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第73話 とある少年の話 sideトーマス

トーマスのお話。全3話

読み飛ばしても本編にまったく影響はありません。

よろしくおねがいします。



 ――――俺は世界に狙われている……⁉



 色とりどりの水がザバっと襲いかかった。


 トーマスは戦慄した。

 街はずれの街道で、突然頭上から水が浴びせられた。


 ぴちょ、ぴちょ、ぴちょ……。


 大量の水を浴び、髪が滴る水で落ちていく。

 俺はずぶぬれのままかたまっていた。


「あ〜! すまん、かかっちまったか!」


 頭上から声がかかった。

 見上げれば建物の壁に大きな絵筆を持った男が頭を下げた。

 すぐさま木枠で組まれた足場から降りてくる。


「あっあっ……!」


 わなわなと体がふるえる。


「大丈夫か? すまん水落としちまった!って、よく見たら道具屋んとこのセガレじゃないか⁉」


 ぜんっぜん大丈夫じゃないぃぃ。

 

 服がインクを落としたであろう洗い水で濡れて。

 これはさすがに着替えるしかない。


「あー、こりゃひどい! まったくやっちまったよ……ホントすまねぇ、後で服の代金と詫び持って行くからよぉ」


 俺はすぐさま息をのんだ。



『――とりあえず家に帰りな?』



 湯を浴びて着替えた方がいい。

 絵描きのオジさんは、ヤレヤレと頭をかいて詫びながら帰宅をすすめた。




 まただ……。


 トーマスは頭を抱えた。


 最近むかう先々、不可思議な事件が起こりトラブルが多い……。

 街道や仕入れの出先。何かと足止めを食らったりする。


 ―――コレはもしや、

 《異世界人》の小説によくある、

 世界に狙われている状況なのだろうか?


 ど、どうしてっ

 何故、俺がそんな目に⁉


 色々調査して、ふと気づく。

 この事件クエストは俺とエレナの友だち『ルーシアの家』に向かおうとすると発生するようだ。


「あら、ルーシアちゃんさっき来ていたのよ。道で会わなかったの? やだっすれちがっちゃったのかしら〜?」


 ソフィア母さんは今のところ何度も会っているらしい。


 ―――ルーシアも会いに来ている。


 元気で無事なのは良いが、……会えない。

 もう何度もすれ違いしているし、やっぱり気のせいじゃない。



 ◇


 

 街かどにあるオープンカフェ。

 ぐうぜん出逢った友人エレナとお茶をする。


「ごめんエレナ、またルーシアに会えなかった。

 ムリ、ムリだよ〜! 世界が俺たちの邪魔をするんだー!」


「あのねぇ……。まぁーたそれ? たまたまじゃないの〜」


「いや、偶然じゃないし気のせいじゃない……」


「自分の不運をルーシアのせいにしないでよ?」


 深い紅茶の髪をゆらして、エレナがカラカラと笑った。


 俺とエレナ、そしてルーシア。

 3人は学友だ。


 道具屋の息子で商人の俺と、貴族のエレナ。

 ルーシアは村娘で3人とも身分はさまざまだ。

 けれど、わりと仲は良い。


「あははっ不運スキル発動し過ぎでしょ〜? どんだけ不幸な目にあってるのよー」


「はぁ……」


 明るく笑い飛ばすエレナ。


『私いそがしいから、ルーシアの様子見てきてよ?』


 っと、心配して俺を送りだしているのはエレナだ。


 うううっひどいなぁ。


 ささいな積み重ねだけど、わりとヒドい目にもあってるし……。

 俺のこと、もうちょっといたってくれないか……?



「ふふっしょうがないなぁ……ちょうど会いたかったし、週末に行こうよ? 新刊も何冊か持って行きたいし」


 エレナとルーシアは読書が好きだ。

 本屋さんが遠いルーシアのためにオススメ本を集めている。


 ルーシアは、今は恋愛小説とエッセイに興味あるらしい。

 俺は《異世界人》が書いた物語が大好きでよく読んでいる。

 はぁ〜ファンタジー世界は最高だ。


「あのさぁ、前々から行こうとしてるよね?」


「ん〜、そうだったっけ?」


「覚えてないの?」



 前に何度かエレナともルーシアの家にむかった。


 だがしかし、話題の限定品にそうぐうしたり、福引で大きなプレゼントを渡されたりで引き返してる。


 イベントの上書きですっかり忘れてるみたいだ。


 ――――うん?

 なぜかエレナの時はラッキーなコトが多くないか?

 ……不平等だ……面白くない。


 まぁ、エレナがよろこんでいるなら良いんだけどさ。


「とりあえず、ルーシアに会いにいこう?」


「……ああ、そうだね」


 俺は不安気になりながらもうなずいた。



 ◇



 2人で待ち合わせて、ルーシアの家にむかう。


「♪」


 俺は戦々恐々で、

 エレナはルーシアにひさびさに会えるので上機嫌だ。


 大丈夫だ、今日こそはぜったいに……!


 ん?


 パタタッ くるっぽー


 街道を石畳を歩く。

 そんな俺たちの前に魔法伝書鳩が舞い降りた。

 パラリと手紙をひろげたエレナが笑顔で叫んだ。


「えええっ⁉ な、なんですってぇぇ」


「エ、エレナ?」


「いやぁぁ〜♪っすぐに職場へもどらないとっ」


「エレナ……!」


「ごめーん、トーマス! チャンス到来なの♪ 気が変わらないうちに行かなきゃっホントにごめんね〜っあ、これおねがいね♪」


「うわぁっ」


 ぽむっ


 新刊の本を束ねたかたまり

 ドンッと胸に押し付けられた。


「ああ、ルーシアによろしく言っておいてね♪じゃあ、トーマスまたねーっ」


 うれしそうに笑顔で城下街の職場へかけだしとんでいった。



「エレナ……そんなっ嘘だろ……?」



 ――本の束を抱ながら、街道に取り残された。

 俺は1人、ため息をついた。




 読んでいただきありがとうございました。



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