第57話 氷の兄弟子さま
短めですが先にあげておきます。
副題は「お兄さまは心配性」です。
よろしくおねがいします。
冒険者ギルドの応接室。
話し合いの後、3人のギルド長にお礼をして部屋を後にした。
付き添いとして魔術師のオズワルドさんも一緒に廊下でたたずんでいる。
馬車まで案内するつもりなのかな?
さっきの受付カウンター付近まででじゅうぶんなんだけど……。とにかく早めにここから出ないとだね。部外者だし。さっそく移動しなきゃ。
「まて、ルーシア」
「なんですか、オズワルドさん?」
泣き晴らしたまま、ずびずびしてると魔術師のオズワルドさんが話しかけた。
「連れて行く」
「えっ」
「『竜のあくび亭』まで一緒に同行しよう」
「えええっ!?」
オズワルドさん……オズお兄様の突然の申し出に
わたしは驚愕しておおきくのけぞった。
「このあたりは複雑だ……それに迷子になると困るからな」
冷徹で底冷えした目で見おろされる。
「ひぃっ」
うわぁっなにこれー?
めちゃくちゃこわいよーこのお方ぁ。
迷子になるなー、心配かけるなーってこと?
しかも本日2回目の警告。
それ、さっきもきいたやつーっ
「……。」
迷子になる可能性。
疑いがかかるだけでそんな目でにらむなんてひどすぎるよっ。
でも、お、おあいにくさまです。
もう帰るだけだし迷子にもなりませんから。
お手をわずらわせなくてもちゃんと馬車に乗って帰りますから。
あと、かなりお忙しい魔術師ギルド長さまに送っていただくとかとんでもない話んですけどねー? わかってますかねこの人。
こころの中でめちゃくちゃ反論した。
「いや、あの大丈夫です」
「……。」
とりあえず、なるべくやわらか〜く遠慮しておく。
「ルー?」
「うわぁっ」
オズワルドさんが身をかがめて目線をあわせた。
「……っ!?」
ひらかれた目には凍りつきそうなアイスブルーの瞳。
まるで氷の結晶。
宝石のようなその瞳に思わず息をのむ。
青みがかった黒髪がぱさりと一束くずれ落ちて、ゆれた。
切れ長の目からむけられる視線に目がはなせない。
―――美しい氷の魔術師がそこにいた。
「……っ」
「ルー、わかるな?」
ああっこれは……?
顔がくっつきそうなくらい近い距離で見つめられている。ただまっすぐに。
その冷徹な氷の瞳はけしてわたしをのがさない。
「……オズお兄さ……ま……」
「……。」
わたしの問いかけにもただただ動じない。
「……っ」
吐息すらも凍りつきそうな氷の魔術師はひたすらにアイスブルーの瞳をむけている。
「……あの、オズお兄さま……?」
「……。」
ああ〜、これは……。
もしかして……?
むかしから幼い頃からやられてるやつ。
『うん』って返事するまでみつめつづけるやつだ!
ただひたすら、『はい』『いえーす』『わかりました』『オッケー』『了解』『喜んで〜♪』以外認めないやつ。
って、ぜんぶいっしょだぁぁぁ。
ひぇぇぇっ
『送っていく』で『はい』しか選択肢がない状況じゃないの今!?
「あのっひとりでも、大丈夫ですから」
「……。」
「まだ陽もありますし、ギルドからでて馬車に乗るだけですよー?」
「……。」
うわぁっまるできいてないよっ
冒険者施設廊下なに氷の彫像になってるんですかっ
おかしいですよーっ
「ルー、わかるな?」
ひらかれた氷の瞳にふたたび問われる。
「……っ!?」
あああああっ
選択肢、選択肢とはいったい。
これ、前にすすむためにはうなずくしかない。
「……はい、わかりました」
わたしは絶対なる氷の支配者、魔法使いの力に屈した。