第82話 魔法使いの弟子② 誘惑モンスター
『とてもとてもと〜っても、逢いたかったぜ? 親愛なる姉弟子ルーシアお姉サマ?』
イタズラな顔で、とつぜん耳もとで囁かれた声。
「な、なななななな……!?」
耳をおさえてあわあわする。
宝石のような橙色の瞳。
心底楽しそうな鋭い目つきにおもわずドキッとした。
い、イグニスぅぅーっ!?
人外っぽい容貌にヤラれたらさすがにびっくりするよ。
――――も、もももしかして!?
わたしの知らぬ間に、人を誘惑して誑かす。
ナンパな人泣かせ、誘惑モンスターみたいなのになっちゃったの?
しばらく逢わないあいだにいったいなにがっ
……えっやだ、そんなの悲しすぎる……た、たしかに幼い頃からモテモテですごかったらしいけど?……いつからそんなバケモノにー? カムバーック カムバッーァァァク!! イグニスぅぅぅぅ!!!
「くくくっ、ルー姉ぇ……ホントかわんねー♪」
ぎゅ〜♪
ぶるぶると、ふるえるわたしを抱きしめる。
イグニスがにやにやしながら顔をのぞきこんで観察してた。
「人を泣かすのはよくないよー」
「あ? ……なんだそれ?」
「わるいこと、ダメっぜったい」
「はっ? 意味わかんねーよっ」
バンバンバンバン♪
「……っ!?」
まわりで花火が咲いて舞いちる。
くるくるくると抱きあいながらいっしょに踊る。
くるりとまわって、ポイっと開放された。
「ひぇぇっ」
くるっ たたんっ
投げだされてなんとかふみとどまった。
「あいかわらずドンくさいやつだな〜♪」
「……っ」
べーっと舌をだして笑ってる。
くっ、イグニス……!
もうおこったよ。ぜ、ぜったいに許さない〜。
スキあらば、ギャフンとか言わせてあげるんだからねー。
復讐を心に誓い、ムスッとにらみ上げる。
イグニスが満足げにニヤリと笑った。
しばらくおたがいにらみあいの視線をかわす。
「あっそうだ」
「?」
イグニスが、ポンッとなにかを思いだした。
ガサゴソ ガサゴソ〜
ローブの中を探し回り、
小さな魔法具袋から大きなモノをとりだした。
「っほい、これお土産ね」
「え!?」
ドサッ
大きめの紙袋? なにこれー?
「ルー姉ぇ好きだろ?」
「わぁぁ〜♪」
ガサガサッ ガサゴソ
袋の中に……あっこれ焼き菓子だー。
「う、うれしいっイグニスありがとう〜♪」
すごーく甘いやさしい匂いがするー。
やだやだ〜イグニスったら、手土産のお菓子を用意してくれるなんて。
「♪」
姉弟子はすごーくうれしい♪
うーん、やっぱり復讐とかよくないよね?
おいしそうなドーナツに感謝してここは許してあげよー♪
ん?
きらきらした目でうっとりとしていると、
イグニスがとなりでちいさくうなり声をあげてた。
半目になりつつ呆れたようにイグニスが指摘する。
「あ、あのさぁ……オレがきた時より喜んでねーか?」
びくりっ
「あははっそそそんなことないよ〜」
「ホントかよ……。とりあえず、あとでおやつに食べようぜ〜?」
「うんうん〜♪ あっイグニス、よかったら夕食もどうかなー?」
菓子袋をキッチンに運びつつふり返る。
「ったりめーだろ! ありがたくご馳走になりやがるぜ〜姉弟子様? ルーシアお姉サマ?」
「……。」
うううっ
姉弟子にたいしてちょっと生意気すぎませんか?
でも、しばらくあってなかったけど。
とても元気そうでよかった〜♪