第59話 道具屋の息子 ―トーマス―
すみません改稿により話数がずれてます。
よろしくおねがいします。
夜明け前、星はまだきらりとちいさく瞬いていた。
うっすらと夜空がだんだんと明るくなっていく。
「ふぁ〜」
眠い目をこすり起きあがる。
「あい、おはよーございます〜」
ずるずるずるずる……。
むにゃむにゃと、ベッドからはいだして洗面台へむかった。
パシャパシャパシャッ
今日はこの石けんにしよっと。
スポンジで充分に石鹸を泡立てた。顔にのせて洗顔する。タオルで水分を押し当て拭きとっていると、はたと、鏡の自分と目があう。
「……。」
しっかりぐっすり寝たせいか、肌の調子もいいし顔色もいいね。目のはれとかも……うん、ちゃんとひいてるし。
あれだけ泣いたから、だいぶ心配かけちゃったよね。
先日、ギルドで話し合いのあとオズワルドさんに『竜のあくび亭』まで送ってもらった。
「でも、まさか転移魔法をつかうなんて……」
馬車で帰ろうとするわたしが迷子になるのを心配して魔法で即帰宅。すごくはやかったのはいいんだけど……おうちに帰るのにそんな大魔法使っていいのかなー?
「……よしっ」
うん、とにかくご厚意には感謝だ。そしてギルド長の方々にも。
光の中で感謝して祈りを捧げた。
◇
朝食の後片付けをして午前中の仕事をさくさくとおえた。
「んん〜、ちょっと休憩しよーっと」
食堂のテーブルに座り情報誌を読む。
ばさりっ
城下街からとてもちかい村ではあるけれど、わりとたすかる情報源だ。
――定期的に発行されるマルクナルド王国のニュースをまとめた貴重なやつだ。
どれどれ……。
野菜が豊作で祭りを開催中。
第二王子が絵画で賞を受賞。
怪盗ミストふたたび。
ゴーレム目撃情報。
ん?
この周辺でゴーレムが出たんだ?
《最後の巨大迷宮》からでてきたのかな?
ふと、中庭の土でよごれた庭ゴーレムを思いだす。
いや、いやいやぁ〜まさか。
……でも、ココから1番近い詰め所周辺。
ううん、そんなことないよ。うちの子たちはそんな遠くまで行かないもん。中庭からでるとこ見たことないし。たぶんちがうと思う。
情報誌にふたたび目を通した。
トンットンットンッ
『竜のあくび亭』の扉をノックする音がした。
カラン♪
鐘の音とともに、帽子をかぶった青年が顔をだす。
「やぁ、ルーシア」
「あっトーマスいらっしゃいませ〜!」
小麦色の髪と若葉色の瞳の青年。
笑顔で『竜のあくび亭』へと訪れた。
道具屋の女将、ソフィアさんの三男。
――学生の時からの友人だ。
「頼んでいた弁当できてる?」
「はーい♪ 3人前だよね?」
朝食を片付けた後、注文されていたお弁当作り昼前にテーブルに並べていた。
バスケットをさしだす。
「お弁当とサンドイッチ、サラダとスープはオマケだから」
「ありがとう助かるよ」
「こちらこそだよ〜!」
『竜のあくび亭』は
宿泊客限定で食事を提供している。
だけど時々、街から村にやってくる友人のトーマス。
個人的に昼食のお弁当の注文を受けていた。
「こっちで食べてくの?」
「今日は、村の人と一緒に食べる予定」
「なるほど〜了解♪」
弁当を受け渡したあと笑いあう。
「あっそうだ、ルーシア」
「ん?」
カバンのポケットをガサゴソとする。
「はい、これ」
ススっと差し出されたチケット。
青い紙。おさかながいっぱい描かれてる。
「わぁ、これなぁに?」
青いチケットに心を踊らさせていると、トーマスが笑った。
「デートのおさそいだよー」
「お、おおおー?」
「今度エレナがそのイベント一緒に行って遊ばないかって」
「!?」
わぁ、エレナから?
トーマスと同じ学友のエレナ。
私の大切な友だちだ。
エレナのおさそいとってもうれしいなぁ♪
「喜んで〜♪都合つけるからいついつ〜?」
「じゃあ、日程なんだけれど……」
手帳を広げてトーマスがいくつか休日を提示する。
2人でのぞき込ながらどうしようかと考えた。
「大変そうなら母さんが1日くらい都合つけてもいいって」
「えええっホントに」
トーマスの言葉にびっくりする。
ああ、ソフィアさん気をつかってくれてるんだ。
3人で遊べるように支援してくれるなんて……。いつでも呼んでいいって言ってたもんね。気持ちだけで、もう胸がなんだかいっぱいになるよー。ホントにありがたいです。
「えっと、たぶん大丈夫だよ。ありがとう」
うれしくて思わずほほ笑んだ。
「仕事都合つけられそう?」
「うん、なんとかなると思う」
仕事や作業を数日かけて前倒しして、その日を、朝と夜以外自由にすれば……今でもふつうに街にはでかけてるし大丈夫だと思う。
ちゃんとリヒトくんやテオドールさん、帰ってきてるならばユリウスにも説明して……。
「……。」
いろいろ日程と仕事の段取りを考えて思案する。
ふと気がつくと、トーマスがジッとみてた。
「ん? どしたのトーマス」
「……。」
わわっ心配そうにこっちをみてる。
なにかついてる? あっ募集の件とかいろいろで落ち込んでいるの顔にでてたかな。
「ううん、なんでもないよ」
頭をふって、すぐさま明るい声で日付けを指す。
「じゃあ、この日でいいかな?」
「おっけー♪ わぁい、楽しみーっ!」
「はははっそうだな」
トーマスがやさしくほほ笑んだ。
たぶん気づかれたけど、何も言わない。
この友人は、いつだってそうだ。
そして、そのかわり一緒にいてくれたり
どこかへ遊びにいったりではげましてくれる。
――エレナとトーマス3人でいつも一緒だ。
カバンとバスケットを手にしたトーマスを扉まで見送る。
「ソフィアさんにも、ありがとうと伝えてね。よろしく♪」
「ああ、わかった」
「気をつけてね」
「うん、ありがとう」
帽子をかぶりなおしトーマスがふり返る。
「じゃあ、またなルーシア」
「トーマス、またね〜♪」
カラン♪
扉を開けて、『竜のあくび亭』を後にする。
何度も手をふりながら笑って見送った。
読んでいただきありがとうございました。