第80話 庭園に棲まう門番たち
月夜の晩に、わるどもがつどう。
オレは大盗賊カルロス!
あの『竜のあくび亭』の前にいる!
ようやく探しあてた『竜殺しの勇者』の棲家。
数々の財宝が眠ると語り継がれた場所。
「まさかこんなところにあったとは」
どうみても一見ふつうの屋敷だが、……ここがその場所だと確かな筋から情報は得ている。
「へへへっ親分ようやくですね」
「まぁな、ずいぶんと長い旅だったぜ」
ここへ辿り着くまでの苦節を思い出す。
「さぁて、野郎どもっさっそく行くぜっ!」
「「「おうっ!」」」
「古びた屋敷だが十分気をつけろよ」
遠くに見える屋敷に目を向けながら、言い放つ。なんせあの『竜殺しの勇者』の財宝の眠る屋敷だ。どんな仕掛けがあるかわからねぇ。
門の前に身を潜めながら移動する。
小石を投げて確認し、ちいさな動物を放つ。
「……なにもおこりませんね?」
「探知魔法も無反応ですぜ」
「よしっ! ならば一気に乗り込むまでよ」
子分とともに門をくぐりぬけた。
「なんだ? なにもおこらねぇずいぶんと拍子抜けだな」
「油断は禁物ですぜ〜おやび〜ん」
「ああっわかってらぁ」
叫ぶように返事して夜空を見上げた。あこがれた『竜殺しの勇者』の屋敷がこんなもんかと傷ついてなんかいないぜ。
ふいに見上げた夜空。月に黒い斑点のような影が浮かぶ。
「は? ありゃなんだ?」
ドゴンッ ドカンッ ドカーンッ
「「「ひぃぃぃっ!」」」
上空から巨大な大岩が降ってきた。
ゴロリゴロリっと岩どもが動きだす。
「まずいっコイツは……まさかゴーレムっ!」
《ゴーレム》
泥や石、さまざまな素材で作られる自立式の魔道人形だ。
「おおお、おやびん!?」
「うろたえるなっ! どうやら門番のおでましだ」
さすがは『竜殺しの勇者』の屋敷っそうこなくっちゃなぁ。
……ちったぁ……面白くなってきたぜぇ。
武器をかまえる。
オレの名は大盗賊カルロス!
ドゴォ ゴーレムにやられた。
◇
「テオ先輩〜そろそろ見回りをお願いします」
「ん? もうそんな時間か?」
若い新兵がかけた声にテオドールが振り返る。
「サンキューな♪ んじゃ、ちょっくら行ってくるぜ」
砦から立て掛けられた槍を片手に飛び出した。
木々が生い茂る森の中を、気配を消しながら早足で駆け抜ける。
「ふぁ〜、今日も黒の森は異常なし〜っと……ん?」
あくびをしながらあたりを見回すと森の奥から何かがきこえる。バッと身を伏せ地面に手をつく。これは……地鳴りと……叫び声!?
ゴロゴロ〜ゴロゴロ〜ッ
「「「ぎゃああああああ〜!!」」」
「……っ!?」
ころがる大岩に盗賊たちが追い立てられて全力疾走で逃げ回る。
「なんだこりゃ……賊どもに……ゴーレム!?」
「た、助けてくれぇ……って、テ、テテテオドール!?」
「うぃーす」
ドゴォ ドカンッ ぐるぐる どがっ
「うわぁ、全力かよ……」
山積みにされた賊をみてテオドールがひいた。槍をかまえつつ警戒する。とりかこまれたテオドールのまわりを岩たちがぐるぐるとまわりはじめる。
「あー、こいつら……もしかして『竜のあくび亭』の中庭の岩か?」
岩たちがどすどす跳ねながらころがってる。
ゴロゴロ ゴロゴロ〜
列を組んで森のなかへと岩たちはころがりながらきえてた。
呆気どられながらテオドールがそれを見送る。
「あとは、よろしくってワケか」
山積みになった盗賊団をみつつ『竜のあくび亭』の門番に笑った。
これにて2章side完結です。
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