第53話 氷雪の魔術師 ―オズワルド―
――『オズワルドさん』は、
泣く子も黙る現魔術師ギルドのマスターだ。
眉間に皺をよせ、睨みつけ、人を絶望へと突き落とす。底冷えした目を向ける。そんな感じで誰にでも対応するため、基本怖がられ恐れらてる。
……けれど一部の女性の方々には人気らしい?
まぁ、そんなオズワルドさんなんだけども……。
私に回復薬を教えてくれた大魔女様の弟子。
なので同じ師匠、弟子どうしなのだ。
《魔法》と《回復薬》で専門分野は違うけれど兄弟子さまだ。
私には魔法の才能は無いのでちょっと羨ましい。
「お、おひさしぶりですオズワルドさん」
「ひさしいなルーシア? 兄弟子である私に顔も見せず、全く連絡も寄越さぬ薄情者め」
わあー、何かすごーく怒っているねー
腕を組み兄弟子のオズワルドさんがコチラをにらんでる。
怖い怖い怖いっ! そして何故だが寒い。
ゴオォォォオォ!!
氷のブリザードが吹きあれてる!?
と、とりあえず、そのすごそうな魔杖をいったん置いてほしい。
命の危険がありそうで泣いて震え上がりそう。
「だ、だって、オズワルドさん? 仕事忙しかったから、なかなか時間がなかったのですー! 仕方なかったのですー!」
ぶるぶると震えあがる心を立ち上がらせ、ひっしに弁解する。
命を大事に! わんわん言い訳をする。
「ふーん? なるほどな」
皮肉げたっぷりな返事をされた。
って、全く信じて無さそうな態度? ピンチか!?
ぐぬぬしている私と不機嫌なオズワルドさん。
そんな2人のやり取りをみてパウロさんが間に入る。
「おいおい、オズワルド。拗ねるのは分かるがそのへんにしときなさいな。シアちゃんが困るだろう?」
「誰がっ……むしろ会いに来ないコイツが悪い……仕事の邪魔も出来ぬし、会おうにも……いつ行ったらわからぬしな……」
くっと顔をそむけ、しどろもどろ苦々しそうに吐き捨てる。
「……。」
……何ですか? なんなんですか? この兄弟子様は。
強引で強気な態度のくせに、気を使ったりよくわからない。会いに来て欲しいけど、自分から行くには難易度が高い……とか、そんな感じ?
なんですかそれっ
「いや、いやいや、会いたいなら会いに来て下さいよ。いつだって大丈夫ですよ?……まぁ、仕事中の時もありますけど、ある程度は対応出来ますし……」
「……。」
しばらく無言でジッとにらみつけられる。
だから、怖いって。
「あと(意外にも)気を使ってくれたんですね?(大変驚きました)連絡の件も(どうして魔法伝書鳩とか使わないのです?)本当にごめんなさい。ありがとうございます?(今後善処しまーす)」
にへらっ
断罪をまぬがれるために、柔かくやわらか〜く笑う。
わたしはありったけの笑顔をむけた。
ギロリッ
……残念! 冷酷な鉄仮面の前では効果はなさそうだ。
「……。」
「……うー」
ううう、めちゃくちゃにらんでるー。
わ、わたし、別に変な返事してないよね?……会いに来なかったこと……とても怒ってる?
でも、いつも贈り物やお礼状やのやり取りは普通にしてるし……。もしかして、心配とか……してくれたのかな?
……というか、会おうと思えばすぐに会える距離だよね?
「……。」
……魔術師ギルドのマスター様ってお仕事忙しいそうだし……同じ兄妹弟子だからと、村娘がおいそれと会いに行ける存在じゃないし。それに……今さら、個人的な手紙とか、何だか気恥ずかしいし……。わたし、どうすればよかったのかな?
まぁ、仕事の邪魔しないよう気遣ってくれた事には……感謝だけど。
意外すぎて、ちょっとびっくり。
……あれだけ宿屋の事、大反対してたのに。
つまり応援してるってコトだよね?
お互いにジッとにらみあいをする。
ぐるぐると思考をめぐらせていると、
―――オズワルドさんが急に視線を落とした。
「コレがお前が作ったものか?」
「はーい、そうですよー」
開き直って若干投げやりに答えた。
テーブルの回復薬の小瓶をつかみ取る。
魔術師オズワルドさんが、ジッと薬を見つめて七色に光り舞う液体を見る。すこし目元がゆるんだ気がした。
「まぁ、よいだろう。こうして金を積んで依頼を出さねば出てこない、薄情者の妹弟子の事は許すとしようか?」
手の中で薬瓶を見つめて光に当てながらくるくると弄んでいる。
え? 依頼主ってもしかして……!?
驚愕過ぎて目を見ひらく。
言ってるコトが真実なだけに何も言えない。
口をパクパクさせていると、パウロさんが笑って肩をすくめた。
◇
「あのー、すみません依頼品も渡した事ですし、職業ギルドにも向かいたいので、お暇したいのですがー」
あのー? 用事あるんで先帰っていいっすか?
な、軽めの雰囲気で気軽に問いかけてみた。
美味しい茶も飲んだし。
顔も見せたしもういいよね? 充分でしょー♪
コレにて解散っ! さらばだっ!
オズワルドさんが冷めた目つきで見下ろした。
「ひぇ! 何なんですか!?」
立ち去り発言、ちょっと早かったっ⁉
絶対零度の氷の嵐が、わたしを容赦なく襲う。
「シアちゃん? ソレには及ばんぞ、ブライアンならすでに呼びつけてあるからな、もうすぐ来るだろう」
「私も来る前には伝書鳩を放ってある」
「って、えええええぇ!?」
ブライアンさんとは職業ギルド長だ。
なに呼び出してんのこの方たちー!?
な、なんの権限があって……あっこの方々も、一応ギルド長だったね。
「こっちから向かいますよっどうして……!?」
「用件は募集の件だろう?……面接受け持つ3人が集まった方が話は早い」
パウロさんがうんうんうなずいている。
そうなのだ。
まだ未熟な私のために『竜のあくび亭』の面接は
後見人と後援者の3人がうけおっている。
冒険者、魔術師、職業の各ギルドマスターがそれぞれが面接をする。
意味がわからないって? 私も意味がわからない。
「お前だと今はこの辺りは、迷子になるかもしれぬしな……ルーシア、周りに迷惑をかけるな」
「なっ……!?」
いやいやいや、まだ迷子になってないよ?
疑わしい容疑だけで罪確定みたいに言わないで!
っと、言いかけた瞬間。
『一人で大丈夫か?……ああ、またな』
冒険者ギルドを案内してくれた、
アイザックさんの明るい笑顔を思いだした。
ゴメンナサイぃぃ。
確かにさっきすでに迷子になってましたぁぁ。
「シアぁぁぁ来たぞー!!」
ブライアンさんが、大熊のような男が扉を激しく叩きながらやって来た。