第5話 森妖精のトマト
「おはよーございます♪」
キッチンで作業しながら声をかけた。
すこしおそめに起きてきた聖職者リヒトくんと、そして二度寝をしていた騎士テオドールさん。
それぞれが食堂へと集まった。
「リヒトくん、昨日はごめんね! ありがとう」
「いえいえ、こちらこそ……色々と甘えてしまって、すみません」
「えーっ気にしないで〜大丈夫だよ? むしろ私の方こそだよ〜」
リヒトくんに昨夜の謝罪とお礼をする。
うううっ先に眠ってしまってホントに申し訳ない。
ペコッペコペコペコッ
おたがいにお礼をしながらひたすらぺこぺこしあう。
「はははっ」
テオドールさんが大笑いした。
◇
焼き立てパンにシチューやサラダ、野菜ジュース。
いつもの定番メニュー。ちょっとおそめの朝食だ。
「極上チーズ届きましたよー。すぐにおだししますか?」
「さっそくアレ、届いたんだ? よしっがつんとこーい」
「はーい♪ リヒトくんも、もし良かったら」
「あ、食べたいです。おねがいできますか?」
わたしはさっそく作業に取り掛かった。
先に前洗いしておいたトマトをサクっと切る。
トースターで焼いて極上チーズを焼き、ササッとのせた。
余熱でチーズが程よくトロ〜リ♪とけて良い感じ。
『森トマト焼きのチーズ和え』のできあがりだ。
「お待たせしましたー♪」
「ひゃあっすげぇうまそうだな〜」
「よい香りですね」
焼きトマトと冷やした生トマト2種類。
3人でわいわいいただいた。
「んんんー!? っぱ、美味いなぁ、この極上チーズ♪……このトマトはいったい何だ……? スゲェめちゃくちゃウマいぞ!」
「これはっ、……美味しいですね」
「あ、これドウゾさんからいただいた『森妖精のトマト』です。妖精さんたちに協力してもらって、食材を研究してるエルフさんたちが特別に作ったトマトみたい?」
テオドールさんの注文を受け、
すぐに食材卸問屋から『極上チーズ』が届けられた。
雑談でチーズとトマトのお話をした。
『トマトですか、丁度良い品がございます。お試しにコチラをどうぞ。生も大変美味しいですよ。お代? いえいえ再度注文時は、またぜひとも〜』
と、商人ドウゾさんから笑顔でいただいた。
「えっエルフたちが、このトマトを?」
「おいおいおい……! エルフになんちゅーもん作らせてんだよ!?
植物が関わると本気出しそうなやつらじゃねぇかっ」
《エルフ》
――森に住む種族だ。
長寿であり自然をこよなく愛しうつくしく、そして強い。弓とか魔法がとくに強い。精霊や妖精たちと語らい楽器も得意。ヒト族よりとがった耳が特徴のとにかくすごい方たちだ。
「《食材研究友の会》のエルフさんたちですか……新派閥の異端の方々と聞きましたが、このような素敵なモノを」
リヒトくんがうっとりとした顔で頬に手をあてる。
「うー、美味しいよう」
『極上チーズ』がとろ〜り溶けのびる。『森妖精のトマト』の果肉あふれる甘酸っぱさを味わいながらじんわりとかみしめる。……人を幸せにする為に神が贈り給うかのような食材だ。だってこんなにも笑顔にしてくれるもの。
森の妖精さんたちとエルフの職人の方々さま、ありがとうございます。
心で手を合わせて感謝の祈りを捧げる。
ほわわ〜んと花が咲いてそのまま花畑だ。
「あははっルーシアさん、さっそくお花畑にいってますね。ん、ホント美味しいです」
「パンにもめちゃくちゃあうなぁ〜。はぁぁ〜ドウゾさ〜ん?……まったく罪深い商人だぜぇ……」
「うん、うんうん〜♪おいしーっ♪」
3人でもぐもぐと笑顔で食べた。
「しばらく毎日コレでいいわ〜。定番メニューによろしく♪」
「ルーシアさん、僕の朝食にもお願いできますか?」
「かしこまり〜♪ あっお休みの日に、これでピザ焼いていいー?」
この組みあわせで食べてみたーい。
「おー、まさにそれだ!」
「ふふふっ、良いですね〜」
「ハハッもう、今から焼いて欲しぃー!って気分だわなー?」
「テオドールさん、やっぱりトマトのこと……す」
「おおーと! おっと? ルーシアちゃんそこまでだ。俺はまだ野菜の実力を図っているだけで? まだ認めてはいないんだよなぁ、コレが」
めちゃめちゃ早口で説得するように話すテオドールさん。
なんでそんなに認めたくないのかなぁ。
「ここまで美味しそうに食べてこの人は……」
「往生際がわるいですよ。テオドールさん?」
リヒトくんがくすくす笑ってる。私もつられて笑った。
テオドールさんはふふん♪っとわたしたちを見たあと
チーズ焼きトマトを食べつつパンとシチューを往復した。
◇
「ごちそーさんっと♪」
朝食がすんで紅茶を飲みつつ、まったりする。
テオドールさんが感謝にと、スッとわたしの手をとった。
「!」
ササッと引っ込めて緊急回避しようとしたが、逃げられない。
ちゅっ♪
すかさず指先にキスされた。
「〜〜〜!?」
一瞬で真っ赤になってしまった。
朝から何をするのですぅぅー?
わたわたしていると2人が笑ってる。
いやいや、笑いごとではないですよこれは。
「あのー、あのですね?」
「うん? うんうん」
「常識的なマナーと大変理解しているのですが……!」
「うんうん」
「えっとね? あまり過度な……こういったふれあいは……は、恥ずかしいので、今後はぜひとも、控えていただきたいのですが……?」
「……。」
「……。」
2人とも何故に黙ーる。
長期宿泊で一緒にいる時間も長いし、変な態度はとりたくないんです。
ただでさえ自意識過剰な発言で、わたしはすでに、はっ恥ずかしいのにーっ
「意識し過ぎじゃね、ルーシアちゃん?」
「わかってるよー! じゃあ、やらないでね?」
「やらないとは言ってねーよ」
「なっ……、なぁ……?」
ワケのわからない返答に、思わずのけぞる。
「マナーだし? ついやっちゃうコトもあるだろうしなー? うん、約束はできないなー?」
両手を上げて頭のうしろへ組みながら椅子へともたれる。
何食わぬ顔で、目は完全にななめ上に流す。
なんなら口笛まで吹きだしそうだ。
「いや、いやいやいや?」
テオドールさんんん! なにをいってるんですか?
「んー、僕も習慣化してることは、ついやってしまうかもしれませんねー、困りました」
指を頬にあて、コテンと首をかしげた天使がそこにいた。
言動はちっとも困ってもなさそうだ。
えええっ……! リヒトくんまでなにをいって……?
どうしてこの状況に参加しましたか?
習慣化していることをついやってしまう?
お礼の指先にキスとか、おやすみなさいのキスとか!?
いやいやいや。それっておかしいよ。
「なー、リヒトもそうだよなー?」
「そうですねー?」
まったく反省してなさそうな2人。
困った顔で棒読みでしゃべりまくってる。
まってまってまって!
昨日より以前はまったくやっていなかったよね?
どーいうことですか、これは!?
「うううーっ」
ジトっとした目をむける。
ニヤニヤと笑うテオドールさんと、やさしく笑うリヒトくん。
な、なんだろう。これは。
とても不利な気がするよ。よくない状況に追い込まれた感じだ。
多勢に無勢ひどいです。
「も、もう、とにかく! ふつうでおねがいしますね……!」
「……。」
「……。」
真っ赤になりながら、叫ぶようにおねがいする。
2人は肩をすくめてやれやれと笑った。
ううう、あまり反省してなさそうだ。