第77話 青空の下で sideレオンハルト
改稿しました。
【変更点】桑の実→ローズマリー
内容はおおきくかわっていません。
よろしくおねがいします。
風が木々の葉をゆらす。
窓から木漏れ日がゆらめいている。
「ああ、ルーシア」
この王城で。
この菓子がどれほど価値があるのか彼女にはわからない。
いとおしくてそれをながめた。
◇
コンコンコンッ ガチャッ
「レオンハルト様、お茶の時間でございます」
やさしい笑顔で爺やが木製のワゴンを運んできた。
「それと、届いたものをおもちしました」
「……ふむ。ようやく完成したのだな」
おもわず笑みがこぼれた。
ルーシアから届いた『手作りの焼菓子』
押し花がそえられた可愛らしい手紙。
先日のケーキの礼にと焼き菓子が届けられた。
キラキラキラキラ〜♪
『――レオンへ。
先日はケーキをありがとう。
とってもおいしかった〜。
お礼の薬草クッキーです。
ローズマリーでつくったよー♪』
手紙にはかわいいちいさな押し花。
いろいろなインクの文字でかかれている。
キラキラキラキラ〜♪
みているだけで楽しくなるような手紙だ。
「……ふふっ」
そえられている花を指でなぞりながら笑った。
勇者が旅立ち、たがいにぎこちない関係。
あのケーキを持参した日からまた変化し……そしてこの手紙。
いつもの彼女がそこにいた。
『――追記。ローズマリーはね、記憶力もよくなるし、集中力もあっぷ。
肌にもいいんだって〜若返るみたい♪』
手紙のラストにはこまかくローズマリーの効能が書いてある。
オススメ料理レシピや小話も添えられていた。
「はははっ……君は、ほんとうにおもしろい」
世間話をするような手紙にさらに笑った。
「ローズマリーか……」
海のしずくともよばれる聖なる植物。
身近な料理や酒、香水など様々に活用されている薬草だ。
花言葉はたしか……。
『思いで』『追憶』『誠実』
『変わらぬ愛』『私を思って』
――そして『あなたは私をよみがえらせる』
「……ふふっなるほどな」
焼き菓子をみながらおもわず笑った。
どれもとてもよい意味だ。
「ルーシア……ほんとうにいとおしい」
◇
『れおーん。これたべる?』
『いっしょにあそぼー?』
『れおんがげんきないねー』
『……。』
少女がひっきりなしに話しかける。
王宮内でおこったさわぎ。
まわりの臣下たちが毒によって次々とたおれていく。
私は『竜のあくび亭』へ保護され隠された。
『れ〜おん〜ごはーんもおいしいよ?』
『……。』
ごくりとのみこんだ大魔女様のつくった魔法薬。
たべなくても大丈夫になるものだ。
それをのむ僕。
ふまんそうな君。
それでも何度も、何度でもさそわれる。
ガシャンッ
ある日、食事を払いのけた。
『あああっごはんんんっ』
僕と君はたがいにつかみあいになった。
少女がかみついて―――僕はまけた。
『たべることがこわいなら、いっしょにたべよう〜?』
少女がやさしく抱きしめる。
『はい、あーん♪』
『……。』
ゆっくりとあやすようになでられ、さしだされたスプーン。
なんどでもくりかえされる行為。
こぼれた涙。
わたしのこころがとけて、あたたかさがともった。
―――君はわたしをよみがえらせた。
『竜のあくび亭』で過ごす日々。
またふたたび生まれ、変わるように少女と育った。
「……。」
さくりっ
ローズマリーの焼き菓子をくちにする。
ほのかな甘さと素朴な味。とても美味だ。
あの少女の花のようにうれしそうに笑った顔がうかぶ。
それを受けとり心が癒された。
熱い紅茶をのんでいると爺やがほほ笑む。
「レオンハルト様、よろしゅうございましたね」
「……ああ、礼を言うぞ爺。感謝する」
ルーシアにお礼はぜひとも手作りの焼き菓子で。
そう提案したのは爺やだ。
かしこまったものではなく、できるだけいつもの品をと希望した。
「いえいえ〜、爺も大変嬉しゅうございます」
やわらかくほほ笑む爺や。
大魔女様にたすけられ、今はとても元気だ。
コンコンコンッ ガチャリ
「レオンハルト様、そろそろ御時間です」
「……ああ、わかった」
……部下である臣下たちへと返事をかえす。
スッと立ち上がり会議室へと移動する。
◇
ながい渡り廊下を歩きながらマントがなびいた。
ざざっと追うように臣下たちが取りかこむ。
《王国騎士団》と《宮廷魔術師》たちが移動しながら口々に情報をかわす。
スタスタッ スタスタッ
「第2王子殿下が会議への参加を希望しております」
「な、なに〜っそそそれはまことか〜?」
「ええ、ほんとうよ?」
叫び顔をしかめる騎士団に宮廷魔術師がうなずいた。
そのまま私に問いかける。
「さて、レオンハルト様いかがなさいますか?」
「……。」
――先日の『竜のあくび亭』でのゲーム集会。
結果的に見事に私の参加を打ち破った第2王子……。
これはぐうぜんか必然か?
花のように笑う彼女と
そしてあの宿屋へと集う仲間たち。
「良いだろう。参加を許可する」
騎士団が頭を抱えてあげるうめき声。
宮廷魔術師は仄暗い瞳で、冷酷そうな笑みをたたえた。
「では、お手並み拝見といこうか」
びゅうっ
風がおおきくふいた。
見上げれば晴天の空。
青空をその瞳にうつしながら《異世界人》の勇者にねがう。
―――いまだ約束は叶わず果たせずとも……。
どうかこの国をその民を彼女を……天より見守りたまえ。
やさしく風がふいて花びらが舞った。
ああ、ルーシア……。
ハーブクッキーとその手紙。
『思いで』『追憶』『誠実』
『変わらぬ愛』『私を思って』
―――そして『あなたは私をよみがえらせる』
光の中あるきだす。
私は花言葉を胸に抱いて前へとすすんだ。