第76話 踊る会議 〜ギルド会議その後〜
第55話、『3ギルド会議』その後のお話。
※三人称視点になります。
よろしくおねがいします。
踊る会議
「どうだったオズワルド?」
「……ああ、彼女は無事に『竜のあくび亭』へと送りとどけた」
―――テーブルには用意された書類。
冒険者ギルド長のパウロは肩をすくめる。
「よもや、こんなことになろうともな……」
「まったくだ。まさかっ……コレだけの人数を皆で集めて不採用とは……ありえんことだ」
3人が神妙な顔で各々うなずいた。
「まぁ、状況はわかったし何とかなるだろう」
職業ギルド長ブライアンがテーブルの干し肉を噛んだ。
茶で流しこみながら吐息をつく。
「採用を緩和するか……どうするか、だな」
冒険ギルド長パウロが紅茶を丁寧にそそいで、
嗜みながら呟いた。
「そういえば、たしか……ソフィアさん? という方はどうなんだ」
「『竜のあくび亭』に一時働いていたというご婦人か」
魔術師オズワルドが『六つ目ヤギの極上ミルク』を、
紅茶に落とさずそのまま飲みながらこたえる。
「……店の仕事に、先日息子さんが2人とも嫁さんに子どもが産まれたばかりで、かなり忙しいらしい」
「ああ、それはたしかに無理だな」
おそらくは2、3年は無理と考えてもよいだろう。
「…………パウロ、ブライアン」
「ん? なんだオズ?」
「……あらたまって、どうしたんだい?」
「そなたたちの……奥方の御二人は……どうなのだ?」
「は?」
「え……っ!?」
「ドロシー殿やブリジッテ殿は……?」
ドカンッ テーブルがちょっとゆれた。
「おい、オズワルド言っちゃあイケないことあるよなぁ?」
「オズくん、そんなコトは無理だよ〜」
「……。」
「あの2人をキッチンにいれてみろ。……シアちゃんが即ぶっ倒れるぞ。いいか? すぐだぞっ」
「『竜のあくび亭』の仕事これ以上ふやすのはよくないよ〜」
「……。」
ブライアンの叫びにパウロがはげしくうなずいている。
「ならば、屋敷で雇っている者をそのまま……」
オズワルドの発言に二人がさらに気まずそうにする。
「あー、それもすでに交渉したんだが……」
「城下街、外での勤務はよい顔しないね〜」
「……。」
「即、業務内容違反だとか言って交渉の余地もないヤツもいるからなぁ〜わりと難しい」
「まぁ、そうだね。それは仕方がない」
交渉と言う名の命令をする人もいるので、そのへんは交渉前に拒否られても仕方がない状況だ。
「あとは……意外に精霊や妖精を怖がるの者も多くてなぁ」
「……。」
「……子どもでもこわがったりするからね」
「城下街だと、ほとんど見ないからな……ここ最近王城周りの発展もスゲぇし。このあたりと張り合おうってんのはわかるが」
「ハハハッ『最後の巨大迷宮』がすぐ側にあるというのに、ホントに奇妙なことだ」
3人で笑えない話を笑いながらする。
「オズワルドんトコは基本、じーさんやばーさま方を屋敷で採用しているのだろう?」
「………私は、ほぼ屋敷には帰らぬからな」
「なら、お前んとこの使用人も無理って話だよなぁ〜」
やれやれと頭をふりつつため息をもらすブライアン。
ペンを回しながらうなずくパウロ。オズワルドは魔力補充にと貴重なミルクを惜しげもなくカップにそそいだ。
しばし無言のあと、ブライアンがはたと気づいた。
「にしてもオズ、ここ最近仕事し過ぎじゃないのか? ギルドの仕事に、それに王宮からのムリな要望に無茶な要求……いろいろと大丈夫かよ?」
「『竜のあくび亭』の雑務もこなしているのだろう?」
ミルクを飲みながら目線をあわせず呟く。
「……なにも問題はない」
「……。」
「……。」
◇
「とりあえず、ふつうに『竜殺しの勇者』の《狂信的なファン》ではなく、《身分はあまり高すぎず》、《体力は普通》くらいで、《精霊や妖精が大丈夫》であればいいのか?」
「ああ、それでいい」
「だが、しかしその条件がな……」
精霊や妖精に好かれる、冒険者たち。
たいがい『竜殺しの勇者』のファンだ。
そして宿屋に働くくらいなら
魔物の討伐や、迷宮へと冒険にとびだしている。
精霊や妖精が大丈夫な、魔術師たち。
だいたい、身分が高い。
そもそも宿屋に働くくらいなら
魔法の勉強や研究、修行をしている。
身分や体力が大丈夫な一般市民。
たいてい、城下街や人気のギルド繁華街が好き。
わざわざ遠い宿屋に働くくらいなら、
人気の店や近場で働きたい。
「「「……。」」」」
全員が再確認で息をのんだ。
これは……非常に……。
「まずいぞ、想定しているより……」
「ああ、これはかなりよくない状況だ」
「やっかいな案件だぜ……」
『竜のあくび亭』
精霊や妖精が集う特殊な宿屋。
城下街から遠い立地条件。
元屋主が有名人。
この3つが複雑にからんで、
従業員採用のハードルが高くなっている。
たたかい以外の
ありえない高難易度クエスト。
――3人は頭を抱えこむようにうめいた。
お読みいただきありがとうございました。




