第81話 紅蓮の魔術師 ―イグニス―
神々と剣と魔法の世界。
むか〜しむかし。
勇者は《異世界》からこの地にやってきた。
そして暗黒竜をやっつけた。世界に平和がおとずれた。らしい?
わたしはルーシア。ふつうの村娘。
宿屋『竜のあくび亭』の主人だ。
『竜のあくび亭』
――緑豊かな城下街の外れ、さらに先、ずっとその先にある宿屋だ。
近くには『最後の巨大迷宮』があり観光地場所としてにぎわっている。
突然の旅立ち、星になった『竜殺しの勇者』。
のこされたのは閑古鳥たちに愛される客が来ない宿屋。
けれども、わたしは棲家を守るために宿屋を再開した。
――――それから5ヶ月。今にいたる。
朝の目覚め。光の中、祈りを捧げた。
いろいろあったけど宿屋は無事に5ヶ月を迎えたのだ。
◇
――ある日の午後。
各フロアの掃除、洗濯物をとりこんだ。
食堂で休憩がてら週刊誌を読みつつ茶をのんでひと息ついた。
「さぁ〜ってっと♪」
そろそろキッチンで夕食の準備にとりかかろーかな〜?
スッと席を立つ。
カタカタカタッ
なんの音? 窓がカタカタゆれている。
……風の音かな? 窓もゆれているし、外で大きな旋風が吹いたのかも?
トントントン
ん?
なんの音? 扉をノックする音がきこえた。
「は〜い、今いきますー」
来客かなー、どなたかなー?
扉にかけよりドアノブに手をふれようとした瞬間。
バァンッ
外側にむけて、おもいきり扉が開いた。
「ひぇっ!?」
キラキラキラキラ〜♪
赤い花火をまとった魔法使いがあらわれた。
金色の火の粉がゆらめいて、花びらのように舞い燦めいている。
「よっ! ルー姉ぇ、ひさしぶりぃ〜♪」
「い、イグニスぅぅーっ!?」
ぱぱぱぱーん☆
ウィンクで星をまとった火花が散った。
うわぁっ魔法使いの演出すごーい。
わたしはちょっとのけぞり気味にひいた。
イタズラがうまくいったみたいに、うれしそうにケタケタ笑ってる。
《イグニス》
魔法使い。大魔女さまの弟子。
わたしの弟弟子だ。
キツく鋭い目つき、尖った耳。
人族だけど、かなり印象的なすがただ。
ルビーの赤い宝石や黄色、色とりどりの宝石が耳に散りばめられて、かなり目立つ。
にやりと笑って笑顔をむけた。
「い、イグニス……何でとつぜん!?」
「オズ兄ぃに会ったんだって? 話聞いてさー、オレも逢いたくなったんだー?」
「えっ、あっうん、そう」
「うわっ反応わりぃーなぁ、せっかく遠くから来てやったのによぉ」
すごーくイヤそうに顔をしかめてる。
「えっと、そうじゃなくて」
「いつでも会いに来て良い! オッケー! ウェルカム〜♪って、言ってたってオズ兄ぃから聞いたぞ〜? 同じ兄弟弟子なのにオレはナカマハズレなわけ〜? さみしいなー、かなしいなー、んな態度ってぇー、つれぇーなぁー」
バッ イグニスが顔に手をあてた。
「いっ」
言った、たしかに言った。
前に冒険者ギルドでオズワルドさんに言ったね。
大げさにオイオイと泣く動作をはじめちゃったよー!
ゆらめく炎の精霊たちもいっしょに弱火になり悲しそう。
「いや、いやいや〜……あのね? とつぜんだったし、その……びっくりしただけだよ?」
あははっと申し訳なさげに笑ってみた。
いつでもイイって言ったけど。
なんでいきなり来るの〜? びっくりしたよー。
それに事前に連絡あれば
ちゃんとした、おもてなしだってできるのに。
準備とかね、いろいろあるんだよー。
ほらっ『魔法の伝書鳩』とか。
すぐにとれる連絡手段って……いろいろあるじゃないですか?
魔法使いなら魔法使いらしく、そのあたりをお使いになって
気づかってくれるとうれしいなー。……あははっ……。
「……。」
ちゃんといいわけ……じゃなくて取りつくろう声かけしてるのにー。
魔法使いはまだオイオイ泣く仕草をしている。
「ごめんね? イグニス……はるばる遠くから会いに来てくれたんだよね? ありがとう♪ わたしもすごく会いたかったよ〜?」
「……。」
やや、かなり大げさに感謝と謝罪をのべる。
突然の来訪に驚きすぎて、どうやらとても気分をそこねたようだ。
一応あやまっとこう。…………すこしふに落ちないけれど。
オズお兄様も、ちょっと……いや、かなり大変だけど……。
イグニスもまた違う方向で面倒なときがある。
………魔法使いってなんかむずかしい。
「……っ!?」
うううっイグニスがまだ泣く動作してるよーっ
まだ足りないの?
足りないんですねー!?
も〜っぜんりょくでいくしかないっ
手をひろげておおきな声で笑顔で言った。
「突然でびっくりしたけど、とてもとてもと〜っても! すごーくっイグニスに会えてうれしいなぁ〜♪」
えーいっこれでどうだーっ!?
ピタリっと泣く仕草がやんだ。
おっ?
ゆっくりとイヤ〜な笑顔をうかべながら顔をあげた。
げげげっ!?
「ったく、わかればイイんだよ。わかればよ〜?」
がばっ
すかさず手をひかれ抱きよせられた。
「……っ!?」
ぱぱぱぱーん☆
花火がまわりで弾けて舞い踊り、赤い花びらがぐるぐる2人をとりかこむ。
ひぇっな、なにこれっ!?
魔法使いの過剰演出にただ驚いてみつめあう。
ニヤリとイグニスが笑った。
「とてもとてもと〜っても? 逢いたかったぜ? 親愛なる姉弟子様? ルーシアお姉サマ?」
イタズラな顔でひにくげに、耳もとで囁いた。