおおう。
「あれ? 言ってませんでしたっけ?」
「お師匠さんは、道具屋の女将ソフィアさんかと勝手に思って……勘違いしてたわ……」
友だちのトーマスくんのお母様ソフィアさんのことだ。
『竜のあくび亭』の元ウェトレスで料理人。
焼き菓子や薬草を交換しあう仲だ。
「あー、ソフィアさんは焼き菓子俱楽部のハーブ友だち……知りあいの方ですよ。ほら、クッキーとかにハーブとか薬草まぜて体に良いやさしいレシピの研究を……」
はっとして、口に手をあてる。
好きな話だったので、つい思わずあつく語りそうになってた。
「あの、ルーシアさん? ……魔法は使えないのでは、なかったのですか?」
リヒトくんがおずおずと話しかける。
サラダがたくさんのこってる。
あまり食事がすすんでいなさそう。
「う、うんっ魔法はぜんぜん素質がなくてね。大魔女さまが回復薬を教えてくださったの」
えへへっとあたまに手をあてる。
はずかしくてやや顔を伏せた。
――すごい秘術や魔法を使う大魔女様。
おじいちゃんのお友だち。
世界を救ったとされる勇者御一行の1人。
『魔法薬を学べば将来食べるに困らないよ』って
大魔女様が善意でおしえてくれた。
お師匠様〜ありがとうございますぅぅ。
今、副業で宿屋の維持費にだいぶ助かってまーす。
「……大魔女様の三大弟子の一人、誰も見たことがない。世界の果てに住むという、《幻の魔女》……深淵の魔法使い……」
「えっ?」
リヒトくんの呟きにおもわず声をあげた。
なんだろう? その隠しキャラみたいな魔女の魔法使い。
……山脈とか越えたトコとか、海底の不思議な洞窟とかにいそう。
「存在していたのですね……」
「幻滅させたみてーで、すまねぇな?」
イグニスがもぎゅもぎゅ食べながら笑った。
リヒトくんがちいさくふるふる頭をふって笑いかえす。
2人を横目で見ながら、はむっとバターで炒めた焼き人参を食べてもぐもぐする。
うん、うまーい。
「…………?」
『大魔女様』の《三大弟子》の1人……?
誰も見たことがない、《幻の魔女》……?
《深淵の魔法使い》……?
「あっ」
「どした? ルーシアちゃん」
わたしはふるふるふるえた。
そんな、いや、まさか……。
でも、大魔女様の三大弟子って……。
「ねぇねぇ、もしかして……『深淵の魔術師』って……。まさかとは思うんだけど……わたしのことだったりってのは……ないよね?」
あははって笑って3人を見た。
勘違いだったらものすごくはずかしいし。うん。
「……。」
「……。」
「……。」
あれ、なんで皆さま方……。
何とも言い難い表情で見てるのかなー?
「……いまさらかよ、ルー姉ぇ」
「えええっ」
いやっいやいやいや〜しらないよー。
魔法が使えない弟子がなんで《幻の魔女》認定されているの?
いつのまにっ!?
「ごめんな。こいつホントこんなんでよ。幻滅するわな~」
イグニスがヤレヤレして笑いながら、申し訳なさの欠片もない言葉を2人になげた。
「ふふふっそんなことないですよ」
「いやっ知らなかったわけだしっくくくっ」
「あははっ♪だよなーっ」
3人がわたしをおきざりにして笑いだす。
「……っ」
うううっ意味がわからない。
……あと何で、何で、幻滅って言葉を2回言った?
言ったのぉぉっイグニスぅー!




