第79話 銀色の糸 sideオズワルド
「こんにちは〜、会いに来ましたよー」
「!?」
魔術師オズワルドは驚きのあまり硬直した。
――ある日の昼下がり。
魔術師の仕事場に『竜殺しの勇者』の孫娘ルーシアが訪れた。
大魔女さまの弟子、私の妹弟子だ。
赤い頭巾をかぶりながら、手さげカゴをゆらしてる。
気まずそうに目を泳がせながら話す。
「ついでに立ち寄ったんです……いつでも良いといっていたので……」
「……。」
よりにもよって今日か……。
山積みになった書類の前で、私は思わず眉間に皺を寄せた。
「あのー、お忙しい様ですし……また今度……」
「待て」
言葉を言い終えぬうちに言葉を重ねた。
考えるよりも先に言葉が出たことにハッとして私自身が驚く。
――いや、今はそれよりも。
「……話したい事もある。……すこし待ってくれないか?」
「えっ、で、でも」
困った様子をみて気づかいをみせる妹弟子。
引き止めた私と、山積みの書類を交互にみて戸惑っている。
「君の好きな茶菓子を用意しよう」
「はい、喜んで〜♪」
パッと顔をかがやかせて笑顔で返事した。先ほどまでの気づかいはどこへやら。まるで自由気ままな妖精のようだ。
こんなコトもあろうかと、茶菓子を常備していた。
やはりいかなる状況でも用意周到に準備を万全にすることは大事だ。
すぐさま茶と菓子の指示した。
赤い頭巾をはずして、ぱさりと長い銀髪がゆれた。
――その姿はまるで銀色の妖精。幼き頃から変わらぬ存在だ。
「……。」
見慣れた姿にすこし気がゆるみかけたが、気を取り直す。
「すまないが作業をする。気にせず好きにするといい」
「はーい♪ オズお兄様」
シャッ カカカッ パサッ
書類に目を通しながら、印を押したり署名する。
ちらりとむけた視線。
気ままな妖精はキョロキョロと魔道具を見たりさわったり。
本棚の魔導書をぱらぱらとめくり声を上げている。
「……。」
不思議な光景だな。
ここに妖精がいるなど……。
バサバサとこなして書類を切り崩す。
「〜♪」
――ふいにきこえた歌声。
本棚に隠れていたふわふわと浮かぶ妖精たち。
いっしょに小声で歌っている?
……なんてことだ、この部屋に本物の妖精が住み着いていた……?
いつの間に……。
「……っ」
驚愕し動揺つつも、こころを落ち着かせて作業をこなす。
コンコンコンッ
ノックの音とともに運ばれた茶と焼き菓子。
「わぁーい♪ いっただきま〜す♪」
うれしそうな笑顔。
妖精たちと分けあって、いっしょに食べている。
――まるであの庭の大樹のしたでパンケーキをほおばっていた幼子のようだ。
ときおり、それを眺めながら全力で作業を行った。
書類がある程度片付き、茶を飲む。
「ルー?」
大きなソファーに背もたれて、くうくう寝息をたてている。
どうやら妖精たちと遊び疲れて、そのまま眠ってしまったらしい。
「……。」
起こさぬようにそっと近づいて、その寝顔をのぞき見る。
幼き頃より変わらぬ無邪気さその姿。
―――まるで銀色の妖精。
思わず手をのばしてそれを掴みとる。
今も妖精は苦手だ。
気付かれぬよう、そっと銀色の糸にキスをした。




