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第56話 やさしい涙


 ――しばらくして、笑い声は鎮まり部屋に静寂が訪れる。


 パウロさん、オズワルドさん、ブライアンさん。


 各ギルドマスターが。

 皆さま方がただ黙ってテーブルをかこむ。



 ……?


 パタ、パタとすぐ近くで音がする。


 えっなんだろう? と頬に手をあてると目から雫が落ちて、膝のスカートで雫が弾けてた。


「……っ」


 いつのまにか、目からハラハラと涙が落ちる。


 皆さま方がこんなにも真剣に『竜のあくび亭』の事を考えてくれていたんだ……。



 

 従業員の求人募集にあたって、

《3人のギルドマスターが書類選考と面接する》

 

 話を聞かされた時は正直大げさ過ぎると腹を立てた。

 が、今回の話を聞いて……納得した。


「……ひっ……!…ひっく……!」


 たまらず私は泣きだしてしまった。

 それを見てあわててパウロさんが傍に寄りそう。


「あああっ! 泣かせてしまったねぇ。ほらほら擦らないで、ハンカチで目を当てて」


「ず、ずびまぜん、パウロざん」


 肩を抱かれてよーしよしよしされる。



「うー、何なんでずが……! ひっ皆ざまがだやさじずきでじすぅ!」


 ぐしぐしハンカチ。しゃくりあげながら布を濡らす。布の役割が危うそうになる頃、ブライアンさんのハンカチも追加された。


「まぁ、君のおじいさま……ゼノ殿のお願いだからねぇ。もちろんお願いなんてされてなくても、シアちゃんに勝手協力するからね〜?」


「うううーっ! バウロざぁぁん」


「あと妻のブリジッテもね? シアちゃんの事、すごく心配してるから……」


「…………ブリジッテさんが?」


「全力でやらないとボコボコにされちゃうからね。はははっ」


 パウロさんが、冗談まじりに笑った。


 元冒険者のパウロさんは愛妻家だ。

 ブリジッテさんはめちゃくちゃ強いハーフドワーフだ。

 本気でパウロさんは勝てない。


 明るくていつも笑顔で笑って元気をくれる。わたしのこと心配してくれてたの? 気にかけてくれて……嬉しい。




 それをみてパウロさんの言葉にブライアンさんがうなずいて同感している。


「俺もシアちゃんのことでドロシーにかなり釘を刺されてるからな。不採用続きでかなり心配してる。このていたらくで、すでに口きかない勢いだし……。」


「…………ドロシーさんも?」


 ブライアンさんが心配気に優しくほほ笑んだ。


 男爵家のブライアンさんは愛妻家だ。

 やさしくおっとりとしたドロシーさんは人気者だ。

 ブライアンさんはめちゃくちゃ尻に敷かれてる。


 優しくてお菓子をくれて、時々撫でてくれる。わたしのこと心配してくれてたの? 気にかけてくれて……嬉しい。



「皆んなシアの事が大好きだからな?」


「うわあああぁぁん」


 なんなんですかーこのお方たちはーっ


 もう全部が全部あったかくてうれしいぃ


 パウロさんとブライアンさんが笑いながらよーしよしよしとなぐさめる。



「……ルー、泣くな。なにも心配はいらない」


「オズワルドさん……?」


 魔術師オズワルドさんが、冷気をまとわせゆらりと立ち上がる。


「いずれお前の宿屋に、働く事を希望するモノを……見つけだしてみせる」


 狩る気まんまんの心底冷えた目で見下ろされる。本気の目だ。従業員やバイト希望者を狩りつくさんばかりの目だ。


「ひぃぃっ」


 怖すぎてふるえる。別の意味でも涙がとまらないよ。

 オズワルドさんは妹弟子に対してすこし心配性すぎると思う。……けれども、兄弟子様のやさしさはつたわってる。


「……はい。オズお兄様……」


 ふるえながら何とか返事をする。


 いつもみたいに幼い頃からの名で呼ぶから、わたしも兄弟子さまをそう呼んだ。

 人前だとなんだか恥ずかしいのだけれど。


 オズお兄様が驚いた。

 そして、すこしだけその目元がゆるんだ気がした。


 

 うううっとにかく涙を拭いて前をむかなきゃ。



「皆さま方、ありがとうございます」


 パウロさん、オズワルドさん、ブライアンさん。

 各ギルド長へ笑顔をむけて笑った。




 読んでいただきありがとうございました。

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