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第75話 とある少年の話③



 ――タイミングが合わない時があると言う。


 会いたい時、なぜか会えずにすれ違うばかり。


「《ムリをせず時期を待て》だっけ……」

 

 まえに、どこかで読んだ言葉がうかんだ。


 俺の足はおのずと街はずれの村。

 ルーシアのいる『竜のあくび亭』へとむかっていた。



「ふつうなら、乗りあい馬車で待つ方がいいのかもしれないな」

 

 でも、すこしでも。

 ルーシアのあの宿屋に距離を縮めたくて――歩きだした。


「……。」


 とにかく、待つのはやめよう。

 歩けるところまで行って……。

 

 なぜかあの待合室で待機して、自分が馬車乗ってむかう姿がまったく想像できない。



 それに、もし馬車が再開したら。

 途中で乗せてもらえばいいし。



 ガラガラガラッ



 街の石畳を歩いていると、馬に乗った騎士団や荷馬車。

 どんどん俺を追いこしていく。



 わいわいっ ガヤガヤっ


 街が騒ぎになって人があわただしくバタバタ行き交ってる。

 城壁の門にむかっていると出店も立ちはじめてお祭りさわぎになっていた。


 全ギルドが動くうえ、食材や飲み物、物資などが配給されたり売られたりしている――《商人ギルド》の活躍場だ。



「えーんえーん」


 ん?



 どこからもなくきこえた泣き声。

 ああ、迷子の子ども?

 この騒ぎの中、親御さんとはぐれちゃったのか。


 いくら急いでてもさすがにほっとけないよな。

 急がば回れって言うし。うん。


「大丈夫? これ、たべる?」


 ソフィア母さんのクッキーを手渡しながら迷子に話しかける。すぐさま見回り兵士がいる詰め所へとむかって迷子をあずけた。


 ふたたび騒ぐ雑踏の中を歩きだす。



 ドカッ はしる誰かにぶつかった。



「うわぁっ」



 バシャッ ズボンに誰かの料理タレががかる。

 


「えええっ」



 わんわんっ がぶりっ



「ぎゃあああっ」



 そのまま犬に咬まれた。



「あああっすみませんすみません〜うちの子が〜!」


 すぐさま回復薬で手当してもらった。

 身なりの良い貴婦人が申し訳なさそうにほほ笑んだ。



『――――よろしければ、家まで送りましょうか?』



 俺は首を横にふった。



 城壁の門が解除された。街から出て宿屋をめざしひたすら歩く。


 そろそろ森を抜け、街と村の境い目に差しかかる。

 ルーシアの家はもう少し歩けばすぐそこだ。



 ――ああ、遠く感じていた場所だけれど。


 歩けばちゃんと辿り着ける距離じゃないか。よかったー。

 そういえばルーシアも、時々歩いてると言っていたな。


 『もちろんお菓子のために〜♪』

 

 とか言ってたっけ? はははっ。


 うきだつ心で思わず笑みがこぼれる。



 ざわざわっ ざわざわっ



「……?」



 どこか遠くで騒ぐ声がする。

 

 …………怖い、いったい何が起きてるんだ。

 また何が起きるんだ……!?


 あたりを見回しふりかえる。



 ガサッ


 街道横の木々から黒い何かが飛びだした。

 あれはまさかっ!? なにかの怪物モンスター


 俺はふるえる体で、すぐさま本を胸に抱えて走りだした。

 ―――ルーシアの家へむかって。


 ドカッ


 とうとつに背後から衝撃をうける。


「……っ!?」


 俺の意識は途切れた。



 ◇



 ――見知らぬ天井だ。

 俺は1人寝台の上で目を覚ます。



「……あれ、ここは……?」


「やあ、目が覚めたようだね?」



 気がつくと、城壁門の近くの詰め所にいた。



「大丈夫かい? イノシシに追突されて気を失っていたんだよ」


「……?」


「運がよかったね。抱えていた本がクッションになり受け身をとった状態で助かったようだ。たいしたケガがなくてよかったね」



 すっとむけられた目線の先には本の束。


 汚れ無いように本全体を包んでいた紙袋は若干破れている。


「……?」


 ぼんやりと話をききながら真っ青になった。


 運良く通りがかった騎士団に拾われ詰め所の休憩室に運ばれたらしい。


 俺はこの状況にふるえだした。



 うそだ……振りだし地点に戻った……!?


 ふるえる俺をみて、すぐさま騎士が声をかける。



『――――大丈夫か? すぐに家に帰った方がいい』



 幾度いくどとなくかけつづけられた。

 《帰宅》をうながす言葉。


「すみません、ありがとうございました」


 すぐさまお礼をのべて立ちあがる。

 引きとめる声を背中にあわてて走りだした。


 いそいで近くの乗りあい馬車に行くと、先ほど最後の馬車が出た後だった。



 ◇



 とぼとぼと夜の街道を歩く。


「……。」


 月明かりの中。

 俺はたまらなくなって思わず叫んだ。



「……ルーシアは俺の友だちだっ!」



 わなわなとふるえる手を握りしめ声を出す。


「……会うのくらい、許してくれよっ……」



 スタスタッ スタスタッ



「なんだよ……ホントになんなんだよっ」



 叫びながら、大股でかけだしそうないきおいで歩きだす。


 すれ違いは会う時期じゃないから?

 時間がたてば自然と会えるようになるから?


 ムリせずに時期をまて? だって?


 今のこの状況はそんなもんじゃない。

 にぶい俺でも何となくわかる。


 今、会わなければ。

 ルーシアに2度と会えない気がする。



 すれ違いを重ねて、色々忙しくなって、段々と連絡も取らなくなって……。


 ……頭にありえない妄想がうかんでは消える。

 

 自然と縁が、無自覚にゆっくり切れていく感じがする。



「俺とエレナはルーシアの友だちだっ」



 夜空を見上げると月。

 逢えないルーシアを想う。


 本を胸に抱えて帽子を深くかぶり直す。

 無言でがむしゃらに走り出した。



 ドンッ!


 曲がり角で堅いモノとぶつかり衝撃を受けよろめいた。


「うわぁっ!!?」


「っとと、危ない! すまない、大丈夫かね?」


 鼻をぶつけ涙目になりつつ顔を上げると皺が刻まれた鎧男が立っていた。


「あっすみません……!」


「いやいや、こちらこそすまなったね?……ん!?」


 鎧男がまじまじと俺の顔をみる。


「ああ、やっぱり君は……! 今朝はうちの娘が世話になったね。お菓子までいただいて。なにかお礼を、夕食を一緒にいかがかな?」


「いえ、村にむかわないといけなくて」


「今から?」


「そうです、友人にこれを届けに……」



 事情を聞いた男が個人の馬車を用意した。



 ◇



 トントントンッ 


 カラン♪ 月明かりの中、鐘が鳴った。



「わあっトーマス!? こんな時間にどうしたの?」


「こんばんは……やぁ、ルーシアひさしぶり。これ、エレナから……急な仕事で一緒じゃないけど」


 本の束を手渡した。


「うれしい〜♪ エレナ天使! 女神さま! 大好き〜♪」


「あははっ」



 小躍りしながら本を抱きしめキスしてる。

 すごくうれしそう。よかった。



 おたがい笑いあった後、ルーシアが目線を落とす。



「今日ね、街道でね、大変だったみたいだよー?」


「ん、……そうみたいだね」


「わたしね、今日2人にとってもね、すごくすごーく会いたかったの。……神様にねがいが届いて叶ったのかな〜? うれしいなぁー♪」



 にへへと笑う。

 ルーシアの目が赤い。


 近くの街道でモンスター騒ぎ。やはり不安で怖かったんだろうか?

 それとも何かあったんだろうか?

 ……家で1人、寂しく泣いていたんだろうか?



「うん、俺もエレナも……すごくルーシアに会いたかったよ。……やっと、逢えて良かった」


 思わず涙があふれてこする。

 ……やっぱり今日はムリしてでも会いに来て良かったんだ。


「えっそんなにー? あははっうれしい♪」


 ルーシアの目にも涙がうかんでる。

 でも、明るく振る舞う。何も言わない。いつだってそうだ。


「あああーっエレナにも今すぐ会いたい〜っエレナエレナエレナ〜! なんで今ここにいないの〜?……最近なかなか会えなくて、さみしいんだけど……なんだろー? タイミングがね……」



 すこし肩をおとしたルーシアに声をかける。



「これからは、いつでも会えるようにする」


「え!? なになになに?」


 突然の話にルーシアが目をかがかせた。



「今はまだ内緒」


「わー、教えてよ〜っトーマスいじわる〜!」


「あははっ」



 笑いながら軽めにおたがい腕を押しあいして、お暇の挨拶をした。


 月明かりの中。

 待たせた従者さんにお礼をして馬車へと乗り込んだ。

 


 ◇



 ―――それから数ヶ月後。

 俺は家族と相談して、村の道具の点検と訪問販売をはじめた。

 遠出がめんどうだった方々からたいへん喜ばれた。



 トントントンッ カラン♪ 


『竜のあくび亭』の鐘が鳴る。



「やあ、ルーシア」


「トーマス、いらっしゃいませ〜♪」



 村への訪れ。ルーシアにお弁当をおねがいしてる。


 そのついでにと、エレナとルーシアそして俺。

 3人で城下街で遊ぶ日取りをとりつける。



「じゃあ、今度はこの日で」


「うん、楽しみー♪」


 細く消えるつがりならば、また結べばいい。

 俺はうれしそうな友人ルーシアの笑顔をみて笑った。




 読んでいただきありがとうございました。


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