第69話 ギルドの受付係③ 秘密の探究者
気持ちをふるい立たせて案内カウンターへと戻った。
「大変お待たせしました。シアさん」
「は、はいー」
まだ緊張しているのか視線を泳がせながらあわてて返事をしている。
ま、まさか近くに犯罪者がっ
思わずあたりを見回そうとしてギュッと目を閉じた。
だめだ。その可能性があるなら余計に……。
つとめて冷静に振る舞わなきゃだ。
「……先程の品物ですが、いくつか確認事項があります……。よろしければ入手先を教えて頂けないでしょうか?」
「えっと、自宅の鍋で作りました」
「!」
僕の質問に迷う事なく即答でこたえた。
え? 自宅の鍋? ホントに……?
そんなっ
ありえない回答。
僕は動揺する心を抑えて対応する。
「ご自宅の鍋で……なるほど」
気を取り直し、震える手を抑えながら黒色の魔法板のボードで光のメモをする。
「あ! シチューを作っている鍋とかではないですよ? ちゃんとした魔法薬専用鍋です」
「……。」
シアさんの言葉を聞きながらメモをする。
この回答がなるべく……おそらく事件に巻込まれているだろうシアさんにとって……有利な証拠になるようにと願いを込めて書き連ねる。
「では、材料の入手等は……?」
「えっと薬草は、自宅の裏庭とハーブ園ですね〜。ドラゴンの角とかの特殊な材料は家の倉庫にあるヤツとか、幼馴染や知り合いから貰ったりしてます。まぁ、ご近所さん達からのお裾分けが主な感じですね〜」
「自宅のハーブ園……ご近所様からのお裾分け……」
なんて犯罪者なのだろう……。
あんなモノ、この程度の作り方の話で通せると思ったのかな? なんだか許せない。
冒険者ギルドが買取できなかった場合……。
シアさんのこと、彼女を切り捨てるつもりか。
うまく書けなくなっていく僕をシアさんが不安そうに見つめてる。
ドタドタドタッバタン!
うわっ何?
背後から突然大きな音がして振り返る。
「……っ!?」
冒険者ギルドマスターパウロ様が扉を開けて奥の部屋から髪を乱しつつ、ぜぇぜぇと肩で息をしている。
後方の職員全員が驚く中、僕らの案内カウンターに駆けつけた。
「シアちゃん、ごめんね!」
「えっパウロさん、こんにちは?」
「ギルド長……!?」
え? シアさんはギルド長の知り合いの方?
これは一体……⁉
僕は驚愕した。
ギルド長が駆け寄って来て椅子に座る少女にガバッ!っと跪いて手を取る。物凄く混乱しているようだ。
「ごめん! ホントにごめんね!」
「ちょちょっと待ってください。パウロさん、と、とりあえず……落ち着いてっ」
「あああ! 完全に私の落ち度だ。ギルドの依頼なんだけどね。ギルドの依頼じゃないのわかりにくくて、誤解させてごめんね?」
2人の会話のやり取りに驚きながらも僕はハッとした。
ギルド長の言っているコトはもしかして――。
研修マニュアルで読んだ、あの――。
『シークレットクエスト』
何故だかそれが浮かんだ。
え? でもシアさんがどうして……?
「……ギルド長、とりあえず奥へ」
頭を垂れて謝罪するギルド長とシアさんを局長が奥の部屋へと誘導する。
「……。」
な、何がなんだかよくわからないけれど、
とりあえずギルド長と面識もあるみたいだし、上の方々がかけつけたのでひとまず安心だ。
あとで職員にちゃんとした説明があるはず。
うちのギルド長はそんな方だ。
ああ、でもよくない方面じゃなくてホント良かった。
僕はものすごくホッとした。
ドタドタドタドタッ
「しゃああっ! 大罪人はどこだ!」
「け、警備隊なんでっ」
臨時職員の傭兵で構成された警備隊が、完全武装でドタドタと駆け付けた。
なっなんだこれっ!
完全武装の上に大人数⁉
盗賊ギルドの方どういう伝え方したんですか!
しかもよりにもよってギルド警備隊でなく、臨時の傭兵の方々!?
まわりを見渡す傭兵たちが赤ずきんを視覚に捉えるより先に。――僕は立ちふさがるようにあわてて前に出て説明する。
「あの、違います! 色々と誤解です!」
「なんだ⁉ 誰を庇っていやがる! お前も仲間か?」
「ええっ」
ガシッ
胸ぐらを掴まれて持ち上げられた。
「ヘーゼル!」
「おいまてこらぁ! うちの職員に何してんだ!」
「うるさい! さっさと罪人を引き渡せ」
「だから、誤解っです!」
ギリギリと締めつけられて意識が遠のく。
この人たちは傭兵というよりまるで荒くれじゃないか⁉
傭兵の臨時警備隊とギルド職員がいいあってる。
「うわっはなせ! やめろっ」
大騒ぎの中、叫びながらも庇おうとした先輩はすぐに羽交い締めされた。
「どうやら私どもの出番のようですね」
ぶわさっ
魔術師ギルドの臨時スタッフの方が、マントをなびかせて後方から前へと踊り出た。
「なんだ⁉ 貴様も仲間かっ」
「フッ……期間限定で言うならば……それは極めて正しい」
懐から魔杖を取り出して警備隊……傭兵たちへと向けた。
ざわざわっ ざわざわっ
大混乱の中、冒険者ギルドがさらに騒ぎだす。
「おー! 何だ何だ⁉」
「ヤバいお尋ねモノが警備隊と衝突中だってよ」
「完全武装でか⁉……ったく、冒険者ギルドにナメた真似してくれるのは、どこのどいつだよっ」
野次馬と武装した冒険者たちがさらに集まりだした。
「あの眼鏡の魔術師が大罪人ってわけか⁉」
「お待たせ♪ 盗賊ギルド参上! 助っ人に来たわよ〜♪」
「ひょえー、大モノ賞金首が出たんだって!」
大樹を中心とした吹き抜け。
様々な上階から1階の受付カウンターを指さして皆が身を乗りだして大騒ぎしてる。
ヤメてヤメてヤメてッ
僕は何度も呟いた。
……だから、誤解だって言っているのに!
大盛況の冒険者ギルド。
増築、改築、大規模システム変更、連日残業――。
赤ずきんをめぐってトンデモ容疑で大混乱。
傭兵、警備隊、各ギルド、野次馬の冒険者の方々は大騒ぎだ。
ただでさえ仕事が忙しいのに、これ以上仕事を増やさないでっ
「いい加減にして下さい!」
僕は冒険者ギルドの中心で大声で叫んだ。
◇
ぺらりっぺらりっ
書類を整頓しながら僕は仕事をしていた。
ふと吹き抜けのホール中央にある大樹を見た。
――あの日。
冒険者ギルドの副長が
魔法具の拡声機でなんとか場をおさめた。
膨れ上がった熱気と熱狂を……すぐさまかけつけた商人ギルドが臨時屋台を作って、お祭り騒ぎで消化させた。
商人ギルドの手際の良さはホントにすごい。
ふと、赤ずきんが回復薬を手に様子がうかぶ。
「……村娘のシアさん」
冒険者ギルドマスターからの説明は、
とある錬金術師の回復薬を代理でギルドに運んだ少女。
僕は黒板の魔法具をみる。
――自宅の鍋で、庭のハーブ園で、もらった材料で――。
とまどいながらも回復薬作りを丁寧に説明をしていた。
ならば、あれは彼女の作り話?
そしてギルド長との会話。
たどり着く先は『シークレットクエスト』だ。
新人の僕にはそれを、
閲覧することもふれることすらできないのだけれど……。
――僕は冒険者ギルドの受付係。
「どんなことがあっても、ちゃんと支援できるようにしないとね」
この仕事を続けていればいつか必ず……。
僕は書類に目を向けて仕事を再開した。
読んでいただきありがとうございました。




